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45.嫌疑と軟禁


「イバン様はまだ目を覚まされていません」


「...そう」


ここは第一王子宮の自室ではない一室。

ルシアは今、ニキティウスから近況を聞いていた。


レジェス王子のお茶会にて、イバンが昏倒した後、ルシアは出来るだけの応急処置を施した。

一度、気を失ったものの、(かろ)うじてイバンが意識を浮上させてくれたことにより何とか毒を吐き出させることに成功した。


とはいえ、口に少し入れただけで昏倒させるほどの強い毒、どこまで抜くことが出来たか。

ルシアの持つ知識も日本で毒を盛られる機会に出くわすなんてまず、あるはずがなく、全く使えなかった。

まだ王宮の医師の方が詳しいと判断して彼を引き渡した。


結果、もう四日経つがまだイバンは目覚めない。

毒はほとんど摂取されていなかったようで命に別状はないとのこと。

それを聞いてルシアはほっと胸を撫で下ろした。


「今現在は殿下がルシア様の軟禁を解く為に奔走されてますね」


「...忙しいでしょうに。カリストに後何日でもこの部屋に居てあげるから無理はするな、と伝えてちょうだい。貴方まで動けなくなれば意味がないって」


「あ、はい。殿下はあまり睡眠時間も取れてないみたいなのでルシア様がお怒りだってお伝えしときますね。...けど、ルシア様。ルシア様がこうして嫌疑(けんぎ)かけられている状況は僕も含めて皆が許せないんですから何日でも居るなんて言うのは止めてくださいよ」


お道化た風でありながら真剣に言い募るニキティウスにルシアはぎこちなく首肯した。

今、ルシアが居るのは第一王子宮の自室ではない一室。


あの時、一番近くに居て直前にグラスに触れたこともあって真っ先に(うたが)われ、こうして軟禁されることになった。

嫌疑のかかっている者を王子の傍に置く訳にはいかないという理由で自室ではない。

今は一歩も外へ出ることも出来ず、イオンまで疑われないようにする為にこの部屋への出入りは侍女と監視役を命じられたニキティウスのみ。


「まさか、こんなことが起きるなんてね」


何かしら起こりうる状況ではあったが毒を盛られるなんて。

まぁ、ここ最近の料理にもその痕跡はあったようだけど今回使われたのは少し強力過ぎるし、何よりあのパーティーは王妃の意思が含まれていた。

王妃はああも分かりやすい騒ぎを起こすだろうか。


それにルシアは知っていた。

今回のイバンは巻き込まれただけだ。

あの時手渡したレモネードはよくよく思い出して見るとイバンが適当に受け取った物で狙って渡すのは難しい。


そして、それが狙って出来たことだとしたら尚、あれはイバンを狙ってのものではない。

何故なら一度、イバンからグラスを受け取って返す際に私は手渡すグラスを間違えた。

元々、あの毒入りのグラスはルシアが受け取った物ということである。

最初こそ状況に焦燥していたが、落ち着いた後にそれに気付いてからルシアは少なからず冷や汗を掻いた。


「イバンが目覚めたら謝罪を伝えて。私に盛られた毒を飲むような巻き込み方は決してしたくなかったわ」


こんなことに巻き込んで申し訳ないし、本来、自分が飲むはずだった物を知らずとも直接彼にこの手で押し付けてしまった。

それが何よりもルシアを青褪(あおざ)めさせた。


何かに巻き込まれるかもしれないと分かっていた。

それを覚悟してとも伝えた。

けれど、それは迷惑をかけるというだけで死の瀬戸際(せとぎわ)に人を立たせるような巻き込み方は肝が冷えるだけでは済まない。


自分が飲めば良かったなんて命を投げ出すような発言は出来ないと思っていたけれど、人に目の前で代わりに倒れられる方がよっぽど堪えた。

それを分かっているからか、ニキティウスも強く否定をしない。

今回の毒はあまりにも強力。


イバンは前王妃イザベル様の生家の嫡子。

王子と同じくその身体は常人よりも毒に慣らされ耐性がある。

それなのに昏倒するほどの物だった。

ルシアが一滴でも摂取していたら一溜りもなかったのは容易に想像出来る事柄だ。


「ルシア様もそう張り詰めないくださいね。また、明日も報告に来ますんで」


「ええ、ありがとうニキティウス。くれぐれも体調に気を付けてと皆に言っておいてね。勿論、貴方もよ」


「...はい、分かりました。ルシア様もですよ」


ルシアの言葉に少しだけ面喰ったような表情を見せた後、いつものように笑って部屋を出ていったニキティウスを見送ってルシアは頬杖を突き、息を吐く。

今回の犯行は何が目的なのだろうか。

王妃によるものとは少し考えにくい。

どちらにせよ、ここまで大事となってしまったからには何としてでも解決せねばなるまい。

イバンの為にも。


本当に今年は婚約初年度よろしく、騒動の一年だ。

命の危険があるのは一緒でも今回が一番、性質(たち)が悪い。


「とんだ厄年ね」


暫く落ち着いていたと思えば、これだ。

インターバル期間をくれるくらいなら、もう少し間隔を縮めて小分けにしてくれ!

このたった一月程度に集中砲火が過ぎるわ!!


事件の究明に乗り出さなければ。

私はこの世界をファンタジーと認識していたのだけど、これは完全にミステリーでは?


ともあれ、この軟禁状態では何も調べることも出来ない。

早急な解決を、と思ってもあんな風に(しば)しの拘束は(いと)わない、とニキティウスに言った手前、言いづらいが彼らに早く出してもらわねば動けない。


だからある意味、王子が私の軟禁を解く為に奔走しているのは驚いた。

このまま閉じ込めておいて事件解決の為に動く方が私の動向を気にかける必要もなくて幾分も楽だろうに。

ルシアはあまりにも張り詰めて緊迫したこの状況に空を仰いだのだった。


それから二日後、イバンが目覚めたという報告と共にルシアの嫌疑も王子により晴らされ軟禁が解かれたのだった。


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