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467.それでは改めて、目的の鍛冶屋へ(前編)


――強運か、豪運か。

どちらにせよ、偶然と言うには出来過ぎているぐらいの引きによって、出会った鍛冶師見習いの青年ニカノールの案内という、今、最も有用な存在を引き入れることに成功した。

このことに何も思わない訳でもなかったが、ルシアはそこそこ満足そうに不敵な笑みを素に近いものに変えたところであった。

ルシアの勢いに圧されるまま、諾を口にしたニカノールだったが、すぐに思い直したようにルシアに勝る勢いでルシアに詰め寄ったかと思うと言い放つようにその言葉を放ったのは。


『あ、あー。う、うん、そうだね。案内するって言ったの俺だから連れてくけどさ、でも!......そう、明日!明日にしよう!ね!俺、今日は休みだし!ね!』


今度はルシアが、そして王子たちがニカノールのその勢いに上半身を(わず)かに後ろへ引く番であった。

こちらはルシアの不敵な笑みとは違い、その鬼気迫るような必至さが原因である。

それだけ、ニカノールは分かりやすく焦りを見せて、押し切ろうとしていた。

そうして、これまたルシアの方が首を縦に振ることになったのであった。


後で落ち着いた、というにはげんなりと眉を下げたままだったニカノール曰く、鍛冶師セルゲイの振る仕事はそれはもう、半端なく、忙しなく動きものばかりで日の暮れの頃には中々に疲労困憊(こんぱい)になるのだという。

楽しいし、実になるのは事実だが、休みの日はしっかりと休みたい、と。

今からでも行けば、確実に扱き使われるとのこと。

それは嫌だ、と。


それはもう、切実だったと言っておく。

ニカノールの苦労が垣間見える瞬間であった。

何故か、イオンがとても共感する、という面持ちで静かに(うなず)いていたのを見て、ルシアは自然にイオンの足を思い切り踏んだ。

ぐぅ、と僅かに(うめ)いたイオンのことは完全に無視である。

まぁ、そんな紆余曲折ありながらもルシアたちはニカノールの言葉を受け入れて、目的の鍛冶屋に行くのは明日に伸ばし、本日はニカノールの当初の予定だっただろう近くの店を見て回ることにしたのだった。


気を取り直したニカノールが案内してくれた店はどれもがルシアたちの希望に最大限沿うような品を扱う店舗であった。

さすがは住人、それも職人なのだ。

よく知っている。

彼もまた、地元、職人、界隈に少しの差違はあれど、何かしら特有の情報網を持っているということだろう。

丁度、昼食も良い頃にニカノールのおすすめだという食堂にも足を運んだのだが、地元の者が客の多くを()めるその食堂は安く、そして美味しかった。

本当にとても頼もしい案内人を見つけたものだ、とルシアは彼が例の鍛冶師見習いであることを抜きにしても、良い出会いだったと笑みを浮かべたのだった。


こうして、ルシアたちは定番とは少し違うものの、良いものを手に入れて、宿に帰り着いた。

ニカノールも一緒だったのは晩の食事に誘ったからである。

案内の礼も兼ねてのそれは一般的に見れば、そこそこ豪華でその間も他愛もない談笑をしながら、街中を案内してもらっていた時と同じようにニカノールから様々な話を聞いたのだった。



ーーーーー

夕食も終え、ニカノールに明日、宿の前で集合し、鍛冶屋へと連れて行ってもらうことを約束して、ルシアは王子と共に就寝の準備をして、寝室へと入った。

ベッドに(もぐ)る際の気分は(のど)まででかかった存在を思い出す為に頭を悩ませていた昨日とは大違いだった。

まだ今回の一番の厄介事でありそうな鍛冶師セルゲイの元へ辿り着いていないのにも関わらず、それなりにすっきりしていたのはあれだけ頭を悩ませていた原因があっさりと解決したからだろう。

まぁ、自分で思い出したかったか、と言われれば、そうなのだが、ずっと据わりの悪い心地で居るよりはずっとマシである。

多くの人の行き交う中、街中でばったり袖触れ合ったのがその人物、だなんて、張っていた気が緩んだのと同時にあの散々悩まされていた時間が徒労に終わったと知って、どっと疲れが肩に圧し掛かったような感覚に襲われたけども。


けれど、ほぼ一日、街を歩いて回ったことも含めたその疲労感が程良く、ルシアを眠りに誘い、最近、抱えるだけ抱えて上手く処理し切れていないままの悩み事を思い出すこともなく、ルシアはぐっすりと夜を越えたのであった。

だから、ルシアはあの夜の静けさが今夜もそうであったのか、それを知らない。

――そうして、ルシアが夢も見ない眠りに就いている間に過ぎた夜は朝に代わって、ルシアは初日のように部屋へ零れ落ちる柔い日の光で(まぶた)を持ち上げたのである。


「おはよう、ニカ。今日はよろしくお願いね」


すっきりとした目覚めで起きたルシアは朝食を終えて、出掛ける準備も終えて、王子と共に宿を出た。

宿の前で待っているとそうしないうちに通りの向こうからやってくる昨日知り合ったばかりにしては談笑の中で色々なことを知った青年がににこやかに、ただ少しだけ眠そうに現れ、ルシアは彼が近くまできたところで朝の挨拶と共に声をかけたのだった。

ニカノールはそんなルシアの声に視線をこちらに向けて、にこりと笑う。

そして、次の瞬間に眉を下げた。


「――ねぇ、ほんとに行くの?」


「ああ、案内してくれるか」


最終も最終、これが最後のチャンスとばかりの様子で尋ねたニカノールにルシアが答えるまでもなく、王子が頷いた。

それを見て、ニカノールはさらに眉を下げる。

......本当にそれ以外の表情は出来ないのかというくらいににこにこしていた彼は彼の師匠のことに関してだけはおすすめしないらしい。

まぁ、口でそう言ったとしても結局、ニカノールはただ腕は良い、と語尾に付けるのだが。

おすすめしたいのか、したくないのか、さぞや心境は複雑なのだろう。


「...まぁ、良いけどね。でも、昨日も言ったけど俺が出来るのは店まで案内することだけだよ。そこからは自力でね。ほんとに。助力は絶対に期待しないでね」


「元よりそのつもりだ。気難しい方だとは聞いている」


念押しに念押し、尚もニカノールは言葉を続けるも折れないのはルシアだけでなく、王子もである。

ばっさりと言い切った王子にニカノールはがっくりと肩を大袈裟に落としてから背伸びする。

そして、真っ直ぐルシアたちに向き直った。


「うーん、分かった。じゃあ、行こうよ。多分、今から行けば丁度良いくらいだから」


やっと、吹っ切れたかのように――似たような表情を浮かべる者を数人知っている為にやや諦めの混じったものだと分かる空元気ならぬ、やや投げやりなニカノールにルシアは苦笑しながらも彼の案内に付いて、先日、退却せざるを得なかった惑わしの小路へと向かうのであった。


明日の投稿はどうなるか、分からないとだけ先に言っておきますね。

どうであれ、投稿若しくは活動報告は上げると思います。

それでは皆様、新年度が始まりますが頑張って!!

お身体にはお気を付けてね。


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