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463.ペンダントの作り手と相応しい持ち主


「――彼女に何の用だ」


にこにこと人当たりの良い笑みを浮かべる青年とその青年を静かに見つめ、対峙するルシアという、決してテンポの良いとは言えないその会話は傍から見れば、少々、普通の雑談のようには見えないだろう。

それはすぐ傍で見ているイオンとクストディオも同様に違いない。

というか、会話が聞こえているからこそ、とも思う。


それは青年が満面の笑みで悪い人のようには見えないものの、話しかけ方があまりにも突然だったといこともあるし、その内容もまた意味深さを演出するようなものだったからだ。

何か、理由があってルシアに話しかけてきたのではないか、言葉にしていないところに真意を置いているのではないか、と思わせるような。

まぁ、青年がそれを意図してのことなのかは分からないけれど。

ルシアとしてはアナタラクシと同じタイプだと感じ取った時点でこの青年も本人はそんなつもりはないのに周囲を(あお)ってしまうタイプではないだろうか、と勝手に判断していた。


ともあれ、ルシアと青年のその様子は通りの向こうの店からもばっちりと見えていた。

普通の雑談に見えないということはつまり、そういうことである。

即座に気付いた王子が長い足を活かした移動速度でルシアと青年の間に割り込んだ。

そして、言ったのが先の言葉である。

低く、威嚇若しくは牽制の声だったと言っておこう。


しかし、それを向けられている当の本人――藤色の瞳を持った青年はきょとりとその瞳を(またた)かせただけだった。

ルシアもルシアで王子のその過保護と言わんばかりの様子に呆れを通り越して最早、諦念の篭った目を王子に向ける。

確かに雑談というより対峙するように立っていた自分も悪かったとも思うが、行動が早過ぎるだろう。

いや、本当に早いというなら青年が話しかけてきた時点で戻ってきていただろうから、やっぱり、もう少し配慮しておくべきだったかもしれない。

ルシアはほう、と息を吐いて、再び王子を見上げた。


「カリスト、大丈夫よ。彼とは少し雑談をしていただけなの。何もされていないわ」


ルシアはまずは今の会話にもならない状況を打破すべくそう言葉を紡いだ。

長年、こんなことを続けてくれば、言葉は既にどういう風に言うのが一番、効果的か分かってくる。

そうした結果、言い訳でもあるような、(なだ)めているようでもあるような、総合して説得染みてくるのは不思議なことである。

とはいえ、(つと)めて冷静に言い聞かせるようにルシアが現にイオンたちが止めに入っていないでしょう?と続ければ、王子は渋々ながらも青年に圧をかけるのを止めた。

まぁ、ルシアよりも一歩前で対峙しているのは変わりないが。


「あー、お嬢さんの連れの人?ごめんね、ちょっと気になっちゃって声かけただけなの。何も無理じいしたり、危ない目に見せようとか思ってる訳じゃないからそんな顔しないでよ、お兄さん」


「...気になった?」


「うん、お嬢さんがそれを日の光に透かしてたからさー」


王子が一応、落ち着いたらしいことを受けて、黙って状況を眺めていた青年は王子に向けて、口を開いた。

先程のルシアよりも詳しい説明であるそれは青年の口調のせいか、ルシアの言葉よりもとても軽く聞こえる。

言い終えた青年に王子は一部、気にかかった部分を繰り返した。

青年はそれに(うなず)いて、ルシアの手元へと目を降ろす。

王子もつられて、ルシアの手の中を覗き込んで、それが何か確認した。


そこにあるのはやはり、あのペンダントである。

棚に戻してもいなければ、青年が声をかけてくる直前からずっとルシアの手中に納まったままだ。

青年の一言一言を思えば、これがルシアに声をかけたきっかけなのだろう。

しかし、そこまでこのペンダントにこだわる理由は?

ルシアはそう疑問を問いかけるように青年へと視線を向けた。


「実はそれね、俺が作ったんだよね」


「......貴方がこれを?」


ルシアの視線の意味が正確に伝わったのだろう、青年はまたころころとした笑い声を立てながら、そう言った。

ルシアは目を丸くして、真意を探るように青年の顔をまじまじと見た。

器用に細かい作業を(こな)しそうではあるが、こういったものを作るようにも見えなかったから。

でも、作り手であるならば、自分に声をかけてきたのも理由としては可笑しくない。


「うん、そう。俺の...まぁ、小遣い稼ぎみたいな?」


あとは趣味も兼ねてる、と青年はこうした雑貨屋の幾つかに自分の作った細々したものを(おろ)しているのだ、と語った。

そして、ルシアが手に取ったこれがここ最近では一番の自信作であったことも。

確かに無骨でシンプルな造りのペンダント。

けれど、無駄な装飾がない代わりにそのプレートやガラス玉の形はほとんど歪みがなく、綺麗なものだった。

腕は悪くないのだろう。

少なくとも、数あるうちでルシアの目は惹いたのだ。


「それでさ、つい声かけちゃって。――どう、気に入った?」


にかっと笑い、青年はルシアに向けて、そう言った。

その彼の瞳は何処かルシアの返事を待っているように、催促するようにきらきらと輝く。

ルシアは何度目かになる自分の手元のそれを見下ろした。

そんな暇がなかったとはいえ、棚に戻そうとしなかったそれをどう思ったのか、答えはほとんど出ているようなものである。


「気に入った、と思うわ。と、言っても私はこれを自分の物にしたいのではないのだけれど」


「あれ、そうなの?」


ルシアは少し曖昧な言葉で、それでも青年の問いに頷いて返した。

手の中で緑色がきらりと揺れる。

しかし、ルシアは続けざまに自分の為に欲しいのではない、と告げた。

てっきり、ルシア自身が欲しがっていたと思っていたのだろう青年はきょとりと目を瞬かせて、ルシアに問い返した。

ルシアは首肯する。


「ええ、お土産よ。多分、それが一番、良い気がするの」


何が、という理由がある訳ではないが、ルシアは思ったままを口にした。

そもそも元々、ルシアがこの雑貨屋に立ち寄った理由もお土産なのだ。

確かに目を惹かれたのも欲しいのも事実だが、ルシアはこのペンダントを自分の手元に置いておきたいとは思わなかった。

――ただ、彼が好きだと聞いた小動物の小さな置物よりもずっと彼に相応(ふさわ)しいお土産のように思ったのだ。

やっぱり、どうしてそう思ったのかは感覚的な部分過ぎて説明出来ないのだが。

ルシアは少しだけ内心で自分の心境に首を(かし)げたのだった。


ごめんなさい、最近ずっと1時ですね...。

あと、まだ名前の出てこない新キャラ。

次話にはさすがに出ると思うので。


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