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455.道に惑うは語り草(後編)


「カリスト様」


「ああ、どうだった」


ルシアのあからさまな話の逸らし方に王子は黙って見降ろしてきたものの、にっこりとした微笑みを貼り付けたルシアに、また声をかけてきたオズバルドに、それ以上をルシアに追求することなく、王子は正面へと向き直った。

事実、オズバルドが戻ってくるのを待つ間の雑談でしかなかったものだ、王子がオズバルドへ声を問いかけたことでイオンもそれ以上を言うことはない。

強引で後々、蒸し返される可能性はあるものの、思惑通りに問い(ただ)されることなく、話さずに済んだルシアは内心でほっと安堵した。

同時に意識を切り替えて、オズバルドへ意識を向けた。


「はい、聞いていた通り、少々複雑な造りのようで曲がり角や十字路が多く、迷路のようだとのことです。ですが、店主が気を利かせてくださり、簡易的に地図を書いてもらいました。こちらがそうです」


「それは助かるな」


王子の呼びかけに(うなず)いたオズバルドは装飾品店の店主から聞いてきたらしい内容と共に一枚の紙きれを差し出した。

それを王子は受け取りながら、オズバルドに(ねぎら)いの言葉をかける。

ルシアも同様にオズバルドへ声をかけながら、王子の手元にあるその紙きれを覗き込んだ。


ルシアでも見やすいように低めの位置で広げられたその紙きれにはまさに迷路のように入り組んだ小路を表しているのだろう線の群れの中を進む一本の線が描かれていた。

その線の始まりの位置が大きな通路にあり、そのすぐ横には四角形が一つ。

それだけでも充分、ルシアにはそれがメインロードとこの簡易地図をくれた装飾品店のことだと判別出来た。

確かに簡易的なものだが、とても分かりやすくて本当に有り(がた)い。


「......迷路ね。これは迷子になりそうだわ」


「...ああ、イバンの忠告もあったがちゃんと尋ねて正解だったな。これなしでは早々に迷子になっていただろう」


ルシアはしっかりと読み込むように地図全体――要は描かれている範囲内での小路の群衆の全容を頭に叩き入れながら、ぽつりとそう溢したのはある意味、必然であった。

オズバルドは少々複雑、とこの小路の群れを表したが、ルシアにはきちんと碁盤目に沿ったように平行と垂直を保っているこれらが斜めや曲線、最早、何でもありだったアフマル()()アル・タセェ(九番目)の旧路地よりも迷路そのもののように見えたのだ。

いや、縦軸と横軸がしっかりとしているからこそ、前世の迷路を思い出して、そう思うのかもしれない。


確かに鍛冶屋までのルートを記載している為に目的地へ行く分にはそこまで複雑ではない。

だが、全体として見た時、これを地図なしで行くのには(いささ)か無謀であると言える。

勿論、覚えようとすれば覚えられない訳ではない。

近隣住民は無論のこと、この小路の先で暮らす者たちはこれらを熟知し、地図なしでも行き来が出来るに違いない。

けれども、ルシアたちは初見の上に案内人も居ない他国の者だ。

何もなしで飛び込んでいたなら、それは自殺行為だっただろう。

それがよく解ったらしい王子はルシアの溢した呟きに同意して、再度、オズバルドに労いの言葉をかけていた。


「もしかしたら、出てこれなくなっていたかもしれないわね」


「あ、ルシア様。それなんですが...」


「オズ?」


それじゃもう、迷路というより迷宮だ。

実際にそんな状況下に(おちい)ったとしたら恐ろしいことこの上ない。

一歩、間違えばそうなっていたかもしれない、ルシアがそう思って、言い溢した時だった。

オズバルドが口を挟むようにルシアの名を呼んだのは。

ルシアは目を(またた)かせて、オズバルドへ視線を向ける。


そこには少し言いづらそうに、というよりは言っても良いものか、考え(あぐ)ねるオズバルドの姿があった。

ルシアは首を(かし)げる。

けれども、その一言で王子の視線も自分に向けられ、続きを促されているのが分かったオズバルドは言いづらそうな様子が残る下げた眉のままで口を開いた。


「これは装飾品店の店主にこれを頂く際、共に告げられた話なのですが――」


そうして、オズバルドが語り出したのは今からルシアたちが通ろうとしている迷路のような小路に伝わる話であった。



ーーーーー

まず、ルシアが思った近隣住民は無論のこと、この小路の先で暮らす者たちはこれらを熟知し、地図なしでも行き来が出来るに違いない、というのは間違いであるらしい。

とは言っても、全てが間違いではなく、近隣住民は、というところ。

何でも、あの小路を通る者はあれを抜けた先の区域に住む者だけなのだという。

それは近隣住民であってもあの小路は迷うから、ということだった。

長年、小路の傍で住んでいようとそれは変わらない。

これがこのスターリの街の住民たちの共通認識であるらしかった。


装飾品店の店主が鍛冶屋まで抜けるルートを知っていたのは(ひとえ)に昔、店主はあちらで住んでいたのだという。

道は変わっていないらしいが、もう長いこと通ってはいないとのことだった。

それでも、店主はオズバルドにこう言ったらしい。


『下手なところに入り込んで万が一があったらいけねぇと思って、順路は教えてやったがね。ただ、そのまま行ってもその鍛冶屋へは行き着かないと思うよ』


何か、確信のあるような断言するような言葉にオズバルドはどうしてか、と問い返したという。

そうして、聞いたのが先程の話。

抜けた先に住まう者以外は迷う小路の話であったのだと。


店主(いわ)く、あの小路の群衆は惑わしの小路、と近隣住民では呼ばれているらしい。

言葉通り、目的地に辿り着けないのだと。

その理由は小路全体にそういう(たぐ)いの魔法がかけられている、とのことだった。

だから、外部の者はあちらの住民と共にでなければ、抜けられないらしい。

尤も、その魔法自体はそれほど強いものではなく、順路を知っていれば、抜けられることもあるのだという。

安定した方法ではないので、結果的にあちらの住民以外が常用することはなくなったらしかった。


「――そんな小路なので、あちらの住民に案内を頼んだ方が良い、とのことでしたが、本日は誰もこちらに出てきていないらしく。出来れば、日を改めた方が良い、と。しかし、小路自体にかかった魔法には帰還させる為の機能があるらしく、惑わせはしますが、引き返せばすぐにこの入口へと出ては来れるようです。お陰で好奇心旺盛の子供をきつく見張らずとも良いのだとか。とはいえ、この話の真偽がどの程度のものか、俺には...」


「いや、充分だ。それにしても、惑わしの小路か...」


最後に店主の忠告めいた言葉と自身の考えで話を締め(くく)ったオズバルドに王子が受け答えるのを聞きながら、ルシアもまた、ふむ、と考え込んでいた。

この話をオズバルドが言いづらそうにしていたのは最後の言葉が理由だろう。

確かにオズバルドの言いたいことは尤もであった。

小路全体にかけられた惑わしの魔法。


この世界、魔法は確かに存在するし、ルシアも少なからず、触れてきているが、決して数は多くないのだ。

それほど強くない、とはいえ、こんな大規模、魔法士の治めるシーカーであるのなら、()だしもスカラーで、となると真偽を疑うのも無理もなかった。

そのくらい、魔法はこの世界の住人に馴染みのないものだった。


と、いうのも、そもそも魔力を持つ者が少数なのである。

その上で大規模若しくは自在に使ってみせる者はほんの一握り。

基本的にはイオンのように火を水を出せるくらいのもの、それが魔法の認識である。

まぁ、中には高度なことをやって退()ける者も居るので、一概には言えないが。

だから、タクリードでスズが容易に使ってみせていたが、本来、あれは桁違いなのだ。


しかし、わざわざ忠告されるというのは...。

作中でこの小路について、触れられてはいなかった。

それは物語の流れの中で出会った人物が鍛冶師の老爺の見習いであり、同行していたからである、とルシアは考えていた。

確かにその同行者は鍛冶屋までの道中で通った道を迷いやすい道だ、と告げていた。


「取り敢えず、地図通りに行ってみるか」


さて、どうしたものか。

前情報はなし、そのまま行くのは少々、無謀。

しかし、ルシアはそう思ったのと王子が口を開いたのはほぼ同時であった。

ルシアは顔を上げて、王子を見やる。

王子もまた、こちらを見下ろしており、視線がかち合った。


「迷っても戻ってはこれるんだろう。なら、試しに入る分には良いと思うが」


どうせ、他に用事がある訳でもない、そう言い切った王子にルシアは数秒、固まって、最終的に苦笑を溢した。

見れば、護衛四名も似たような表情を浮かべていた。

ああ、これも悪影響だったりして。

そんなことを思いながら、ルシアはそうね、と王子に頷き、小路へ向けて、足を踏み出したのであった。


すみません、1時に合いませんで。

最近、パソコンの調子が良くなくてですね...まぁ、安物なので仕方がないと言えば、仕方がないんですけども。

投稿時間まで気にしてみてくださっている方には本当に申し訳ありません...(土下座)


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