452.鍛冶屋に向かって
「おはようございます、ルシア様」
「ええ、おはよう、フォティア。良い天気ね」
「はい、そうですね。カリスト様は先に外でお待ちですよ」
続きの間で着替えた後、王子と共に朝食を終えたルシアは外へ出る為に軽く服装を整える為に部屋へと戻っていた。
髪型をチェックしていたイオンに良し、を貰ったルシアが居間へと出た時である。
ノックと共に姿を現したのは王子の側近の一人であるフォティアだった。
朝食の場では会わなかった彼の朝の挨拶にルシアは窓から外の様子を見ながら、にこやかに笑い、返答する。
フォティアもそれに同意を返し、ここに来た理由を口にした。
どうやら、王子の所在を伝えに来たらしい。
部屋で待たずにそのまま外に出て来い、と言うことだろう、と解釈してルシアは歩き出した。
「そう、ありがとう。こちらも準備出来たわ...街へは貴方も?」
「はい、護衛には私とオズバルドが付きます」
廊下へと続く扉へと近付きながら、ルシアは扉のすぐ傍で立つフォティアを見上げて、問いかけた。
通常、王子とルシアが街に行く際に護衛は必須である。
けれども、イオンやフォティアたちが毎回、全員付くかと言われれば、それは否だ。
さすがに全員では数が多く、普通にしている分には悪目立ちしてしまうからである。
アクィラやタクリードでは全員で動くこともあったが、それは緊急時でもあったからのことで、イストリアでのお忍び等の際には基本的に二名ずつ付くのがいつもの光景だった。
そういう時、大抵は密偵勢がお留守番若しくは別任務に割り振られ、騎士勢が護衛である。
元々、密偵と騎士の役割を思えば、至極当然ではあるのだけれども、ルシアと王子の周りは優秀な人材ばかりである程度はどちらも熟してしまう為にあまりその役割の違いを強く意識させるようなことは少ない。
とはいえ、今回もきっと、フォティアは付いてくるのだろうと思いながらも敢えて尋ねれば、やはり返答は諾であった。
まぁ、前以て王子にクストディオを貸してくれ、と頼まれていたので密偵勢が何かしらの別任務があるのだろうとは勘付いていたけれども。
だから今、ルシアの後ろに居る護衛はイオンとノックスの二人だけである。
この分だと鍛冶屋に行くのは一番よくある組み合わせのようだ。
ルシアは自然に扉を開いて、脇に避けたフォティアに礼を告げながら、部屋を出る。
「そうなの。なら、今日もよろしくね。さぁ、行きましょうか」
「ええ、お任せを」
ルシアはいつものように微笑んでフォティアに、そして背後の己れの護衛たちに向けて、声をかける。
フォティアからにこりと彼らしい淡麗な笑みと恭しい一礼を受けてからルシアは廊下を宿の外へ向けて、歩き出したのだった。
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ルシアはタクリードでもそうであったように王子と並んでスターリの街のメインロードを歩いていた。
その前をオズバルドとノックスが後ろをフォティアとイオンが歩く。
これでも充分、人数が多いが、良家の令嬢や子息のお忍びという設定の上ではぎりぎりまだ許せる人員である。
そうして、ルシアたちはスターリの街の中を歩いていた。
例の鍛冶屋は主人の偏屈さがその店にも出たかのようにとても初見では地図が手元にあっても辿り着けないような場所にある。
それはタクリードのアフマル・アル・タセェでハサンと共に抜けた旧路地のような小路を幾つも進む必要があるからだが、だからといって馬鹿正直に最初からその小路へ足を踏み入れれば、まず間違いなく迷子になる。
それを理解しているからこそ、ルシアたちはある程度、近いところまではこうしてメインロードを行くことにしたのである。
「イストリアやタクリードともまた違った街並みね...やっぱり、アクィラと一番、近いかしら?」
「ああ...だが、アクィラよりここの方がより店の区分が細かいみたいだな」
周囲に目を向けながら誰にとでもなく、けれど拾うのはその一人だけだろうと分かっているようにルシアは感想を溢した。
案の定、ルシアの想像通りに隣を歩いていた王子が返答する。
早朝、起き出したばかりの街を見た時も思ったが、スターリの街はタクリードほどに色鮮やかでもアクィラほどに活気溢れている訳でもない。
無骨のようでいて、けれども住民同士が和気藹々としたそんな街のようにルシアには見えた。
それもこれも住民が皆、何かしらの職人で技術者であるからだろう。
職人同士、分かり合うものがあるのだろうと思う。
お互いに自分の腕に少なからず誇りと自信、そしてこだわりを持っている。
また彼らは研究者のように好きなこと、一つのことにのめり込み、極める性質の人種だ。
そうしたものはぶつかり合うことこそあるが、お互いに尊重し合い、認め合う傾向にある。
例え、その職が違っていても通じるところがある。
だから、何処の国の何処の街より強固な繋がりが傍目からでも分かった。
「とても楽しそうな街ね」
「ああ、良い街だな」
観光客が楽しめるという意味ではなく、住民がその場に居る人が心底、楽しそうにしている街だ、とルシアは目を細める。
隣から同じことを思ったのだろう王子の称賛の言葉が降ってきた。
イストリアは勿論のこと、アルクスは一地方ではあったけども、エクラファーン、アクィラ、タクリード。
こうしてみると、色々な国を、街を、ルシアは見てきた。
場所によっては災害や事件等で通常通りの姿ではなかったものの、本来であれば、そこにも笑顔が溢れたのだろう街々は何処も彼処もそれぞれの良さのある場所だった。
きっと、ここももっとよく見て回れば、知ればより楽しいのだろう。
何事もなければ、散策したいものである。
「確か、この辺りだったか」
「はい、頂いた地図にはそのように」
暫く、メインロードを歩いたところで王子が立ち止まり、そう言った。
フォティアが手にしていた地図を王子とルシアの前に差し出して、答える。
この辺りがこのメインロードを含めた大通りの中で一番、鍛冶屋に近い辺りである。
ここからは小路を行くのだが、読み間違えてさえいなければ、ルシアから見て左手前方の道だろう。
そうして、その道に視線を向けていれば、続けるようにフォティアが口を開く。
「近くの店の店主に聞くのが一番、間違いないとのことでしたね...ああ、あの装飾品を扱う店がそうだと思われます」
フォティアが告げたのはルシアもまた王子と共にまだイストリアの王宮に居た際、聞いた話である。
それは元々、剣の修理をスカラーの件の鍛冶師に頼めば、という今回のスカラー行きが話に出たことに起因するのだが、実はこの話を持ってきたのはイバンであった。
タクリードから戻ってきてから再び公爵子息として仕事を熟していた彼が王子の剣のことを思い出して、バレリアノ公爵に腕の良い鍛冶師の存在を尋ねたことが始まりである。
そうして、件の鍛冶師をイバンは第一王子宮まで赴いて、王子に紹介したのである。
だから、入り組んだ道の先の店へスムーズに行き着く為の助言を今、フォティアが持っている地図と共にルシアたちはイバンから貰っていたのだった。
「では、俺が聞いてきます」
「ああ、頼んだ」
フォティアの言葉を共に聞いていたオズバルドが即座に申し出て、王子が頷き、オズバルドはルシアたちの傍を離れて行く。
向かうは先程、フォティアが目を止めたイバンの助言に出てきた装飾品店である。
「――ルシア、くれぐれも迷子にならないように」
「あら。私、そう簡単には迷子にならないわよ」
ふいにかけられた言葉にルシアはむっとした表情を浮かべて、王子を見上げた。
別に方向音痴じゃないのだ。
確かに入り組んだ小路、迷子になりやすい場所でそれを心配するのは分かるが、一緒に行動しているのだ。
それで迷子になるほど、そこまで子供じゃない。
――まぁ、はぐれたり、別行動してきた前科はあるけども?
けど、それはやむを得ない状況下だったからであって、決して好き好んでではないし、方向音痴だからではもっとない。
ルシアからしたら不可抗力に等しいものである。
いや、もし、そうでなくとも、そう言い切る。
「それは分かっている。でも、気を付けてくれ」
「...はぁい」
そんなルシアの反応もまたいつものこと。
理解したように言葉を重ねた王子に結局、ルシアは気の抜けたような返事を返したのだった。
本日で英雄王とイストリアの白銀姫は投稿、一年と5か月ですよー。
いやぁ、早いなー(と、作者である私は時の流れの早さに歳を感じるこの頃)
読者の皆様、今後もよろしくお願いしますね。
いつもありがとうございます。
気軽にコメントくださると嬉しいです。




