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424.主人公と悪魔の戦闘は(前編)

※引き続き、カリストの視点となっておりますが、前半の少しだけフォティアの視点です。


キン、キン、と金属同士が鋭く激しくぶつかり合う音が高く響き渡る。

同時に響く地を蹴る音、その度に少しばかりの土埃が立つ。

荒々しい息遣いに、一気に攻撃へと転じる際の気合を込めた声。

入れ替わるように陽光を弾いて輝く月明かりの白金と邪悪さが滲み出る白が(ひるがえ)る。


不必要な音は全て奪い去られてしまったかのように聞こえない。

中々に高度な駆け引きを含んだ戦闘が繰り広げられている中で、それなのに何処か静寂を思わせたのは(ひとえ)に剣撃を繰り出す二人以外が部外者として介入が許されていないからだろう。

別にそうと口に出して拒絶された訳ではない。

本来ならば、介入して然るべきだったのにそうしなかった、否、出来なかったのはそれだけの戦闘だったということだ。


「...申し訳ありませんが、殿下の邪魔をされる訳にはいかないので。――貴方たちの相手は私です。これ以上、先には通しません。」


だから今、目の前の戦闘を繰り広げている二人のうちの一人とは雲泥の差である清廉さを持った白髪の青年――フォティアはこの戦闘が始まると同時に突如として何処からか現れた敵をこれ以上、己が主に近付けさせない為、邪魔をされない為に一定距離を保ちながら背を向けて、剣を振るったのだった。



ーーーーー

『火種を呼ぶ悪魔』、『戦争屋』そんな物騒な二つ名を持つアドヴィスだが、その名の由来通りに裏で糸を引き、場を掻き乱し、混沌を作り出す、戦争中であれば参謀としてこれほど優秀で醜悪で敵陣に(いと)われる人は居ないだろうと言っても過言ではないほどには頭の切れる典型的な頭脳労働派である。


しかし、カリストとやや劣勢ながらも応戦している姿を見るに武闘派でもあるのだ。

その性格や二つ名に(もと)づくこの男の性質の悪辣(あくらつ)さとは別に、アドヴィスは確かに優れた才覚を持つと言っても良い人物であった。

使い道やそれを向ける方向性があまりにも醜悪であるだけで。

だから、どうしてその才能を他のことへ、とカリストは思わずにはいられなかった。

そして同時に、一つ違えば自身にも可能性があった未来をそこに見た。

戦闘とは関係ないところで背を冷汗が伝った。


「さすがはイストリアの第一王子殿下、攻撃を受け流すのが精一杯ですよ。」


「......。」


よく言う。

カリストは(うそぶ)くように語るアドヴィスを静かに(にら)み付けた。

普通は受け流すことすら容易ではないのがカリストの剣であり、攻撃である。

勿論、自分の実力に(おご)るつもりは毛頭ないが、それでもカリストは幾多の戦場を乗り越えてきた分の自負はあった。


つまりはアドヴィスもそれなりの手練(てだ)れということ。

何より厄介なのは卑怯な手を筆頭とした邪道にあたる攻撃の手数が多く、そして洗練されている点であった。

無論、稽古(けいこ)とは違い、実戦では相手取る者が基礎のしっかりとした型のある戦闘態勢を取ることは珍しい。

それでも、アドヴィスのそれは今までカリストが相手にしてきたそのどれよりも豊富で高度で絶妙な間を狙って飛んできていたことがカリストにこれ以上ないやりづらさを味合わせていた。


加えて、アドヴィスは戦闘の間でもその口を開いた。

(あお)るように、時に不安を増幅させるように、カリストが戦闘に集中していても気を向けずにはいられないようなことばかりを嘲笑(あざわら)うような顔で紡いでいく。

王宮という魔窟(まくつ)で産まれ育ち、不遇を()いられてきたことで少なからず強靭な精神を持つカリストでさえ、全くの法螺(ほら)であると放置出来ないようなことばかりが(つら)なっていく。


一番厄介なのはアドヴィスならば、実際にそれを実行してしまえる能力と狂った精神を持っているというところである。

一概に放っておけないのだ。

やりかねない、そうと思わせるほどにはアドヴィスという男は気狂いと呼んで良い(たぐ)いの人間であった。

捨て身なんてことは快楽主義の気が見えるアドヴィスはしないだろうと考えるが、それと同時に状況が状況であれば、それさえも放り捨てて手段を選ばないだろうと思わせるくらいには危うい。


死に際の者ほど手強(てごわ)いように普通は躊躇(ためら)うことすら簡単に天秤にかけてしまえるということは何よりも脅威である。

だから、それを感じさせた上でわざとらしく口にするアドヴィスはカリストにとって厄介この上ない敵であった。

そうした攻防が続いた結果、事態はカリストが優位であるものの、膠着状態である。


「...とはいえ、ずっとこのままという訳にもいきませんね。私にはまだやることが残っていまして。まぁ、私としてはもう少し殿下とお話がしたかったのですが。」


「――こちらにはお前と話すようなことは何もない。」


ふぅ、とため息を吐くようにアドヴィスはのんびりとそう言い放った。

カリストはにべもなく斬り捨てるも、致命傷は与えられない。

顔を(しか)めながら、カリストは攻撃を早め、連撃を繰り出した。

ここで逃がすつもりは一切なかった。

しかもアドヴィスはやることが残っていると言ったのだ。

それはより面倒なことになるに、この状況を悪化させるに違いないのだ、俄然行かせる訳にはいかなかった。


「では、またの機会に致しましょう。」


「この状況で俺がお前を逃すと思っているのか。」


カリストは地を蹴る。

アドヴィスの前で剣を横一線に薙ぎ払った。

(かわ)されたのを視界に捉えて、カリストは一気に前へ一歩踏み出して、今度は逆に一閃。

しかし、アドヴィスから溢される声はおお、怖い、とわざとらしい言葉を紡ぐ。

優位に立っているのにまるで手応えを感じさせない辺りはやはり悪辣であった。


「ええ、貴方は逃がしますよ。何故なら、貴方は随分と優先順位がはっきりしているお方ですからねぇ。そして、私と同じく下方の事柄は容赦なく切り捨ててしまえる非情な人だ。」


「くっ......!!」


またも攻撃を受け流され、カリストは奥歯を噛む。

この場にルシアが居たならば、カリストを一緒にしないで、と叫んでいたことであろう。

確かにシャーハンシャーのように非情な判断は統治者には時に必要な能力である。

けれど、それをどう使うか、どんな思いを抱えて、それでも判断するのか、それだけでも随分と違うものだ。

ましてや、カリストのそれはルシアと同様、最後まで出来る限りを掴み取ろうとするもの。

私利私欲、他を排除し切って自分以外を駒としてしか見ていないだろうアドヴィスとは天と地の差がある、全く性質の異なるもの。


「ほら、これで貴方は私を逃がさずにはいられない。」


「何を――っ!?」


もう一撃、カリストの攻撃を手にした剣で受け止め、その威力で飛ばされるように後ろへと退き、距離を取ったアドヴィスが不気味に(わら)って言った。

カリストは怒鳴るように再び距離を詰められるように足に力を篭めたところであった。


少し離れた位置で(とどろ)くような爆破音が響き、カリストの耳を穿(うが)ったのだ。

まさか、とカリストは視線を一瞬、そちらに向ける。

皇宮の一部で黒煙が上がっている。

ルシアの居る皇宮で、爆発によって発生する類いの黒煙が上がっている。

視界の端で化け物の笑みを浮かべたアドヴィスが映る。

先程までの言葉が脳裏で反芻(はんすう)する。

カリストは静かに頭が冷えていくのと同時に視界が赤く染まるような感覚に襲われる。


「アドヴィス!!!!」


ほとんど衝動的に、しかし単調でも怒りに任せての隙の多い不甲斐ない攻撃ではなく、恐ろしいほどの鋭い攻撃が威力だけを増して、アドヴィスへと差し向けられたのだった。


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