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422.悪魔との邂逅、再び(前編)

※今回も引き続き、カリストの視点になります。


「く......っ。」


(すさ)まじい爆風に飛ばされぬよう身を(かが)めて、カリストはやり過ごす。

髪に服にと、バタバタと音を立ててはためいた。

周囲は巻き上げられた土煙に濁った空気で視界は最悪。

それでも、一瞬たりとも異変を見逃せば、命の危機に繋がっても可笑しくないと爆風に(あお)られて乾き、痛み始めた瞳を閉じることをしないまま、前方を(にら)み付けた。


「殿下...!!」


まだまだ収まらない風塵の中、だがやや勢いが落ち始めた中で後方から駆け寄ってくる音と共にカリストの耳に届いたのはフォティアの声だった。

フォティアはこの爆風の中で動くのもやっとだろうというのに、そこは彼も半竜(はんりゅう)であるだけの馬力なのか、カリストの横まで辿り着き、並ぶように腰を下ろした。


そんなフォティアの視線が向かうのはカリストの左腕。

フォティアは思わず、触れようと手を伸ばしてはその手を中途半端な位置で宙に留まらせた。

それはカリストの左腕が思わず手を伸ばしたくなるほど、しかし触れるのを躊躇するほどの状態であったからだ。


カリストは自身でも左腕を右腕で押さえていた。

ちりちりとした痛みが(つんざ)くようにカリストを襲っていた。

赤は見えない、代わりというように焦げて匂いが鼻についた。

物が焦げた匂いではない、肉の焦げた嫌な匂いだ。


カリストの左腕はまさしく爆撃を受けたかのように焦げ、黒ずんでいた。

左腕の部分の袖は焼け焦げてボロボロ、その間から覗く今まで数多くの戦場を駆けてきた割には白く、けれどもしっかりと筋肉の引き締まった腕は焼け(ただ)れていて、遠目からでは一見、焦げた袖との区別が付かないほど。

酷い、その一言に尽きる重傷だった。


「このぐらい、何ともない。――それよりも。」


けれど、カリストはついついその匂いと痛みに顔を(しか)めることはしながらも(うめ)き声を上げることをせず、右手からも剣を離すことはしなかった。

本当に何ともないかのように前を見据えたまま、フォティアの動揺に一瞥(いちべつ)することもなく、重傷の左腕を持ち上げて制す。

ここは気を抜く場面ではない、と体現して見せる。


その怪我の状態でここまでの、という意味でもそうだが、カリストは今までにないほどの気迫を持って、冷静沈着に状況判断をし、いつでも次の行動に出れる態勢を取りながらも燃え(たぎ)る業火を(はら)んだ瞳を(ひとえ)に真っ直ぐと逸らすことなく、伸ばしていた。

横でフォティアの息を呑む音が(かす)かに空気を揺らす。


「何故、お前がここに居る......アドヴィス!!」


カリストは咆哮した。

それほどの声量で放たれたその声はカリストを中心にして辺りにこだまする。

しかし、ただ大きく(うるさ)いほどの声という訳ではない。

激しい感情が乗ったそれは、だが当たり散らすように撒き散らされることはなく、(つらぬ)くほどに鋭く一点だけへと向けられるように。

まさに咆哮した、というに相応(ふさわ)しいそんな声でカリストは忌々しい男の名を呼んだ。


「ふふふ、何故とは随分な挨拶ですね。私は何処にでも現れますよ、そこが戦場となるのであれば。」


やがて、徐々に視界が明瞭になっていく。

まだ晴れ切っておらず、土煙は立ったままだったが、それでも前方に立つ人影がどのような人物なのか、判断するには充分に視界は開けた。

老人のような白髪にその本性をそっくりそのまま映したかのような混沌を呼ぶ漆黒の瞳。

その存在そのものが唾棄(だき)すべき、彼の男がそこに立っていた。

アクィラ以来ですね、お元気でしたか、イストリアのカリスト第一王子殿下、とこの場にそぐわぬ緩やかな男の声が響く。

先程のカリストの咆哮との対比がより男の異様さを際立たせていた。


カリストはギリ、と奥歯を噛み締める。

それはそれこそ目前の男によって受けた腕の痛みに耐える為ではなく、込み上げる怒りのままに剣をその男へと振り降ろさんとするのを耐える為。

感情的に攻撃したところでこの男の思惑通りにしかならず、勝機にならないことをカリストはきちんと理解しており、その為に理性で抑え込んでいた。

けれども、表面化していないものの、とうに沸点を超えてしまった怒りの炎は周囲の者たちが錯覚を起こすほどにカリストの身を包んでいた。

その姿は理性ある人間というより、敵に襲い掛かる直前の猛獣だった。


「とはいえ、何かしら縁のある殿下がお相手ですからここに居る理由ぐらいはお答えしましょうか。私は依頼されたことを(こな)しているだけですよ。」


「依頼だと?――まさか!!」


男――その二つ名である悪魔と呼ぶに相応しいアドヴィスは優美ささえ思わせるような、周囲の瓦礫やひび割れ、地形の変わってしまった状況にも目をくれず、あるで王宮内であるかのように芝居がかった口調でこちらをまるで脅威と見ていないかのように情報を落としていく。

完全にこちらをなめている態度に皆の瞳に剣呑さが灯る。


依頼。

アドヴィスは依頼と言った。

今の今までカリストたちさえ、その存在を気付かせなかった男がここに居る理由。

たったその言葉だけでもカリストの優秀な脳は一本の線に結び付ける。


「ええ、雇われたのですよ――この国の第二皇子アリ・アミール殿下にね。」


アドヴィスはそう言って、いつぞやの広間や港で見たのと同じ気味の悪い笑みを鬱蒼(うっそう)と口角を持ち上げて、浮かべたのだった。


引き続き、皇宮の外陣営~カリスト編です。

実は先に接触したのはカリスト。

さて、作中本来の敵スラングとは別の現実でのルシアたちの敵『火種を呼ぶ悪魔』にして『戦争屋』アドヴィス。

この戦いはどうなるのでしょうね...。


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