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421.交戦中の会話

※今回も引き続きカリストの視点になります。


「イバン、無事か。」


「あー、この程度ならスラングとやり合った時の方が面倒だったな。カリストは。」


第二陣にあたる敵を(ことごと)く昏倒させつつ、交戦の最中で近くまで移動してきたイバンにカリストはまた一人、敵対者を地に伏せさせながら声をかけた。

すると、イバンもまたいつもの調子を崩すことなく、敵対者を蹴り飛ばしつつ、呑気とも言える口調で笑いながら返答を返してきた。


イバンもカリストの側近の一人に数えられる人物ではあるのだが、母方の従兄弟であり、公爵家の嫡男でもあるイバンが王宮内や公務での視察以外でカリストと共に行動することは稀だ。

ましてや、こういった戦闘事に巻き込まれることはほぼないと言っても過言でもないだろう。

勿論、公爵家の嫡男である以上は戦場には立つこともあるし、刺客などとも全くの無縁ではない。

加えて、自分たちと共に近衛騎士団団長マノリトの稽古(けいこ)を受けていたのだから、そこらの貴族子息や平民よりはずっと強い。


イバン自身がからりと笑いながらも返したように、国境へと攻めてきたスラングとの戦いでもカリストたちが居たような最前線ではないものの、イバンもれっきとした戦場に身を置いていた経験がある。

ただ、それでも実戦による経験値はカリストたちよりも劣ってしまうのだ。

まぁ散々、幾多の戦場を駆け抜けてはその他でも圧倒的な数の戦闘に身を投じてきたカリストたちと比べてしまえば、大体の人が劣ってしまうとも言えるのだが。


「殿下、こちらは終わりました!」


「ああ、よくやった。向こうで待機しているタクリードの者たちにそのまま引き渡しておいてくれ。――ノーチェ、そっちはどうだった。」


また一人、剣で殴り倒せば、今度はピオが人や(しかばね)のように転がる気絶した敵対者の合間を少しだけ身を低くした態勢で抜けて素早く駆け寄ってくる。

張り上げられた声ははっきりと簡潔にその内容をカリストに伝え、ピオの駆けてきた方向の敵は一掃されたことを知る。

カリストはそんなピオに向かって冷静に次の指示を出しながら、ピオとは別方向の偵察を任せていて丁度、今戻ってきたらしいノーチェに振り返る。

無論、その間も襲い掛かってくる敵対者は待ってはくれないのでそれらを相手取りながらの会話である。


「はい、では殿下も怪我にお気を付けて!」


「こちらはまだ二部隊分程度残ってます。」


すぐさま、両方から返答が返る。

指示を受けたピオが(きびす)を返して駆けていくのをちらりと視界に収めてからカリストはまたノーチェの方へと向き直り、彼にも次の指示を出す為に口を開いた。


「分かった。ここが終わり次第、向かう。ノーチェ、他にも居ないか引き続き偵察を。」


「御意。」


そうして、指示を受けたノーチェもピオの向かった方とも先程、自分が戻ってきた方とも違う方向へと瞬時に飛んでいくかのように向かっていったのだった。



ーーーーー


「あ、カリストー!」


数分後、また一人また一人と敵対者だけが意識を刈り取られて転がっては捕縛されていく中、ある青年がカリストの前に姿を見せた。

皇宮内から外の様子を探るように言われて出てきたアナタラクシである。

さすがに(つば)迫り合いの行われている最中を抜けてきているからか、いつもののんびりとした歩調ではなく、小走り気味に駆け寄ってきて、カリストの前で足を止めた。

作戦であっても自分の役割が終われば早々に離脱していたりすることもあるアナタラクシがこの交戦の中を抜けてきたことに少しだけカリストは目を(またた)かせた。

しかも表情は戦闘時に見せる心底嫌そうで何処かげっそりとした顔ではなく、通常時と変わらないものである。


ただ、そこまで考えてからカリストは思い直す。

何故かは分からないが、今回のアナタラクシは嫌な顔こそしながらもそれもいつもより控えめで、ルシアたちの皇宮潜入に合わせて割り振られた伝達係の仕事も駄々を捏ねずに割とすんなりと引き受けたのだ。

あれには顔には出さなかったが、普段から少なからず交流のあったカリストやその側近たちには衝撃的な事象だったと付け加えておこう。

だから、最初こそ目を瞬かせたアナタラクシの姿にもわざわざ指摘することなく、カリストはアナタラクシへ顔を向ける。


「もー、カリストもう少し分かりやすいとこに居てよー!!結構、探す羽目になったじゃん!?お陰でこんな交戦の中を無駄に行き来することになったし!!どうせ、竜化は目立ち過ぎるって怒られると思ったからすっごい嫌だったけど地道にこの白刃の中を足で来たんだよ!?俺、頑張ったよね!?ほんともうっ、褒めて欲しいくらいだよね!!」


「......それは悪かった、アナタラクシ。――それで、こっちに来たのは様子を見にか?」


だが、アナタラクシが見直したとも言える姿を見せたのはそこまでだった。

一瞬でいつもの駄々を捏ねる際の情けない表情と声で(まく)し立てるアナタラクシの変わりようにカリストはやや呆気に取られながら受け答え、こちらからも真剣な表情で問いかける。

中に居たアナタラクシが外に居る。

それがどういう理由か、程度はカリストには容易(たやす)く看破出来る事柄であった。


「あー、うん。そ。外はもう始まってるのは音で分かってたから様子見てこいって。今、イオンが謁見の間の中の様子を探ってる。後は俺らが戻り次第、突入かな。こっちは?」


「ああ、後少しと言ったところだろう。もう片付く。」


冷静に状況を把握したカリストの問いかけにアナタラクシは軽い口調ながらもいつもの無駄な一言、二言を挟まない報告然とした話し方で答えた。

カリストの予想した通りの内容である。

そして、同じようにアナタラクシはカリストに外の様子を尋ねた。


因みにアナタラクシの言う俺ら、にはスズが迎えに行った現在進行形で閉じ込められているルシアも指すのだが、ルシアが閉じ込められていることはおろか、謁見の間へ行く前に単独でアリ・アミールの元へ向かったことなど知らないカリストが察することはなかった。

もし、察していたとしたらカリストはこの場を幾人かに任せて形振(なりふ)り構わず、皇宮内へと侵入していたことだろう。

ルシアが想像以上の行動力を見せることを知っているはずなのに、ついぞルシアがどうしているのか、と尋ねなかったカリストはアナタラクシの問いに簡潔且つ冷静な判断の元、導き出した答えを口にする。


「へぇ、そう。なら、そろそろ中も始めて良いかもね。丁度良いくらいでカリストも来れるでしょ。」


「そうだな。捕縛したうちの幾人かを連れて後から向かう。」


カリストはアナタラクシの言に頷いた。

アナタラクシの言う通り、外を一掃し終えて捕縛した者を連れて行った頃にはシャーハンシャーがアリ・アミールを追い詰めているくらいになるだろう。

ここに転がる敵対者たちは証拠として最も有効なものである。

最後の決定打として充分だ。


「ん。じゃあ、そう伝えてくるわ。何よりこんなとこに長く居たくないしね。今んとこはまだ中の方が安全。カリストもあんまりルシアに心配かけるような立ち回りはするなよー。」


「ああ、分かっている。」


「じゃ、また後でー!」


もう用が済んだのならばこんなところはおさらば、と言わんばかりの早さで帰還を告げるアナタラクシに今回はいつもに増してしっかりしているのか、それともいつも通りに戦闘嫌いを発症しているのか、掴み損ねて微妙な顔をながらもカリストはアナタラクシを送り出したのだった。


またカリストの視点でした。

多分、あと1、2話くらいはそうです。

暫く、出てこない上に何してたかも情報なかったですからね...。

彼も主人公なので。


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