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360.赤の九番目の街を目前に


「ルシア、カリスト。あれがこのアフマル()の地で最もアブヤド()に、皇都に近い街、アフマル()()アル・タセェ(九番目)だ。」


少し前を行くシャーハンシャーが振り向きざまに告げたそんな言葉にルシアは目深に被っていた外套(がいとう)のフードをずり上げた。

すぐ背後で王子が同じ動きをしたのを視界を横切っていった彼の左腕でルシアは感じ取る。


この国の人間には分かるのかもしれないが、そうでないルシアにとっては今まで歩んできたどの経路とも全く同じような砂漠の海の中でルシアは前方に目を細めれば、確かに街の影のようなものがちょこんと視認出来た。

...何と言うか、こうして延々と続きそうな砂漠を行き来するタクリードの民は目が良いのかもしれない。


アフマル・アル・タセェ。

やはり、名前があるだけはあって、タクリードの城塞(じょうさい)都市の形状もあって、この街も相当大きい。

ただ、アフダル()で巡った幾つかの街やこの一つ前に立ち寄ったアフマル()()アル・ラベエ(四番目)と比べれば、それはこじんまりとしているようにも見えた。

しかし、砂漠に慣れてはいないルシアには対称の出来るもののない砂漠の中でぽつんと(そび)え立つその街の規模が、いまいち距離感が掴めないこともあってその心象は酷く曖昧ではあったが。


砂漠の途中で一夜を過ごしてからここまで、刺客による襲撃はあった。

しかし、気に掛けるほど大掛かりなものは昨日のあの一件以降はなく、今のところはあれが最後であった。

そんなこんなで道中、少々の騒動があったものの、順調にここまでやって来た。


まだ小さくではあるが一先ずの目的地が見えた安堵とその奥に見える大きな問題が着実に近付いてきていることへの緊張感と相反するような感情が何とも言えない気持ちを抱えながらルシアは正面を見つめたのだった。


「――お?あれは......。」


「?」


ふいに何かを見つけたようにシャーハンシャーがラクダの足を止めて上を仰ぎ見た。

その言葉にルシアはシャーハンシャーへと視線を向けた。

ルシアが首を(かし)げているうちにもルシアの乗ったラクダも歩みを止める。

手綱(たづな)を握る王子の仕業だ。


「!――来たか。」


「え?」


シャーハンシャーに続くように耳元で聞こえた声にルシアは目を瞬かせて、王子とその視線の先、広がる空に目を()らせたのだった。

青い青い快晴の中、決して多くはない雲の間に泳ぐ二つの影が徐々に大きくなり始めていた。



ーーーーー

ニキティウスはイストリアへ戻ったらしい。

ルシアがそれを聞いたのは出発準備も整って、遅れた分を取り返そうとでも言うようにテキパキと皆がラクダに(またが)り、いざ、アフマル・アル・タセェへといったその時であった。

確かに朝食でもその後の準備でも、その中にニキティウスの姿は見受けられなかった。


てっきり周囲の偵察か、若しくは一足先にアフマル・アル・タセェへ。

それかもっと先の皇都へ向かわせたのかと思い、ルシアを抱き上げるようにしてラクダの背に押し上げた後、当たり前のようにいつもと同じ動作で自分もその後ろに乗り上げた王子にニキティウスの行先を尋ねたのが始まりであった。


そうして、返ってきたのが先の内容である。

どうやら、ニキティウスは増援を呼ぶ為にイストリアへと竜の姿を取って、文字通り飛んで戻ったらしい。


増援、それは嫌な予感を抱えながらもまさかここまでの大きな面倒事だとは気付き切れなかったことによりある意味、いつものメンツだけでの対処に少し不安が生まれたことが原因であった。

タクリード編(もど)きに気付けなかった点に関しては何度思い返しても悔み切れないのでこれ以上、追求するのは止めることにする。


まず、今のままでは難易度が高いだろうとする理由として、こちらの人員の少なさ。

精鋭ではあるが地の理はなく、あちらにだって屈強な武人が少なからず居るとすれば、心許ないと言わざるを得ない。

やはり、イストリア出発時の普通の砂漠地帯への人選がよりこちらの人手不足を加速させている。

ああ、気付いていれば...まだ堂々巡りになるところだった。


そして、こちらが反乱軍の扱いを受け兼ねないということもだ。

場合によってはそこに居る住民すら敵になる。

そうなったのなら、彼らを無闇に殺す訳にはいかないこちらは不利どころではなかった。

しかも今回、所謂(いわゆる)、城攻めである。

攻城戦なんて圧倒的武力持ってしてでもなければ、難攻不落は当たり前。

加えて、こちらの精鋭たちは戦場を経験していてもこちらから攻め入る戦いは未経験であった。


何より挙げられる問題の中で最大の不安要素はアクィラの時と違い、竜人族(りゅうじんぞく)が、ヒョニやアナタラクシが今、ここに居ないことである。

半竜(はんりゅう)であるフォティアも、今は居ないがニキティウスも居る。

だがやはり、半竜と竜人(りゅうじん)では違うのだ。

それはもう、決定的に。

半竜の二人も強いがやはり、生粋の竜人たちの強さは寄せ付けない強さがあった。

彼らは人ではないのだと突き付けてくるようなそれが。


この突き付けられる厳しい現実を理解した時点で正面切っての戦いは実質不可能とルシアたちは判断した。

だからといって、何かしらの有効な作戦を()ってもやはり、このメンツでは不安が残ったのである。

だから、ニキティウスが増援を呼びにイストリアへと戻った、それが答えであった。


「ニキティウスにはこちらへ戻ってくる際に先んじてゲリールと竜人の誰かを連れてくるように言ってある。ゲリールは十中八九、グウェナエルかエグランティーヌ、若しくは両方だろう。竜人については特に戦いに秀でた先王に仕えていたうちの誰かだと思う。」


「そう。なら、竜人はヒョニかしらね。...アナタラクシだけだと嫌がって来ないかもしれないもの。」


「......ああ、そうだな。」


イストリアからここまで来るには時間がかかる。

それはアクィラの時と同様であり、そして今回の方がより時間がかかる。

それを踏まえて、運んで来れるだけでもこちらへ先に人員を送ってくるように指示したことを告げる王子にルシアは(うなず)きながら、ニキティウスが連れてくるだろう人員を想像して言葉を続けたのだった。


ニキティウスの人選によっては戦力の割り振り方も変わるだろう。

そう思っての予想であったが、思ったより選択肢はなかったかもしれない。

ほとんど断定するように言ったルシアに王子は少しの間を置いて、同意を示したのであった。


この時はまだ、ルシアは先王に直接仕えていた竜人がヒョニとアナタラクシ、そしてもう一人の三人であったことを、まだ見ぬ一人の竜人が居ることを疲労した脳が無意識に端の方へとそのことを追いやっていて、人選のもう一つの可能性を弾いていることに気付いていなかったのである。


おや?おやおやおや?(フラグ?)

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