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352.本来の事の顛末と好調な出だし


黄金の髪のうちで全てを諦めたような生気のない赤い瞳をした青年が両脇を騎士に挟まれて、引き摺られるように豪奢(ごうしゃ)な扉から退場していく。

小さく周りが少なからず混乱にざわめき立っている中、それを意に介さない青年が二人。

一人は静かに抜き払っていた愛用の剣を腰の(さや)へと納め直していた。

そして、退場させられた青年と瓜二つに見えるもう一人は何とも楽しげに肩を揺らして、部屋の中央にて最奥、階段上に高くなった誰もに踏み入れる権利がある訳でないそこを然も当然の顔して上がっていった。


「はははははっ!!礼を言うぞ、カリストよ!お陰でより面白い演目になった!!」


「......そんなつもりで手を貸した訳じゃない。」


階段を上がり切る前に振り返った黄金の髪を持つ青年は爛々(らんらん)と興奮冷めやらぬといった紅い瞳で豪快に笑い、演者の如く大仰な手振りで目下の中央にただ一人立つ、この場ではある種異質とも言える青年に声をかけた。

声をかけられた白金の髪をした絶世の美貌(びぼう)の青年は冷え切った紺青と感情の起伏が一切(うかが)えない声音で視線を逸らしたまま、短く返答を返す。

それにも黄金の青年は可笑しそうに笑った。


「まぁ、なんだ。此度のアリ・アミールの企みは早々に気付いてはいたのだがな。ただ、そこで潰してしまうのは退屈だと魔が差したことは事実だ。それによって、ここに居る皆にも面倒をかけたことには謝罪しよう。特に貴様にはな、カリスト。」


「本当だ。多々、楽しさを優先しては周囲を振り回すのはそろそろ止めろ。次代の皇帝を名乗るのであれば落ち着いたらどうだ、シャーハンシャー。」


「ああ、ああ...!もう長らく出来ぬであろうと思ってのことよ!これが最後だ、許せ。」


黄金の青年は事の顛末(てんまつ)についての裏話を語った。

先程、捕らえられたのが事実上の同母弟であるのにも関わらず、その企みを知った上で止めなかったことを。

成り代わられまでしたのに愉快そうに笑う姿は本当に全てを知っていた上で放置、いやその流れに乗りさえしたのだと物語っている。


口調こそ少し改めさせていたものの、語る青年の不敵に弧を描く紅い瞳が健在であるのは明白で、それに気付いている紺青の青年は(わず)かであったが眉を(ひそ)めさせてから苦言を連ねたのであった。

やはり、黄金の青年はそれを聞いて笑う。


苦言内容にもへこたれる様子も反省する様子もなく、階段を上がり切って空座となっていたこの部屋で最も(おごそ)かで豪奢な椅子へと無造作に頬杖まで突いて腰掛ける。

その手中には玩具のように軽い様子で弄ばれる年代ものらしく年季の入った黄金と大きな宝石で飾り立てられた被り物がきらきらと照明の光を弾いては輝いていた。


「皆の者、ここに居る俺こそが次代の皇帝、シャーハンシャーである――!偽物は舞台上から去った!居るのは正統な指名を受けた後継者のみだ!なに、心配せずとも俺はこの(かんむり)に誓ってタクリードをより栄えある未来へと(みちび)こう!」


先程の発言で幾人かが彼の技量に、彼の政策や御代そのものに多少の不安を抱いたであろうことなど、まるでなかったことのように怒号のような空気を揺らす歓声が上がった。

それだけ黄金の青年は――否、次代の皇帝は堂々とその元来の導く者としての器を、上に立つ者としての器を、それも途轍(とてつ)もなく大きな器を魅せ付けたのである。


「はははは、これでこそ良い結末と言うものよ。良い意味でカリストに俺の予想を(くつがえ)されたしな。途中まで想像通りに物事が運び過ぎてどうしたものかと思ったが...カリストよ、楽しませてくれたことへの礼だ。今度は此度の分も含めて盛大な歓待をしよう。」


だから、次は貴様の大事にしている宝も共に連れてこい、あの灰鼠(はいねずみ)でなくな。

隠し立てするのも良いが、一度くらいは友人を紹介してくれるであろう?

皇帝然とした覇気を少し収めて、黄金の青年は嫣然(えんぜん)といつもの人をからかうような顔でそう続けたのを聞いて、それが表情上に表れているかは別として今度こそ紺青の青年は顔を顰めたのであった。

この瞬間に皇帝となった、このタクリードの謁見の為の間の玉座に座る黄金の青年は王冠を手にしたまま、やはり全てを見透(みす)かしたように笑い声を響かせたのであった。



ーーーーー


「...つまり、貴方が放置した結果が今の現状という訳ね。」


「――まぁ、そういうことだ。急いで潰すほどのことでもないと思ってな......アリ・アミールを引き摺り降ろすのであれば、皆の前でその不正を暴き、見せ付けてしまえば事足りるであろう。」


砂漠の真ん中でのんびりとラクダを駆りながらシャーハンシャーが語った今回のタクリード編(もど)きのあらましを頭痛のしそうな顔で額を押さえながら問い返したルシアはやはり、ここまでくると能天気と言わざるを得ないシャーハンシャーの返答に今度こそがっくりと肩を落としたのであった。

それを見て、ルシアの後ろに(またが)っていた王子がぽんぽんと(なぐさ)めるように肩を叩いた。


シャーハンシャーが語ったほとんどはルシアが想像した通りの、所謂(いわゆる)、タクリード編にほど近い内容であった。

しかし、イレギュラーたるルシアがここに居るからだろうか、少しだけ違いも見られたものの、それは敢えて言うほどのことでもない些事として処理されたけれど。

早い段階での王子の協力、そしてその積極性の違いもあるかもしれない。


ただ、言えることは作中よりも簡単にスムーズに元凶たるアリ・アミール皇子を断罪することが出来そうであること。

その為の作戦としてまずは皇都へアブヤド()へと入ることがルシアたちの今の目的となったこと。

とんとん拍子に進み過ぎる現実にやや拍子抜けを喰らいながらもルシアはこの騒動を治める為に気を奮い立たせたのであった。


はい、遅くなりました――!!

前半は作中の様子になります、初めてですねちゃんと描写するの。


楽しんでいただけたなら幸いです。

気軽にコメントくださいね!!


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