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33.王子とその婚約者


「ルシア、何処に行っていたんだ」


「殿下」


テラスまで上がると王子が丁度、出てきたところだった。

随分と探させてしまったようで申し訳ない。


「少し、王女殿下とお話ししておりました」


ルシアの言葉に一気に王子の表情が険しくなる。

バレてーらー。

ルシアはささっと視線を逸らした。


「姉上」


「?...何でしょう?」


そこをレジェス王子に呼ばれてこれ幸いと向きを変える。

向いた先にはこちらを見上げるレジェス王子の姿があった。


「この後は兄上と退場するんですよね?」


「?ええ、陛下に挨拶した後、下がらせていただきますけれど」


「...帰ったらすぐに冷やすこと!」


心配そうに言い募る姿にルシアはしっかりと(うなず)いて返した。

これは後々から(あざ)でも出来たら気に病ませてしまいかねない。

うん、ちゃんと冷やそう。


...と(いや)しだけで済めば良かったんだけど。

こら、そこ一体何の話をしてんの。

先程からルシアの視界の端に王子とエドゥアルドが会話しているのが見えていた。

意味深な小声で耳打ちである。


いや、怖いよ。

これは絶対、報告されてる。

エドゥアルド、それ後でこってり説教されるんですが。


「ルシア、陛下の元へ行くぞ。...レジェス」


「ええ。分かりました、兄上」


話を終えた王子はこちらを振り向き、腕を構える。

難しい顔をしているが怒りは見えない。

それが安全そうに見えるが、実際はこういう何も言わない顔にも見せない時ほど怒りは大きいことをルシアは知ってしまっていた。


ひぇ、これこの後は家まで王子が送ってくれるんだっけ。

え、どうにかしてお断り出来ない!?

しかし、逃げれない逃がしてくれない逃げれば後で倍増確定、詰み以外の何ものでもないじゃないか。


「ルシア?」


「!はい」


急かす王子に慌ててルシアは手をかける。

王子はそれを見て歩き始めた。


「姉上、兄上。僕たちは少し時間をずらして入りますので」


「ああ」


レジェス王子の声に王子は返事しながら室内へ続く扉を開けたのだった。


「殿下、先程はエディ様と何を?」


「...お前に何が起きたかについて。後で話がある、馬車では話を逸らすなよ?」


「え」


あ、やっぱり馬車で説教コースですね!?


「...レジェス殿下にも何か伝えておられたのですか?」


「ああ、あれは馬車がすぐ出せるように指示を任せていた」


え、もしかしてそれは事前に打ち合わせた訳でもなく、あの一言でとか言う...?

だとしたら、さすがに優秀過ぎないかこの兄弟。


「...何だ」


じぃっと見上げていたからか王子に問いかけられる。

ただ、レジェス殿下と似てるのかと思って見ていただけなんだけど。

あ、そうだ。


「あのミアとは何か会話を?」


聞いて良いのか悪いのか分からないけど、印象くらいは聞いても罰は当たらないよね?

あ、不味かったかな!?

フラグまたはフラグ折るきっかけだったりする?


「ミア......誰だ?」


思い描いていた返答の斜め上をいく言葉に身構えていたルシアは拍子抜けして息を吐く。

あれ、まっったく記憶にない感じですか?


「...殿下がダンスを踊っていた令嬢ですわ。ブエンディア子爵令嬢」


「ああ、あれか。宰相からの推薦だったから踊ったが...知り合いか?」


「いえ、...仕立屋で少しお話しする機会があっただけですけれど」


あれだけお似合いな雰囲気を(かも)し出しておきながら、あれ扱いですか。

ヒロイン相手にそれを言えるのはさすが主人公?

...褒め言葉ではないな、これ。


「では、何か印象に残ったことなども御座いません?」


「...よくある夢見がちな娘だった。貴族令嬢の典型的な例だろう」


まぁ、確かにその通りではある。

甘やかされるだけ甘やかされた令嬢の典型的な例そのものだね。

少なくとも直接ルシアが見た今のミアは。

作中でも王子は最初、ヒロインに冷たくて徐々に態度が緩和されていったのでこんなもんか?


質問をしているうちに国王の元へ辿り着いた。

ルシアは考え事を切り上げて王子と共に辞する旨の挨拶を述べたのだった。


ーーーーー

馬車の中に入って我が家へ向かい始めて王都を進む。

乗り込むなり始まるだろうと身構えていた王子の説教は始まらず、黙ったままだ。


「殿下...?」


「...すまなかった」


(らち)があかないので声をかけたルシアに王子は謝罪を口にしたことにルシアは目を見開いた。


「俺の妹が手を出したと聞いた」


「!いや、カリストのせいじゃないから!迂闊(うかつ)に一人でテラスに出たのも、悪意あって落とされた髪飾りを取りに庭園へ下りたのも含めて、私の愚行が原因よ。決してカリストのせいじゃないわ。」


いや、悪いのは王女であって王子じゃない。

そもそもあの異母妹は王妃のミニチュアだから。

そこまで考えて素のままが飛び出ていたことに気付き、顔を青くした。


「申し訳ございません!無礼な口を...」


「いや、良い。そちらが俺としても楽だ。公式の場でない限りは先日同様の扱いで構わない」


下げた頭を上げて目を見ると本音のようである。

シャーハンシャーにしろ王子にしろ流行(はや)ってんのかそれ。

そして、この王子もまた言い出したら聞かないタイプである。

ルシアは咄嗟に穏便な断り文句を羅列し始めていた思考回路をすっと切って、渋々口を開いた。


「...分かったわ」


「では、話をしようか。愚行だと自覚があるのなら反論はないな?」


「え゛」


いつもは見れないルシアと違って、やればちゃんと機能する表情筋を最大に活用した激レアの王子の満面の笑みに冷汗が伝う。

結果、馬車がオルディアレス家の屋敷に着くまでルシアはこってりと絞られ、自室のベッドに半ば倒れ込むようにして眠り、翌朝、全身のケアで苦労するのであった。


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