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334.道中の考え事


旅程よりも遅れて次の街、アフダル()()アル・サーレス(三番目)へと向かう道中。

相も変わらず、このタクリードという国は街以外は延々と続く砂漠と強い日差しだけの世界である。

そんな道中を今回の旅路でもう何度目だろうか、ルシアは王子と共にラクダの背に揺れていた。


「......。」


途中途中でもう確定事項とされてしまっている自分以外の他者、主に王子とノックスの判断による水分補給や休憩を早くも甘受もとい、諦めて受け入れていたルシアはまさにされるがままという状況を最大限に利用する方向で考え事に没頭していた。

つまり、完全に外の世界を置き去りにして思考の海に深く深く沈み込んでいた。


通常であれば周りが適宜、引き摺り出すこともあり、本人としても最低限の行動はする必要があることを頭の端には留めているので、ここまで所謂(いわゆる)、周りが全く見えていないということにはならなかった。

しかし今回ばかりは違った。


というよりは没頭し切っても周りの皆が絶対に放置しないと信頼して甘えた結果である。

まぁ、その結果、周りはいつもであれば自分でやることまでされるがまま、反応しないままのルシアに多大な心配をしているのだけども。

これが王子たちの過保護が砂漠という過酷な土地でレベルアップしたことが先か、ルシアが肉体を放置したのが先か、それはきっと(にわとり)と卵のようなものなのだろう。


結局、不調故のものではないと理解した王子たちはルシアが自然と思考の海から戻ってくるのを待つことにしたのだった。

通常以上に心配に思っている上に、いつも以上に手のかかるルシアに、普段はさせてくれないことというのも相俟って、彼らの行うルシアの世話は過剰且つ過激化していくのだけども、それもそれでよりルシアに没頭する時間を与えているというまさに負のスパイラル。

ただ、ルシアだけがこの状況を有り(がた)く思っていたのだった。



ーーーーー

さて、ではルシアが何を考えていたのか。

まぁ、大体は予想通りのものである。

ここに来るまでずっと考えてきた大きな事柄でもあるし、続々と追加されている事柄でもある。


追加されたことと言えば、その一つとしてまず挙げられるのは間違いなくアフダル()()アル・アーシェル(十番目)で再会したシャーハンシャーのことだろう。

商人の振りをして珍しく本格的に忍んだ行動をしているかと思えば、どう考えても自分を狙ってきた敵相手に大立ち回りを繰り広げるシャーハンシャー。

第一、謎が多過ぎる上に今回の再会で重ね塗りときた。


それなのに結局、ルシアがあの戦闘終了時に予想し問い尋ねた通り、他人を巻き込んでおいて本当にあっさりとシャーハンシャーは別れの言葉を口にしてスズと二人、立ち去っていった。

本当に拍子抜けするぐらいのあっさりさであった。

スズの方は少しだけこちらを気にしているようではあったがすぐに会釈(えしゃく)だけして今にも去っていく己が主の後を追っていたのだった。


「スズのこともそうだけど...。」


ルシアはぽつりと呟いた。

ほとんど息が洩れ出たくらいのそれに含まれた音は(わず)かばかりでしかなく、背を引っ付けている王子にも聞き取れる代物ではなかった。


シャーハンシャーが連れているスズという魔術師の青年。

そして、ハサンという第二皇子の追っ手の任も任された案内人の青年。

どちらも同じくシャーハンシャーが太鼓判を押す才能を持つ青年。


「......ア」


特にハサンに関しては怪しさも敵味方決めかねていることもあり、共に行動している分、警戒すべきである。

しかし彼も彼でそのわざとらしい怪しさを、その割には冷淡とも取れる仕事ぶりを、ルシアの中では評価が定まらないこの上なかった。


「...い、......シア!」


けれど今、一番気にかかっているのは。


「ルシア、伏せろ!!」


「!?」


ルシアは鼓膜(こまく)を破らんが勢いで耳元にほど近い位置で響き渡ったそれにびくりと身体を(はず)ませた。

ようやっと現実に引き戻されたルシアはすぐさまやや乱暴にラクダの背に頬を付けるように頭を押さえ込まれた。

しかし、ルシアは悲鳴を上げることはしなかった。

それは乱暴であったものの、その手が優しいものだったからでもある。


何より先に、とルシアは頭を下げ切った状態で見える範囲から情報を読み取ろうと目を走らせた。

キン、音が鳴る。

僅かに見えたルシアの視界の先ではラクダを駆る剣を振り(かざ)した男たちの姿があったのだった。


すみません、遅くなりました。

今回は考え事に没頭し過ぎたルシアが襲撃に気付かなかったというシーンでした。

珍しいこともあるのでしょうが、彼女も考えることが有り過ぎて、食えないシャーハンシャーとのやり取りもあり、疲労もあったと思われ。


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