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330.ハプニングは付き物...?


「っとに、フォティアに状況を聞いていたから良かったものの...。」


「ええ、ごめんなさい。私たちも行先を知らなかったのよ。」


少し肩で息をするイバンにルシアは苦笑のまま、弁明を口にした。

まぁ、フォティアも私たちがシャーハンシャーに会って向かった方向しか知らなかっただろうし、しかも店内まで探すとなるとかなり大変だっただろう。


「いえ、シャー...様とのご歓談はもうお済になられましたか。」


「ああ、今しがた終わったところだ。お前たちには徒労をかけたな。」


フォティアの問いかけに答えたのはルシアでも王子でもなく、シャーハンシャーだった。

フォティアはお気になさらず、と返答を返す。


「シャー、俺たちはこのまま宿屋へ戻るがそこまで一緒に来るか?」


「いや、実は途中の所用があってな。丁度、貴様らの護衛も合流したことだ。ここで去ることにしよう。」


「そうか。」


王子がシャーハンシャーへと確認するような口調でそう告げた。

それをシャーハンシャーは否定するように首を振る。

しかし、断りを入れた王子はその答えに驚くことなく、簡素な返答だけを口にした。


まぁ、予想通りだよね。

ルシアはシャーハンシャーの返答にも王子の様子にも別段可笑しくは思ってはいなかった。

それはシャーハンシャーが十中八九、そう返答することも王子がその返答を自分と同様に予測しているだろうことも気付いていたからである。


普通に考えてどんな理由の元かは分からないものの、シャーハンシャーはアフダル()()アル・サーニ(二番目)でハサンと入れ違うように宿屋を出ていったことを思えば、現在、ハサンの居る宿屋へと付いてくることはないだろう。

それがルシアの予想であり、王子の予測であった。


「次は皇都でだな、ルシアにカリスト。」


「ああ、その所用が何かは知らないが早急に終わるよう、健闘を祈ろう。」


「はははっ、なに、少なくとも夜会前には終わろう。ではな。」


「ええ、また。」


きちんとこちらへと向き直ったシャーハンシャーが言うその言葉に王子が送り出すように言葉を選んでシャーハンシャーへと投げかける。

それにシャーハンシャーは何がきっかけとなったかは分からないが盛大に笑い声を上げてから、断言するように告げて、手を持ち上げて半身を逸らしたのだった。


ルシアも今にも立ち去ろうとするシャーハンシャーへ言葉を送った。

シャーハンシャーはにぃっとした笑みを浮かべてからひらりと持ち上げた手を振って、人波の中へと遠ざかっていったのであった。

その後ろをスズがこちらに一度、会釈をしてから付いていく。

それをルシアたちは見送ったのだった。


「...皆を待たせているでしょうから早く戻りましょうか。」


「ああ、そうだな。」


シャーハンシャーの姿が完全に見えなくなったところでルシアは言った。

王子から同意が返ってくる。

結局、分かったこともあるが重要な部分はほとんど誤魔化されてしまったなぁ。

そのことにも少し苦い気分になりながらルシアはさり気無く且つ絶対に見落としを許さない角度で差し出された王子の手を取って、足を宿屋の方向へと踏み出した。


シャーハンシャーの言葉は誤魔化しが大半を()めてはいたものの、それでもルシアはそのわざとらしく謎めかされた言葉に思うところはあった。

ハサン......彼は何者、いや何が目的なのだろう。


ルシアは思考を巡らせる。

うーん、全ては同じところへ帰結しそうな、そんな予感しかしないのに謎ばかりが多過ぎて、それんなのに集めたピースだけではほとんど全容が見えない現状。

...普通、ここまで各方面からの情報が集まればもっと道筋が見えても良いと思うのだけど、どうだろうか。


こればっかりはやっぱりイオンたちの情報待ちかなぁ。

手遅れになって欲しい訳ではないが、事態の急速な進行を、とそうルシアが思った時である。

背後から先程、別れたばかりのシャーハンシャーの張り上げた声が聞こえたのは。

()けろ、逃げろ、そんな言葉が。

同時に大きなざわめきが聞こえ、ルシアと王子は同タイミングで振り返った。


「えぇっ!?」


振り返った先にあったは行き交う人々が右往左往と何かから逃げるように駆けていく姿であり、その隙間を縫うようにしてこちらへと急速に近付いてくるシャーハンシャーとスズの姿。

それはもう、大混乱の状況であった。

ルシアは背後に広がる混乱の様に驚きいっぱいに目を見開き、思わずといった様子で口から悲鳴を洩らす。


瞬間、繋いだ王子の手に強めに力が篭ったのをルシアは感じ取った。

フォティアやノックスたちが状況が掴み切れないままに剣の柄へと手を伸ばし、臨戦態勢を取る。

しかし、それに対してシャーハンシャーは真剣なくらいに無表情で口を開いた。

飛び出したのは怒鳴り声のような声。


「ここで戦うのは得策ではないぞ!!走れ!!」


「......っ!」


シャーハンシャーの言葉は一理あるものだった。

ルシアたちは状況が掴めないものの、シャーハンシャーの様子から彼らの後ろに何者から迫っていることは理解していた。

確かにその者たちと戦闘になったとしよう。

ここでは確実に民たちを巻き込むことが容易に予想された。

多分、シャーハンシャーがらしくなくただ逃げているのも同様の理由だと思われる。


ルシアがそれに考え至るまで数秒間。

そして、行き着いたその瞬間に頭上から聞こえた舌打ちのような音にルシアは斜め上を見上げようとした。

しかし、それは叶わなかった。

理由は簡単、視界をルシア自身が変えるよりも早く、誰かによって強制的に切り替えられたからである。

具体的に言えば、ふわりと身体が浮いた。


「ちょっ、カリスト...!」


「後だ!総員、退避!」


バランスを崩さぬように慌ててルシアが王子の首に手を回し、声をかけようとするもぴしゃりと遮られる。

そのまま続けられた王子の命令にルシアたちはシャーハンシャーたちに追われるかのような構図で街中を駆け出したのであった。


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