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32.光と影と(後編)


テラスへ出た私は早々に自身の行動を愚行だったと後悔することになる。

まず、最初に私は後ろから来た人に気付かなかった。

勢い良く背中からぶつかられ、よろめいた。

ほんとにこの年頃の小娘どもは~!!


二つ目、その際に緩んでいた髪飾りが落ちて転がった。

それを拾おうとして掴む寸前で蹴り飛ばされた。

髪飾りは庭園へと吸い込まれるように落下。

ここまでは良い。

単純な嫌がらせであって、手が出ていることに腹が立たんでもないが相手はガキと割り切ってやろう。


そして最後、本日最大の愚行である、人が居ないのでと髪飾りを取りに庭園へ下りたのが悪かった。

テラスへ上がる階段の見事に上から死角になる位置にて、あの王女with取り巻きに捉まったのである。

他の令嬢たちとそう変わりないはずなのになんて狡猾さだよ!


「貴女、カリスト兄様から離れないだけでも不遜だというのに。タクリードの第一皇子殿下やアクィラの王太子殿下にも近付いて!とんだ阿婆擦(あばず)れだわ!」


おおう、なかなか凄い言葉が出てきたなあ。

しかし、ほんとにこの人たちに理屈も通じなければ、話も聞かない。

だから、私は不可抗力だっての!

ルシアは内心、盛大に(わめ)き散らしながら無表情で立つ。


というか、何だってまさにヒロインが悪役令嬢に受ける仕打ちを私が受けてんだ。

王女、そのポジションは私のです!

断じて要らないけど。


「...申し訳ございませんが、この度は粗雑な身でありながら主たる役目を(うけたまわ)っております故、王女殿下におかれましてはまことに恐縮なのですが、会場への道を空けてはいただけませんでしょうか」


何もせず迎えを待つのもまた悪化に繋がるし、私だけで突破出来るならしたい。

場合によっては助けが絶望的なことも今後あると思うから。

まぁ、今回はルシアが居ないことに王子が気付くだろうし、シャーハンシャーにもテラスへ出ると伝えたこともあり、助けが来やすいはずなので待ってても良いんだけど、こうも静かにやられると時間がかかるというのも事実な訳で。


「ちょっと貴女、口応えするというの!?たかが伯爵令嬢の分際で!」


いやいや、確かに伯爵令嬢だけどちゃんと頭に第一王子の婚約者のを付けてください。

不本意ながらであれ、これから王家に入る娘に分際とは如何(いかが)か。

まぁ、王女だしなぁ。

この分だと他国に出せないし、臣籍降嫁となると思うんだけど大丈夫かな。


「お馬鹿な貴女は痛い目に遭わないと分からないみたいね!!」


それはそっちだろ!

今まさにパーティーで、そんな真っ最中に主役が怪我してみろよ!

目立つわ、場所が王宮だけに王家の信用問題にもなるわ、で時と場所を選ばないにもほどがある。

加えて、ここには他国の王族も居るからね?

揉み消すにしたって無理があると思わない?


今日はツッコミが(はかど)る一日である。

って、そんなこと思ってる場合じゃないね!

客観的に見過ぎたルシアは自分に迫りくる(てのひら)に身を固くする。


果たして、少女でしかない王女の平手の威力は如何(いか)ほどか。

そういえば、手が出る人だったねー。

その場にパチンっとそれほど大きくない音が響く。


確かに痛いがやはり子供の威力。

軽く身を引いたこともあって多分、冷やすほどではないと思う。


「ガブリエラ姉様!」


「!!」


そこで上から声が降ってきた。

レジェス王子の声だ。

声を張り上げるなんて初めて見た。


「前にも言いましたよ、こういったことは関心しない、と」


「な、レジェス!!この娘が悪いのよ!王子にばかり擦り寄って!!」


どんどん下りてくる固い顔をしたレジェス王子に喚く王女。

ほんとに同母姉弟なんだろうかと疑問に思ってしまうほど対極だ。


「失礼ですが、ルシア嬢が擦り寄ってなんて表現出来る行動は取っていませんよ。王女殿下」


「!?」


レジェス王子に気をつられて気付かなかったが、その後ろで下りてきていたのは紛れもなくエドゥアルドだった。

あれ、いつの間にレジェス王子と?

ともあれ、他国の王子にこんな姿を(さら)すなど醜態以外の何ものでもないと分かったからか、王女は前以上に顔を羞恥と怒りに赤く染め上げて退散していった。

ルシアは半ば呆然とそれを見送ったのだった。


「...ありがとうございます、レジェス殿下、エディ様」


「いいよ。それより姉上、怪我は?痛みはどうですか?」


レジェス王子が純粋に心配してくれるのが嬉しい。

殊の外、肝が据わった子なので焦ったように矢継ぎ早に言葉を紡ぐ姿は珍しい。


「少し(ほお)が痛いですが、無事です。...どうでしょうか、目立ちます?」


無事を確認させる為に顔を近付けて頬を見せる。

痛々しそうに顔を歪めたレジェス王子に心が痛んだ。

なに、弟を悲しませてんだあの王女!


「...ううん、そんなに目立ってない。触れても?......やっぱり、触れるとちょっと()れてるね」


レジェス王子の願いに応えて(うなず)くと、彼はとても慎重にルシアの頬を撫ぜて言った。


「ルシア嬢、控室に氷を持ってくるように手配しましょうか」


後ろで見ていたエドゥアルドがそう提案するがルシアは首を横に振る。


「いいえ、見た目に分からないのであれば会場へ。元より挨拶後には辞する予定でしたので退場させていただきますわ」


「そう、無理はしないでくださいね」


「はい」


案じてくれるエドゥアルドに当社比で3割増しの微笑みを返して、ルシアたちはテラスへ繋がる階段を上がったのだった。


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