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31.光と影と(前編)


おお、ここでヒロインの登場かぁー。

まぁ、正しい姿といえばそうなので何も言わないけども。

ある意味、彼女もまた私の死亡フラグの塊というか。

やっぱり、王子の婚約者である限りは避けては通れないらしい。

うーん、せめて穏便に王子妃の立場を明け渡さないと。


これは多分、作中で描かれた本来の主人公とヒロインの邂逅(かいこう)である。

教会での出会いは書かれていなかったが、幼い頃パーティーにて、ダンスを踊ったことがお互いに相手を知るきっかけとなったという表記はあった。


ならば、邪魔するのも悪いだろう。

ルシアにはなまじオズワルドの忠誠イベントというフラグを折りかけたことが記憶に新しいので、本人の預かり知らぬところでさえ邪魔にはなりたくないのである。

それには近付かぬが吉。


「ルシア?」


「ああ、ごめんなさい。殿下は踊っていらっしゃるようだからわたくしはここで待ちます。兄様はお戻りください」


一点を見つめたようにその実、考え事に集中して周りの何処も見ていなかったルシアは兄の声で横を見上げる。

兄も社交しに来てるし、あまり私にばかり構うのも悪いだろう。

この際、壁の花よろしく話しかけんなモードで通すので兄をガードにはしませんよー。


私の態度があしらいになったのを見て兄は仕方がないなぁ、という顔をしてフロアへ戻っていった。

近付くなとオーラを出しているのでわざわざ声をかけてくる人は居ないが、それでもちらちらと視線を感じる。


「...さすが、ヒロインだなぁ」


それを意に介さずルシアはフロア中央を見て呟いた。

王子とは初めてどころか、公式の場でのダンスすら初めてのはずなのにその姿は際立って美しかった。

元よりそのポジションは彼女の為に(あつら)えられたかのように違和感が仕事をしない。


ミアは淡いパステルの黄色のドレスを(まと)っていて、まさに妖精である。

王子の瞳のような藍の髪も、王子の金髪のような白金の瞳も、彼女の持つ色は全て王子と同じ。

それ故に纏まった印象を与えるのだろう。

ルシアであれば突き刺すような視線も二人の姿に見惚れてしまって柔らかいものだ。


本当にさすがヒロイン。

誰もが認める未来の王妃。

実際に話して彼女に覚えた不安すらも全て払拭されてしまいそう。


「ルシア」


「!シャー様、お一人でどうされましたか」


そこへシャーハンシャーが声をかけてきた。

話していれば視線も気にならなくなるので有難(ありがた)いと言えば有難いけども。

まぁ、あまり私が彼女たちを見つめているのも良くないか。


「ああ、あまり話せていなかったからな。それよりルシア、先程も思ったが俺は特別に名で呼ぶことを許したのだ。様付けも敬語も要らん。先日のように話せ」


え、さすがに他国の皇子と知った後にそれは...!

王子にだってあのお忍びの時限定だった。

しかし、話せということは命令では?


「...シャー、今は声の届く範囲に人が居ないからこっちで話すけど、人に聞かれる可能性がある場所では無理よ」


「む、遠慮は良いと言いたいが仕方がない。それで妥協してやろう」


「それで何しに来たの?」


「ああ、貴様と二人きりで話したことはなかっただろう?それに少々、貴様には纏わりつく羽虫が居るようだ。それを払うのも悪くないと思ってな」


「......」


シャーハンシャーの言に押し黙る。

羽虫が何を指すのか分からないほど子供ではないし、現に今、他国の皇子と居るルシアには話しかけることの難しい状況である。


「まぁ、何ともイストリアは(わずら)わしいようだな。タクリードでは全くないとは言わんがここまでではないぞ」


「ああ、それはどちらかというとイストリアだからというより私と王子だからよ」


イストリアの政権に(まつ)わる複雑な事情といえば、それもそうだけど。

イストリアが特別に面倒な訳ではないとは思う。

いやまぁ、王妃に関してはノーコメントで。


「なぁ、ルシアよ」


「なあに?」


同じようにして壁を背にして立っていたシャーハンシャーの方へ向いて紅い目を見上げる。

なんか、今日は同じ動作を繰り返している気がする。


「タクリードに来る気はないか?貴様なら皇后の座を空けてやるぞ」


冗談じゃなかったんかい!

いやまぁ、冗談みたいなことを本気で言う人だと短い間にも分かってしまっているけども。


タクリードの皇后ねぇ。

タクリードは実力主義だし、何より王の寵妃(ちょうひ)は厳重に囲われている。

まして、シャーハンシャーなら本気で害をなす敵を容赦なく斬り捨てるだろう。


タクリードの後宮で危険にも(さら)されず、贅沢な食寝の保障された生活。

...ちょっと良いかもしれない。

いやいや、このまま王子を魔窟(まくつ)に置き去りなんてしないけど!!

既にエンドロールまで見届ける意志はあるよ!


「...もし、王子妃の座を降りることになったら考えるわ」


「ほう、そうか。ああ、たっぷりと吟味するが良い」


怒りもせず、度量の大きさを見せるシャーハンシャー。

案外、暴君というほど怒りの沸点は低くないようである。


「少し、風に当たってくるわね」


ここに居るままというのもほんの少し据わりが悪い。

ルシアはシャーハンシャーにそう告げて、テラスへ向かうのだった。


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