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30.異国の王子たち


「シャーハンシャー殿下、僕にも挨拶させてくれませんか?」


「あ...!申し訳ございません、王太子殿下」


「ああ、貴様のことを忘れていた。すまないな、アクィラの」


「いえ、思い出していただけたなら、構いませんよ」


一頻(ひとしき)り、挨拶が終わった後、横から声が入った。

あー、忘れてた。

シャーハンシャーではないが、ルシアはそう心の中で溢した。

シャーハンシャーとの再会で完全に意識から外れていた。

改めてアクィラの王子に向き直り、挨拶をする。


「エドゥアルド・プレディエーリ・アクィラ。皆様にはエディと呼んでいただいていますのでお二方もどうぞ、エディと」


エドゥアルド・プレディエーリ・アクィラ。

海のような青い髪と空のような青い瞳をした彼は大陸の南方に位置するアクィラの王太子である。

何処までも偉そうなシャーと反面、丁寧な口調で名乗った彼も作中にて登場した。

しかし、それは故人となった人の名として、である。


アクィラは海に面した交易と商人の国で、タクリードと同じく中盤の物語の舞台となった。

だがその際、彼は亡くなっているのである。

誰にでも丁寧に物腰柔らかい彼は一見そう見えずとも、アクィラ内でもトップクラスの剣士で知恵者だと書かれていた。

その実、現在目前に居る彼もそうなのだろう。


アクィラが舞台となった物語でアクィラは戦禍(せんか)に呑まれ、大打撃を受けている。

その際、彼は物語の引き金として語られるのだ。

皆に慕われ、それ故にアクィラが戦場となってしまった元凶。

ルシアとは全く立場も状況も死因だって違うけど、死亡フラグを抱えているという点では同じ。

そういう意味でもルシアは彼に思うところがあるのである。


「では、エディ様。わたくしのことはルシアと」


「ええ、分かりました。ルシア嬢」


この世界の元となったはずの小説。

それに名が出てきても、決して味方という訳でもなかった四人。

私たちは作中と違って親友とはいかなくても友人と呼べる関係になれるだろうか。

作中の彼らでもあったかもしれないこの対面をルシアは一歩引いた目線で眺めながら、本当に人生はどう枝分かれするか分からないな、と思ったのだった。



ーーーーー

四半刻が経ち、会場内をルシアは一人で歩いていた。

エドゥアルドとシャーハンシャーと王子と四人で暫く歓談した後、ルシアだけが王妃に呼び出しを喰らって、その帰りである。


同行を王子は申し出てくれたが、既に会話が弾み始めていたこともあって忍びないので断った。

私だって必要でも王妃には関わりたくない。

王子は特にそうだろうし、ルシアとしてもわざわざ必要以上にそんな苦行を王子に味わって欲しい訳ではない。

いや、そんな苦行はなくて良い。


「ルシア」


「!兄様」


王妃にも苦労しながら、まだまだ手駒には成り得ないとアピールして多少気疲れしながら、今度は針の(むしろ)の中を一寸も声をかけられないような雰囲気を作って闊歩(かっぽ)していると、兄に出会った。

いや、王子が居たら令嬢の視線が痛いけど、彼に見惚れて視線が分散される分マシだし、何より王子が居なければ不躾な視線と感情がぶつけられることが分かった。


別に悪い感情を向けていない人が善人とは限らないが、小者の選別くらいにはなるかも。

私は試金石か何かか。


「ルシア、ドレスとても似合っているよ。ところで殿下はどうしたのかな?」


「ありがとう、兄様。わたくし、先程まで王妃様の元におりましたの。今丁度、殿下の元へ向かっていたところですわ」


「そうだったのか。では、兄様と殿下の元へ行こうか」


「はい」


正直、気を張って疲れたので兄の申し出はとても有難(ありがた)い。

まぁ、兄狙いの令嬢の目線が怖いですが。


フロアの中心まで兄に手を引かれてやって来るとすぐにシャーハンシャーとエドゥアルドの姿が目に入った。

しかし、王子の姿はそこにない。

誰かに呼び出されでもしたのだろうか。

キョロキョロと、はしたなく見えない程度に見回すと丁度、中央の辺りで王子を視界に捉えた、が。


「あら」


果たして、王子はダンスを踊っていた。

彼のことだから自分から誘った訳ではないだろう。

令嬢から誘ったとしても彼ならすげなく追い返すだろうし。


うーん、この場合は誰かに推薦された高位貴族の令嬢かな、と冷静に分析していたルシアはそこでやっとそれがミアだと気付いたのだった。


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