29.いざ、社交会
春告祭、とうとう三日目。
昨日はドレスの調整に装飾品のつり合いに王子との並んだ際の調和と最終調整にてんやわんやだった。
それでも今、ルシアはドレスも装飾品も華美過ぎることはないが品良く纏まった物をばっちりと着込んでいた。
既に着替えによって持っていかれた気力がやや落ちているのも、他人基準ではあまり動かない表情も、ルシア本人がいまいち他人事で自分のことと理解していない整った容姿と相まってお人形そのものである。
ドレスの色は王子の瞳に合わせて深い青、装飾品も映える水晶。
銀髪、灰目という色素の薄いルシアには濃い色はとても似合っていた。
素材を活かした薄い化粧もして十分、立派な淑女だ。
「お嬢、第一王子殿下が到着しましたよ」
「ありがとう、イオン」
ルシアはイオンに手を引かれながらオルディアレス家の玄関まで向かうと、そこにはルシアと対になるような礼装に身を包んだ王子が居た。
彼も深い青の礼装に水晶の装飾品を身に着けている。
麗しき容貌がより強力になって、これはもう、凶暴過ぎる以外に言い表せない。
そして、なんやかんや王子と会うのは、あの一昨日のお忍び以来であった。
取り敢えず、ルシアは綺麗な所作でドレスを摘み上げ、礼を取る。
「殿下、迎えに来ていただき、ありがとうございますわ」
「...ああ」
言葉少なに答える王子に近付くと、イオンから彼へルシアの手が渡される。
そのまま、馬車へエスコートされて向かいに王子も座り、扉が閉まったのを確認して馬車は王宮へと走り出したのだった。
ーーーーー
「緊張しているのか」
王子の言葉にすっと少し上にある彼の目を横目で見る。
今、ルシアは無事入場してパーティーは開始され、これはもう、全ての人に見られているのでは?という視線に晒されながらファーストダンスを踊り切り、全体への挨拶を兼ねた宣誓をして、個々の来客に応対しているところである。
「少し緊張しましたわ。だって、わたくしこういったことは初めてですもの。けれど、今は忙しさに目が回って緊張は何処かへ行ってしまいました」
いや、マジでこの忙しさは何。
ひっきりなしに人が寄ってくるよ!?
小声での会話だが、万が一、聞かれても良いように言い回す。
飼い猫フル稼働である。
「まぁ、でも後は他国からの来賓だけだ。それさえ終えれば、機を見て退場しよう。俺たちはまだ子供だからな、許してくれるだろう」
「そうですわね」
ラストスパートだ、もう少しだけ頑張るよ!
王子にエスコートされながら歩いていく。
途中、何度も捉まるが他国の王族の元へ行くと言って振り切った。
「ああ、彼処に居るのがアクィラの王太子とタクリードの第一皇子......」
「殿下...?どう、され......!?」
急に立ち止まった王子によって、つんのめりかけながらルシアは呼び掛けるが返答がない。
何だ?と思って前を向き直って同じようにルシアも固まった。
だって、そこに居たのは。
「おお、今回の主役はやはり貴様らだったか。そろそろ来るだろうと待っていたぞ、ルシアにカリストよ」
最初、まじまじとこちらを見た後、面白そうに笑った彼は一昨日と同じ不敵な顔で言ったのだった。
「......それはわたくしたちの台詞でもありますわ。貴方がタクリードの第一皇子殿下とは」
ルシアは何とか飼い猫を呼び戻して王子にエスコートされているように見せながら、その逆、王子の腕を引いて彼に近付いた。
間違いない、彼は街で会ったシャーだ。
ルシアたちもお忍びだったが、薄々感じていたようにやはり、彼もお忍びだったらしい。
裕福な出だろうとは思っていたけど、それにしてもタクリードの第一皇子だったなんて...。
そこでルシアは俄かに思い出した。
あああっ、シャーだ!
シャーハンシャー!
タクリード王シャーハンシャー!!
出てきた、出てきたよ、作中で。
中盤のそれも彼の即位式で。
シャーハンシャー・アムシャド・ヘイダル・タクリターヘル。
王子の顔見知りとして登場し、隣国の若き獅子と呼ばれた男。
後に暴君とも賢君とも呼ばれた王様だ。
顔見知りということはそうか、こんな風に前々から面識があったということだから居ても可笑しくない。
「改めて、シャーハンシャー・アムシャド・ヘイダル・タクリターヘルだ。真名は長い故、儀式以外ではこの名で通している。なに、貴様らには特別にシャーと呼ぶことを許してやろう」
あくまでも上からの口調にさすがは暴君とも呼ばれた人だと納得してしまう。
「わたくしの名はルシア・クロロス・オルディアレスですわ」
「...イストリアの第一王子カリスト・ガラニスだ」
ルシアが名前を告げ、つられて王子も名乗る。
あー、まさかこんな再会をするなんて。
せめて早めに知らせてくれよ!!
そう思いながらもシャーの名に何か引っ掛かったことを思い出して何も言えない。
「ああ、ルシアにカリストよ。これもまた奇縁であろう。後の世を担う者同士、親しくしようではないか」
ははは、と未だ眉を下げたルシアと王子とは対照的にシャーハンシャーは笑みを深めたのだった。




