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27.砂漠と靴と(前編)


その後、シャーと名乗った紅眼(こうがん)の少年はイストリアの南方にあるタクリードから来たと言い、早速とばかりに街の案内を望み、ルシアたちは王都を歩くこととなった。


「ほう、イストリアはなかなか面白いな」


「...今は春告祭(はるつげさい)だから平常時とは違うよ?」


いや、ほんとにあっちへこっちへ彼は加減を知らない。

何処ぞの暴君か。


「それは分かっている。それでも街並みは分かるだろう。タクリードはこうではないからな」


確かにタクリードは国土のほとんどが砂漠だと聞く。

ならば、積雪を想定したイストリアの街並みはがらりと印象が違うだろう。

正直、地球を基準にしたら隣り合った国でここまで環境が違うのは納得いかないのだが、そんなところもファンタジー。

良いのか、それで。


そもそも、そんな人間が住むのに決して向いていない土地、いくら広くてもすぐ横に肥沃的(ひよくてき)な土地があるのに人は住み着くだろうか。

まぁ、歴史的な観点でみれば他国からの圧力等、そこにしか居場所がなかったのだろうと推察も出来る。

結果として、タクリードはイストリアに次ぐ歴史を持ち、広大な国土のほとんどが砂漠地でありながら不変の獅子と呼ばれる大国になった。


「シャー、そろそろ切り上げないか。旅人なら宿で支度(したく)もあるだろう」


隣に居た王子がシャーに提案する。

ああ、宿とかを取っているなら先にチェックインしていたとしても色々支度があるもんね。

もう数刻で日も落ち始める、こちらとしてもそろそろ王子を帰した方が良いだろうし。

護衛メンツの気力と胃の具合が心配だし。


「...そうだな、分かった。貴様たちもそろそろ帰した方が良いだろうしな。ただ、後一ヵ所だけ案内してくれ。場所は任せる」


お、意外と人を思いやれるようだ。

いや、それなら、最初から巻き込まないでくれ。

というか、最後の案内場所を任せるって地味に難しいことを。


同じことを思ったのか、げんなりとした顔をする王子と目が合う。

うん、不遇であれ王子はお忍びも今日が初めての生粋のお坊っちゃまだ。

こんな状況は覚えがないだろう。

なんか今までで一番、以心伝心している気がするよ。


どうしようかと視線を彷徨(さまよ)わせたルシアは見慣れた街並みより見慣れていないシャーの服装に目を留めた。

うん、アラビア風に近い。

外套(がいとう)で分かりづらいし、さすがに他国への旅衣装なので露出は少ないけれど。

(くつ)は硬い素材のようだ。

ぴったりと足首に添っていて遊びがない。

あ。


「靴。靴屋なんていうのは?」


「ほう。何故、靴屋を選んだ」


「ただ、私の好奇心なんだけど、シャーの靴はタクリードのものよね?それって一般的なもの?」


「ああ、そうだな」


ルシアのチョイスが靴屋だったことに面白そうにシャーは問う。

そのシャーの問いに答えないまま、ルシアは問い返した。

気分を悪くするかな、と思ったがシャーはただ首を(かし)げつつ答えてくれた。


「あのね、タクリードのほとんどは砂漠地なのよね?なら、サンダルが一番良いじゃないかと思って」


「さんだる?」


疑問符を浮かべたのは王子だった。

まぁ、サンダルなんてイストリアにはないもんね。


「ええと、サンダルっていうのは靴の足の甲と(かかと)、足首だけを固定するようになっていて、残りの部分は生地のない形の靴なんだけど...」


うん、口頭での説明って難しい。

頭に完成図があるだけもどかしいな、これ。

ちゃんと伝わったかなと顔色を(うかが)うと、王子は(わず)かに目を見開いて、シャーは(うつむ)いていた。


「シ、シャー?」


「ふ、ふふっはっははっ!!普通、砂地では砂が入らんように足首に添って靴を作るが、貴様は逆に穴を開けると!良い、良いぞルシア!気に入った!そのさんだる、とやらはその靴屋で手に入るのか」


「いや、これはただ私が考えていただけの物だから実物はないんだけど、知り合いに私の案をそのまま形にしてくれる靴職人が居てね。彼ならそうね、貴方が祭の最終日まで居るなら試作品は作れると思う」


「そうか!十分だ、その靴職人の居る靴屋へ()くと案内せよ!」


見事にテンションが跳ね上がったシャーに、もしかしなくともやらかしたのでは?と思いながら、ルシアは王子に申し訳ないという念を送りながら、知り合いの靴屋へ足を向けたのだった。


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