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26.隣国からの客


ヒロインとの遭遇。

そんな少し予期せぬ出会いがあったが、その後は(つつが)なく日々が過ぎて本日、春告祭(はるつげさい)の初日だ。

ルシアは王都の街中に平民の恰好をして歩いていた。

......黒色の(かつら)を被り、眼鏡をした王子と一緒に。


今回は完全なるルシアの凡ミスによるものだった。

つい、お忍びで出掛けることを王子に話してしまったのだ。

ほんとにたまにしかうっかりミスをやらかさないのに、そのたまに、が毎度盛大にやらかすので自分でも泣けてくる。


「...殿下」


「ここで殿下と呼ぶな」


「...カリスト」


「...なんだ」


不機嫌そうな顔の王子の言うことは尤もで、渋々ながら名前で呼ぶ。

名前に関しては、彼に因んで10歳頃の少年にはカリストという名が多いから本名でも良いだろうと判断してのことである。

特徴的な髪や瞳も隠しているし、多少、この美貌(びぼう)は要注意だがまさかこんなところに供も付けずに王子が居るなんて思うまい。

まぁ、実際には離れた位置からノーチェやニキティウスが追尾するようにして護衛しているのだけど。


様付けするかも悩んだが、どうせもう一度同じ言葉が返ってくるのが予想出来たので、ルシアは(はな)から呼び捨てにすることにして、王子を呼んだのだった。

しかし、一気に馴れ馴れしい呼び方をされた為か、王子は(わず)かに押し黙ったが、王子も王子でどうせそう呼ばすつもりだったことに行き当たったようで、何とも腑に落ちなそうな顔をしたものの返答を返したのであった。


「何処から回りますか」


「取り敢えず、中央の広場へ向かっているが。...ルシア、敬語もどうにかしてくれ」


「...はぁ、分かったわ。じゃあ、こっちよ」


いやまぁ、敬語なしも初めてではないけども。

そのことについては出来れば忘れて欲しいんだけども。


「...詳しいな」


「まぁ、よくイオンと歩いているから」


スイスイと人の波を進み、最短路を行くルシアに苦戦しながら王子は付いていく。

うん、これはすぐさまはぐれる予感。

お互いに子供で背丈がない分、一度はぐれたらまず合流不可だ。


「カリスト、手を貸して。このままだとはぐれるわ」


「あ、ああ」


ルシアは王子の手を引いて再び広場へと歩き始めたのだった。



ーーーーー


「はいよ、ルーシィ」


「ありがとう」


それから。

私と王子は広場の傍にある屋台で昼食を購入していた。


「なぁ、そっちの子はルーシィの兄妹じゃあないだろう?ルーシィ、早くも恋人と逢引きかい?イオンの兄さんにどやされるねぇ」


「やだ、違うわ。うーん、そうね...幼馴染になる予定かな?」


「おやまぁ、そうかい。そんじゃあ、その新しいお友達と祭りを思いっ切り楽しんでいきな」


「ええ、ありがとう」


ルシアはにこやかに返して屋台を離れる。

向かったのは広場中央の噴水。

ルシアはその(へり)へ王子に座るように促した。


「はい、貴方の分よ。カリスト」


「...ああ、ありがとう。ルシア」


ルシアは屋台から買って来た所謂(いわゆる)、照り焼きサンドを王子に渡して、隣に座った。

最初にあったぎこちなさはいつの間にか消えており、お互いに祭に賑わう王都の街を満喫していた。


「このお店、いつもは食堂なんだけどね。美味しいでしょ」


「ああ、そうだな。パンにタレの味が馴染んで美味しい」


少し緩んだ王子の様子にルシアも微笑む。

一時的でも王宮のことなんて忘れれば良い。

そんで、今度はヒロインとデートで来られれば良いね。

そんなことを思って、ルシアは周りの景色を眺めていると、ふと、ある一ヵ所に目が留まる。


「あら...?カリスト、ちょっと待ってて」


ルシアは王子に座っているように言って歩き出す。

視線の先にあるのは広場の入口。

王子からも見える位置だし、少し離れても大丈夫だろう。


「ねぇ、さっきから眺めているけど、もしかして食べ方分からなかったりする?」


「...ん?なんだ、貴様には分かるのか」


「ええ、ちょっと貸して」


ルシアが声をかけたのは金髪に紅い目をした少年だった。

服装もそうだが金髪という点で、外からの来訪者だとすぐに分かった。

この国の金髪は王族の血筋だけだし、加えてどちらかというと白金に近い。

しかし、目の前の少年は王子のそれよりずっと黄金と呼ぶに相応しい金髪だったのだ。


「この果物、皮の剥き方にちょっとコツがいるのよね。貴方、他国の人でしょ?」


ルシアは少年の手から受け取った果実を丁寧に剥いで手渡す。

それはイストリアのような気温の低いところのみで取れるもので他国ではほとんど売られていない。

なので、広場の入口で果実を食べるでもなく持っていた異国人らしき少年を見つけて声をかけたのである。


「む、よく分からん剥き方の割に美味だな」


「でしょ?だから、剥き方が分からないからって食べるのを諦めるのは勿体ないと思って」


ルシアの言葉に少年は思案するように首を(かし)げた後、ニヤリと笑った。

あれ、なんかその(たぐ)いの笑みには良い予感がしないような...。

そんなルシアの予感を後押しするように少年は口を開く。


「よく教えてくれた。どうやら貴様は随分とこの国のことに詳しいらしい。貴様の言う通り、俺は他国から来たから詳しくなくてな。しかし、貴様が居れば行けなかった場まで行けそうだ」


「...えーと」


案の定、話が一気に面倒な方向に向かったのを感じて、ルシアは一歩足を引いたが遅かった。

ルシアは逃げ切る前に少年にがっしりと肩を掴まれてしまう。

うわ、抜けない。

決して、細い腕という訳でもないけど力があるようにも見えないのに。


「なに、少し案内役をしてくれれば良い。後はこちらで楽しむからな。報酬として何でも買ってやる」


「いえ、あの、私連れが居るので...」


話し方なんかから裕福な家の出だと薄々気付いていたが、まさか案内役に指名されるとは。

いや、ちょっとそこまで面倒事になるなんて予想外だ。


「ルシア!」


ルシアが肩を掴まれてしまったからか、王子がこちらへと駆け寄ってきた。

王子が少年を凄い勢いで睨み付けているものの、当の少年は全く動じた様子を見せない。


「ほう、ルシアというのが貴様の名か。良い、そちらの男も一緒で構わんから案内しろ」


尊大過ぎる発言に一周回って怒りや理不尽という言葉が頭を素通りしていく。

あー、これは。

ルシアは誰にも聞こえないような長ーいため息を地面へ向かって吐いた。


「......カリスト、申し訳ないんだけど付き合ってくれる?」


「......分かった」


こうして、ルシアと王子と裕福層の異国人の少年という異色の街巡りが始まったのだった。

...ねぇ、ちょっと私の不注意多くないですか。

ねぇ、王子も一緒で気を抜ける状況じゃないよ私!?


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