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24.お針子と令嬢(前編)


仕立屋の個室にて、ジェマを指定したルシアは彼女がやって来るのをのんびりと待っていた。


「失礼致します。お待たせ致しました、御指名いただきましたジェマ・ガルシアと...」


扉を開き、入室してきたジェマは口上の途中でルシアと目が合い、中途半端に腰を折り曲げた体勢で固まった。


「久しぶり、ジェマ。約束通り最初のドレス、貴女に頼みに来たわよ」


「~っ、ルーシィ!!」


吃驚(びっくり)した?」


「ええ、とっても!」


ルシアは驚嘆の声を上げるジェマにクスクスと笑いながら、隣の席へ促す。

一通り驚き切った彼女は少し興奮気味の様子を見せつつ座る。


「...私、貴女が貴族の子女だろうってのは予想してたのよ?だって、育ちは悪くなさそうだし、イオンさんはお兄さんというには何処か、しっくりこなかったから。それでも下位貴族のあまり大きくない家だろうと思ったのに」


「一応、上流貴族に当たる伯爵家の中でもピンからキリまであるけど我がオルディアレス家はそれなりに古い家だものね」


「ええ、私でも知ってるわ!」


「その上、第一王子の婚約者で?」


「今回の臨時繁忙期の原因じゃない!!」


ちょっと、人を諸悪の根源みたいに。

声色が心底嬉しそうではあるからそういった意図はないんだろうけども。

ルシアは呆れた目をジェマに向けた。


「...改めまして、ルシア・クロロス・オルディアレスよ。今回の春告祭(はるつげさい)のドレスを注文しに来たわ、お針子さん?」


「任せて!一番目立って貴女を輝かせるドレスを私が作って見せましょう!!」


「...ほどほどにね、ジェマ」


ああ、早くも暴走し始めた。

ルシアは今日のこれから長時間に渡り、拘束されることを覚悟したのだった。

後ろでイオンが手を合わせている。

おい、この世界に合掌はないはずだろ!



ーーーーー


「...取り敢えず、案は沢山出たわね。ルシアがいると私じゃ考えつかないような意見が出て、次から次へ案が浮かんで止まらないから困っちゃう」


「そんなに褒めてもこれ以上は付き合わないわよ」


ざっと話を始めてから一刻と四半刻。

ルシアは疲れたようにソファへ(もた)れ、その向かいではジェマが爛々(らんらん)と目を輝かせていた。


「ああ、もっと話していたいけど、それじゃあ何も決まりそうにないから続きはまた付き合ってもらうわ。今回のドレスは今、出た中から選ぶことにしましょう」


ルシアはジェマの言葉に死んだような目をより深くした。

そうだった、まだ案出ししかしてないのにこの疲労困憊(こんぱい)具合よ。

今までも彼女に付き合って服を考えたことはあったが、上手い具合にヒートアップする前にイオンによる制止が入ったり、ルシア自身も少し手伝う程度に留めていたので事なきを得ていた。


まぁ、今回は私も本格的に意見出しをしたし、手伝いではなく注文な分、ジェマに大義名分を与えてしまっている上に、イオンは部屋の外でここには居ないしで歯止めが全く利かなかったんだろう。


「えーと、素材は見た方が早いわよね。ちょっと幾つか候補のものを取ってくるからお茶でもしながら待っててくれる?」


「分かったわ、束の間の休憩だと思ってしっかり休憩しているから」


「何よそれ。まぁ、戻ってきたらすぐに素材を見てもらうけども。...ああ、ルシア。フレディがええと、室内履き?が完成したから見に来てって言ってたわ。貴女、私の服作りはあまり協力してくれないのにフレディとは何か作ってるでしょ、ズルいわよ」


ルシアの軽口にムッとしたジェマは少し頬を膨らましながら立ち上がったところで思い出したかのようにそう言った。

だって、服は今のままでそれなりに快適だけれど家では(くつ)を脱ぐことが習慣付いていた元日本人としては四六時中、硬い靴を履き続けるのは辛いんだもん。


フレディ・ガルシア。

彼はジェマの双子の兄で実家の靴屋の見習いをしている。

14歳という若さながら腕は頼もしいくらいでルシアの前世の知識からなる、こちらでは見たことのないようなデザインを嬉々として作ってくれるジェマ同様、とても気の合う少年である。


「近いうちに行くと伝えて。ついでに私が令嬢だということも伝えて良いわよ」


「ええ、伝えておくわ。...では、少々お待ちくださいませお嬢様」


きちんと扉を開けた後は外行きのイオンのように(かしこ)まった態度を取ってジェマは退室した。

さて、少しでも体力と気力を回復せねば。

そうルシアがカップに手を伸ばしたところで外からノックが響く。


ジェマが忘れ物でもしたんだろうか、それとも扉の前に立って待っているイオンだろうか。

ルシアは首を傾げながらも入室の許可を出す。

果たして、ルシアの予想はどちらも外れた。

入室してきたのは初めに案内をしてくれた針子である。


「オルディアレス伯爵令嬢様、少しよろしいでしょうか?」


「あら、何かしら?」


ルシアは令嬢モードで問い返した。

ルシアの返答を聞いて、その針子は(うやうや)しく話し始めたのだった。



針子から聞いた話をまとめると、今回の春告祭の為に令嬢たちが何処の仕立屋でも殺到していて、ここもかなりの来客のようだ。

その結果、部屋の空きがないらしい。

針子が告げたのは、とある令嬢と相部屋してくれないかという提案だった。


「ええ、わたくしは構わなくてよ」


「ありがとうございます。こちらでしっかりと衝立(ついたて)もご用意致しますので」


まぁ、最初の挨拶以外は話す必要もないし、衝立越しにガバって本性バレなければ良い。

ジェマもその辺りは承知しているだろうし、場合によっては後日に回せば良い。

準備が整っていく部屋を眺めながら、ルシアまた一口、紅茶を飲んだのだった。


「失礼致します。この度は相部屋を許していただきありがとうございます」


「いいえ、気になさらないで、......!?」


準備が整って暫くすると、コンコン、とノックが響いたのでルシアは答えた。

最初に入室してきたのは侍女らしき女性。

令嬢らしく返答をしたルシアはそこで侍女の後ろに隠れていた少女に気付き、硬直する。


「ご機嫌よう、ミア・クロロス・ブエンディアです」


そう名乗ってスカートを摘み上げ、お辞儀した藍色の髪に金色の瞳をした少女は(まぎ)れもなくこの世界の、小説のヒロインだった。


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