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23.婚約パーティー


「はぁ、婚約を正式発表する?春告祭(はるつげさい)でですか」


「ああ、既に公表はしているが、皆の前でしっかりと示しておけということらしい」


「また随分、中途半端な時期ですわね」


冬が終わりを見せ、雪が溶けた頃。

まだまだ肌寒い気温に今日の恒例読書会は王子宮の一室である。

読書の途中、王子が思い出したかのようにルシアへ婚約発表が春告祭に行われると告げた。

婚約そのものは既に半年以上経過している今に、である。


春告祭とは、イストリアで毎年、春の到来の季節に(おこな)われる七日間に渡る大きなお祭りである。

最北のイストリアでは冬の時期は雪が降り積もり、冬季の半分が外出不可ということもしばしばなのだ。

そんな冬が明けて春になったのを祝う為に(もよお)されるようになったのが春告祭ということである。


これは国を挙げての祭りであり、期間中は国中がお祭りモード、他国からも人がやって来る。

その春告祭のうち、二日目から六日目まで貴族たちは王宮で行われるパーティーに参加する。

その三日目の夜会の場にて挨拶せよ、ということらしい。

祝い事には祝い事といったところか。


例の事件の後、本格的に冬季に突入して今日、久しぶりにルシアは王宮へ来た。

なので、王子も途中まで忘れていたのだろう。

この分ではもう我が家自体には招待状と共にその旨が伝わっているんじゃないかな。


勿論、デビュー前なので夜会なんて参加したことはない。

あ、ドレスが要るじゃん!

夜会に着ていけるドレスなんて持ち合わせていない。

早く言ってよ!

まぁ、早く教えてもらっても雪で出掛けられなかっただろうけど。


「ドレスを仕立てるなら明日、王宮御用達の者が来るが」


「いいえ、せっかくですけれど、馴染みの針子がおりますから」


せっかくの申し出だし、王宮御用達なんて予約いっぱいの売れっ子には早々会えないだろうけど。

普段はルシアの意思関係なく用意されたものを着ているので、ルシアは自分から服飾の(たぐ)いの注文をしたことがない。

それにあたって最初に自分から何か仕立てるなら私に、と知人の針子と約束しているのである。

うん、明日にでも採寸してもらいに行こう。

ルシアは紅茶を一口、(のど)へ通しながら明日の予定を決めるのだった。



ーーーーー

翌日、馬車に揺られながらルシアはイオンと共に仕立屋へと向かっていた。


「ここにお忍び以外で近付くのは初めてですね」


「ええ、そうね。さぞかしジェマは吃驚(びっくり)するでしょう」


(くだん)の針子の名はジェマ・ガルシア。

平民で三度の飯より洋服を地で行く14歳の少女だ。

常に縫うか描くかをしている。


針子をやっているのはまさに天職、ワーカホリックまっしぐら。

見ている側としてはひやひやさせられるが、周知の事実として洋服作りを取り上げた方が死にそうな顔をするので渋々容認されている。


「過労死させたい訳ではないけどジェマの腕は確かだし」


「あー、確かに注文の服は私が一番に作るって言ってましたもんね」


「ええ、たとえ王宮御用達の仕立屋でも注文したのを知られたら後が怖いわ」


「...ですね」


げんなりした顔を見せるイオンにルシアは苦笑いをする。

気付けば馬車の窓から見える景色はもう仕立屋のある通りまで来ている。


「さて、どんな顔をするかしらね」


彼女のことだ、ドレスなんて普通の服よりずっと装飾品が多い注文。

それはもう、嬉々として作業を始めることだろう。

豪奢になり過ぎないように適度に止めなくては。

...私の手に負えるとは思えないけれど。


「...イオン、その獅子の檻に放り込まれる餌を哀れむような顔を止めて」


「ああ。素晴らしい例えですね、お嬢」


「イーオーンー?」


普段見せないくらいの笑顔で低い声を出すルシアにイオンは両手を持ち上げながら降参を示す。

そんないつものやり取りの合間に御者が到着を告げる。

ルシアはイオンの手を取って店内へと入ったのだった。


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