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231.海賊の長


「あら...?ねえ、そこの貴方。マーレが何処に居るか知っている?」


「えっ!?マ、マーレさんなら、エルネストさんと、か、会議中ですっ!!」


「エルネストさん...?それに会議って?」


翌日、小舟が完成したと部屋に食事を運びに来たミンジェに聞いたルシアは格納庫へ確認に行った後、マーレを探しに甲板へ出てきていた。

それは、対価が揃ったことでこちらの情報を提示する条件が揃ったからである。


交渉した以上はこっちもちゃんと対価を払わないとね。

勝手ながら、出来るだけ早く陸地へ向かいたいので、マーレにさっさと情報提供して、出て行きたいんだけど。

ミンジェに大抵はここに居ると聞いたから甲板へ来たのだが生憎(あいにく)、居ないようだった。


そうして、ルシアは手っ取り早く、手近の海賊を呼び止めてマーレの所在を問うたのだが。

普段、海の孤立した環境で過ごす海賊たちは当然、女性と関わる機会が少ない。


ましてや、見た目だけは一級品のお嬢様らしさを持つルシアのような女性に関わったことがある訳がなく。

声をかけられた海賊は跳び上がりそうになりながらも、ギクシャクと受け答えたのだった。


「は、はい!エルネストさんは俺らの副船長のようなもので...マーレさんの右腕です!とっても頭の回転が速い人なんで、時々こうしてマーレさんと今後の動きとかを話し合ってたりするんで。」


「そうだったの。私は合ったことなかったから知らなかったわ。教えてくれてありがとう。ところで、貴方はその会議している場所を知っている?」


へぇ、そんな人間が居たのか。

そう思いながら、ルシアは華麗に微笑んで再びマーレの居場所を聞いた。

会議中だろうと、乗り込む気満々だった。



ーーーーー


「確か、この奥よね。」


「ええ、角を曲がって突き当たりって言っていましたから。」


ルシアは狭く薄暗い廊下を曲がりながら、確認するように呟いた。

それを拾ったイオンが(うなず)いて返す。


それを証明するように暫くすると、聞き取れない程度ではあるが、話し込んでいるような声が前方から聞こえてきた。

普段通りなら大抵そこでやっているはずだと聞いていたので、もしかしたら別の場所かも、と思っていたが杞憂だったようだ。


「...には、......でしょう。それに――。」


「...ですよ。......いては、......。」


近付くとさらに途切れ途切れではあるが、聞こえる声が会話として認識出来るようになる。

そこで、ルシアは首を(かし)げた。


「あら?」


「お嬢?どうしたんですか。」


イオンが考え事で(わず)かに速度の落ちたルシアに向き直るように足を止めた。

ルシアもつられて立ち止まる。


「いや、てっきりマーレとエルネストという二人だけだと思っていたから。」


「?...ああ、確かにもう一人分の声がしますね。マーレは何も話していないみたいです。一つは低めの理知同然とした声なんで多分、エルネストさんの声なんでしょうね。もう一つは......。」


ルシアの言葉に耳を()ませたイオンが納得したかのように頷いた。

そう、聞こえてきたのは二つの声。

一つは聞き覚えのない低い声、それだけでも仕事の出来る人という印象が伝わってきた。

そしてもう一つ、マーレとは似ても似つかない少し高めの...。


「ミンジェの声だわ。」


そう、ミンジェの声だ。

今朝、聞いたばかりの声である。

ここでのルシアの関わりのある人間は限られているので、間違いない。


ルシアはまた前へと足を向ける。

何故、ミンジェが居るのかは知らないが、わざわざ知ることでもない。

元々、彼もよく交えて会議をしているのかもしれないし、今日は参加予定がなかったのを途中参加したのかもしれない。

ただ、間食を運んで話し込んでいるとしても何ら可笑しくはない。


そうして、ルシアたちは部屋のすぐ傍までやってきた。

そこで、いつの間にか室内の声が届いていないことに気付く。

こちらの音に気付いたのだろうか、とルシアが首を傾げるより前に、奥の部屋の扉が少々乱暴に開け放たれる。

扉が勢いに合わせた音を立てた。

ルシアはその音に足を再び止めた。


「......っ。」


ルシアは飛び込んで流された時の海の冷たさを思わせる冷え切った青の瞳と真っ直ぐに視線がかち合って、息を呑んだ。

扉から現れたのは探していたマーレだった。

最初に見た、それから今日に至るまで見てきた表情とも違う、残忍さをも思わせる『海賊』の顔。

ルシアには、そう思われた。


「...ああ!お嬢ちゃんか、どうしたんだ?俺に用か?」


しかし、それはすぐに霧散した。

さっきのは(まぼろし)だったかのように、目の前には飄々(ひょうひょう)と気さくに笑うマーレが居る。

気が抜けたかのようにルシアは息を吐く。


「え、ええ。...小舟の方が完成したようだから、対価を払おうと思って。」


「ああ、そう言えばそんなこと朝、聞いたなぁ。分かった。今、聞くからこっちの部屋に入れよ。」


「......ええ。」


そう言って、マーレは扉を開け放ち、歓迎するかのようにルシアを手招きした。

ルシアは少し躊躇(ためら)いを覚えたが、いつも通りに笑うマーレの言葉に従ったのだった。


割と危ないはずの海賊船でもいつも通りのルシア。

うん、そんな気はしてた。

次回から話し合いの回、一話で納まるかは未定。


皆様、外出自粛中のゴールデンウィーク、如何お過ごしですか?

ストレスも溜まるかと思いますが、私の作品が丁度良い暇つぶしになったら幸いです。


因みに作者は今年受けれるか未定のままですが、国家資格取得に向けて、生活の合間に勉強中でして。

ゴールデンウィークはその手の動画だったりのアップも多いので、勉強三昧という...。

合間に今作品の執筆、先日話した例のファンアート、抱えゲームのイベント祭りと、平日より忙しいゴールデンウィークです(汗)


それでも、出来るだけ休みなく書いていきたいと思いますので、応援よろしくお願いします!

拍手、コメント、ブックマーク、評価、ありがとうございました。

また、気軽にコメント等、送ってくださると嬉しいです。

私もファンアートとか欲しい...なんて(笑)


それでは、次回の投稿をお楽しみに!


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