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219.舵を取る


「あー、さすがに()けそうにないですねぇ。」


「まあ、遮蔽物(しゃへいぶつ)の何もないものね!」


ルシアを引っ張って走りながらも、後ろを向き、敵兵を確認するという余裕な素振りを見せて、イオンは然して困っていないかのような声色で言った。

ルシアが大きな息を吐き出しつつ、それに投げ遣りに肯定を返す。


そりゃ、人一人も居ない上に、海岸線に沿ってなだらかにうねるこの道は片や海しか見えぬ開放的な立地もあって、遠くでもばっちり視認は出来た。


後方の敵兵は(かろ)うじて突き離しているものの、視界から自分たちを消し去るには倍の距離若、しくは複雑な地形が必要だろう。


「岬まで追い付かれなければ、そのまま折り返しの道へ合流出来ます。そこからは、角度も変わるんで見失わせると思います。...ただ、問題は。」


「ええ、問題は先程の矢の持ち主ね。」


ノックスが顔をこちらに向けることなく、告げる。

ルシアは(わず)かに言い淀んだノックスの言葉を奪うように彼の懸念事項を口にした。


...狙撃手。

視界に捉えることが出来なかったそれが男か女か、またどんな年齢の相貌なのかも、ルシアには分からない。


ただ、その人間が木々の隙間をそのまま突っ切ってくれば、ルシアたちの正面に回り、挟み撃ちすることは出来ない話ではなかった。


「...弓兵が一人なら初撃さえ防ぐことが出来れば、突破は難しくない。」


「まあ、このまま真っ直ぐ正面突破が最適解でしょうね。」


「......。」


クストディオが事も無げに言った。

確かにルシアの優秀な護衛たちは死角から狙ってくる矢を避け、その矢の飛んできた方向を割り出し、その射手が逃げる前に取り押さえ、()してしまうことは決して難しいことではなかった。


それはルシアもよく知るところである。

ただ、イオンがクストディオに(うなず)いてみせるのを余所に、ルシアは何処か納得の出来ないという顔で口を引き結んでいた。


「お嬢?...おーい、お嬢。ついに息切れ酸欠で走れなくなりましたか。」


「まだ大丈夫よ!」


押し黙ったルシアについに体力の限界かと、イオンは振り返ったまま言った。

ルシアはその心配よりも仕方がないな、という色を濃くみせるようなイオンの言い方に吠えるように否定する。


大丈夫だ、私の足はまだ動いてる。

ルシアは苦しげに息を小刻みに吸っては吐きながら、内心で叫んだ。

まだ走れる、足が動くうちは、と。


本当はとうの昔に体力の限界など越えていた。

忘れがちだが、何度でも言う。

ルシアは貴族の令嬢で、体力は年相応。

朦朧(もうろう)とするほどではなくとも、立ち止まれば一瞬のブラックアウトを覚悟するくらいには息は乱れていた。


それでも、ルシアが己れの足で走っているのは戦力確保の為。

今は前回の別荘地とは違い、こちらはたった四人。


勿論、護衛たちは一人欠けたくらいで苦戦するほど弱くはないけど、その手が一度に届く範囲は限られている。

だから、空けられる手は出来るだけ多い方が良い。

庇うという仕草はどうしたって、そちらの方が効率的に動けるものだから。


そう考えれば、ルシアだけじゃない、無理な庇い方をして護衛たちが怪我しない為にもルシアは走っていた。

まあ、さすがに意識が飛ぶほどになって、足が(もつ)れるようになっては元も子もないので、最終的には背負ってもらうつもりだけども。


どうせ、運ばれるとなればその間に息は整えられる。

なら今、使い切っても良いだろう、と決して背負われることに体力の消耗がない訳ではないことを知っているはずのルシアは全てを棚に上げて結論付けた。


温存出来るものは温存し、使いどころの限られたものは使えるところで使い切る。

ルシアは何処までも効率主義者である。


とはいえ、腐っても破落戸(ごろつき)のような連中でも、敵兵たちは身体を動かすことを得意とする大人の男たち。

さすがに貴族令嬢の全力疾走などが彼らより速いなんてことはなく。

ルシアも徐々に稼いでいた距離がじりじりと詰まっていくのを肌で感じ取っていた。


だから、木々や茂みを利用してたのに、とルシアは舌打ちをしそうな顔で毒づいた。

さて、岬の折り返しまでこの距離がもつのか。

もったとして、その後は。


「...見えた!」


最初にそう溢したのは誰だったか。

開けた視界の先に張り出すように出来た岬。

その根元が青に呑み込まれ、白い飛沫(しぶき)(はじ)けるのをルシアは見た。


ただ、後方の敵兵も既にすぐ近くまでその存在感を示してきていた。

ルシアはそのことに眉を寄せる。


「!?」


あっという間に岬の付根に差し掛かる。

ノックスがそのまま折り返しの道へ北へと視線を向けたところでルシアは先頭に飛び出した。


走れては居るがスピードを上げられるほどの余裕がルシアにないことをしっかりと読み取っていた護衛一同はルシアの突飛な行動に目を丸くした。


だが、しかし。

ルシアはそれを意に介さず。

護衛たちに一言指示を口に出すこともなく。

先程までとは逆にイオンの手を引いたまま、右へ舵を切ったのだった。


はい、こんにちはこんばんは作者です。

いつも拝読いただきありがとうございます。


早くも拍手ボタンを押していただいた方、本当にありがとうございました。

一言コメントもくださった方、とても嬉しかったです。


最近、ブックマークは増えつつも停滞気味でちょっとどうしたものか、と思っていたのですが、コメントは徐々に増えてきて、嬉しく思いました。


面白いと言っていただけると、外出自粛に多忙というストレスも溜まりやすい現状、本当に励みになりますね。


さて、物語は緊迫した状況。

描写がちゃんと伝わっているか不安ですが、続きを楽しみにしてくださると嬉しいですね。

ルシアの行動、吉と出るか凶と出るか...。

前述の方角などを加味していただけるとルシアの行動が分かるかも。


それはそうと、またルビ振り滞っておりまして、申し訳ありません。

合間合間に徐々に進めますので、ご了承ください。

なかなか時間かかって大変。

そして、ほぼ毎日増えていく...。

さてと、作者の愚痴はこの辺りにしまして。


それでは、次回の投稿をお楽しみに!

引き続き応援していただけると幸いです。


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