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21.高潔な騎士


荒れ果てた屋敷に交戦中の騎士と拉致犯。

どうやら、警邏(けいら)騎士団に声をかけたようだ。

そんな中をイオンは私を肩に担いで走り抜ける。

ルシアの目にはもうこれは戦場そのものだった。


けれど、自分の足で立っていないのも相まって現実味がない。

とてもリアルなバーチャルでも見ている気分。

しかしこれは現実である。

ルシアは知らず顔を青褪(あおざ)めさせて肩を震わせた。


「お嬢、大丈夫ですかっ?」


「...人の心配よりオズバルドを探してちょうだい」


ルシアの異変に気付いたイオンがスピードを落としたのを見て、言い返す。

顔は背中側で隠れてイオンには見えていない。


「!イオン、こっちよ。居たわ!」


途中でオズバルドを見つけて、ルシアは指示を飛ばした。

彼はまだ交戦していない。

早く言いかけた何かを引き出さねば。


「オズバルド・クロロス・エンシナル!!」


ルシアの声に剣を構えたままだったオズバルドはこちらを向く。

同時にイオンが私を抱えたまま器用にオズバルドの持つ剣を蹴り飛ばし彼自身も転がした。


「オズバルド!貴方、何かわたくしに言うことがあるでしょう!?黙っていたら分からないわ!このまま投獄されてもよろしいのかしら!」


イオンに降ろしてもらった私は令嬢なんてここには居ない、の勢いでオズバルドの胸ぐらを掴む。


「答えなさい!オズバルド・クロロス・エンシナル!貴方はこんなことを許容出来るほど世渡り上手ではないはずでしょう!!」


「知ったように!!」


「ええ、知っている!!貴方は不正を嫌う高潔な騎士!何より家族や仲間を大切にする正義の騎士よ!」


ルシアは(いきどお)ったように声を荒らげる。

否、憤っていた。


私は確かに作中とは別の結末を望んだ。

だって、あれはイストリアを救う預言書と成り得ても、私にとっては呪いの言葉だから。

けれど、その代償に正義のヒーローを闇落ちなんてさせたい訳じゃない!!

ああもう、我ながら面倒な性格だな!


「......~っ」


ルシアの剣幕を集中砲火されたオズバルドは呑まれながらも目を見開いていた。

若草に溜まる朝露のように涙の粒が零れる。

ルシアは手を離して膝を突くとオズバルドに目線を合わせて問うた。


「オズバルド、貴方が言いたいことは何。」


「...妹が、人質に」


掠れた声で溢したそれを聞いて、ルシアは立ち上がる。


「妹君はここに!?」


辛うじて(うなず)く彼からイオンに視線を向けた。


「行きましょう、イオン」


「ルシア!!」


即決して危険に飛び込むルシアにイオンはやれやれと首を鳴らしながら再びルシアを抱えたところで王子たちが駆け付けてきた。


「殿下!何故、ここに居るのです!!」


「来るに決まっているだろう!早く避難するぞ!!」


促す王子にルシアは首を横に振る。

まだ、しなければならないことがある。


「何故だ!!」


「このオズバルド・クロロス・エンシナルの妹が囚えられています!助けなければ!」


「それはお前が危険に飛び込むほどのことか!?第一、その男は敵だろう!」


ああ、王子の口からは一番聞きたくなかった。

貴方はそれで良しとするのか。


「...駄目よ、殿下。貴方が為政者(いせいしゃ)となるのならば言ってはいけない言葉だわ」


ルシアの瞳は意志の光が灯ったように揺らめき強く王子を射貫いた。

怒りの青い炎が瞳の中で燃え盛っている。


「もし、今、動かなければ貴方は絶対に裏切らない忠誠を誓う優秀な騎士とその家族である一般国民を永遠に失うでしょう。それがどれだけ愚かなことか貴方は分かっているはずだ!!カリスト・ガラニス、貴方はそんな愚王になりたいの!?」


「!!」


王子ならば分かっているはず。

現在、味方が少なくスパイを常に警戒しなければならない境遇の彼ならば。

オズバルドは王となったエンドロール後も彼を支える重要なピースとなるだろう。

信頼出来る仲間、これ以上ない宝だ。


「イオン」


「はいはい」


言い終わったルシアはその息を呑むような瞳を屋敷に向ける。

名を呼ばれただけでイオンは走り出す。

王子は呆然としていた顔を引き締めて、ルシアたちの後を追いかけ始めた。


「フォティア!ニキティウス!エンシナルを頼む!!ノーチェ、来い!」


彼の瞳はルシアと同じように青く輝いていた。


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