表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
218/720

216.裏で動く者


「ここは暫くは大丈夫でしょう。」


「ええ。...とすると、次はここですね。」


ルシアとエドゥアルドがテーブル上の地図を見下ろしながら会話する。

まず、最初にしなやかな指を置いたのはルシア。

それを受けて、エドゥアルドが別の場所を指差した。


ベッティーノ、クストディオの情報を元に、ルシアたちは着実に安全圏を広げていた。

ルシアが指したのは先程、敵兵を倒した地点。

エドゥアルドが指したのはそう多くない敵兵が居る地点。


そう、これは敵兵を各個撃破している過程での確認作業だった。

とはいえ、ここは敵味方入り乱れる戦場であり、どちらかの陣の中という訳でもなく、倒した所でまた敵兵が現れない訳でもない。


つまり、そこは完全な安全圏にはならない。

ならないが、一定の時間を一掃出来れば充分だ。

敵兵を減らすという意味でもあるし、何よりここがバレない為にもだ。


いくら隠蔽(いんぺい)されていようと、相手が念入りに見ていく神経質な人間なら意味がないからね。

かといって、この拠点周りだけ撃破するのは怪し過ぎる。

ここら辺に居ますよー、と言っているようなものだ。


「そうね。先程より少し多いようだし、海岸にも近いから見られて増援を送られても困るわ。多めの人選で早急に片付けた方が良いかしら。」


「ああ、そうですね...ベッティーノ、もう行けますか。」


ルシアは地理を読み込みながら告げる。

(うずな)いたエドゥアルドは振り返り、ベッティーノに声をかけた。

他にもアクィラの騎士は居るが、早急さと大事にしないことを考えれば、ベッティーノやクストディオのような奇襲を得意とする人選が良いだろう。


「あー、行けます。ここなら、木が多いんで上から仕掛けやすいですし。」


呼ばれたベッティーノがエドゥアルドとルシアの間へ割り込むようにして、地図を見やって首肯する。

(わず)かに思い出す素振りで逸らされた視線は、きっと実際のその場所を思い浮かべているのだろう。

彼も奇襲が得策と考えたようだ。


それならば、とルシアはこちらもそういう人選が良いだろうとクストディオに声をかけようとした。

そこで、ルシアはこの広間にクストディオの姿がないことに気付く。


「ルシア様、クストディオなら隠し部屋に武器を見に行きましたよ。」


「そうなの。ありがとう、ノックス。」


キョロキョロとしていたルシアにノックスが意図を理解して答えをくれた。

確かにここには普段見せない隠し部屋があって、そこには持ち切れない量と種類の武器があった。


クストディオのことだから、投擲(とうてき)に使えそうなナイフやら短剣やらを物色しているに違いない。

うん、投擲は武器を回収出来ないことも多々あるからね。

特にこういった戦場という場所では尚更だ。


何より事実、クストディオは馬車からこの拠点に来る間に幾つかのナイフを投擲して置いてきている。

きっとその補充だろう。


本人が見に行ったのは使いやすいものを選ぶ為だ。

あー、こっちに武器を運んできても良いけれど、使えないのなら隠しておいた方が敵に利用されることもないし。


そう話していれば、クストディオが広間の扉を開けて現れる。

見た目にはそのほっそりとした身体に武器が隠されているようには見えないが、しっかりと回収してきたに違いない。


だが、何処に仕舞われたか分からない武器よりルシアは気にかかるものを見て首を(かし)げた。

それはクストディオの表情。

心なしかいつもより難しい表情を浮かべ、早足でこちらへ近付いてくる。


「ルシア、エドゥアルド殿下。早く、ここを出た方が良い。」


「......何があったの。」


開口一番に不穏なことを言ったクストディオに、ルシアは眉を(ひそ)めながら、真剣な表情で続きを促した。

エドゥアルドも同じく顔を引き締めてクストディオに視線を向ける。


二つどころか、声の届いた皆の視線を受けたクストディオはそれを気にした様子もなく、ただ一言、簡潔に述べた。


「隠し部屋の壁の位置が気になって探ったら一ヵ所、(くぼ)みになっていた。そこに爆破物とこれが。爆破物は解除したけどこの分だと他にもある。」


クストディオの言葉にルシアは息をこくり、と呑んだ。

そして、クストディオの差し出した紙を受け取る。

途轍もない既視感、それにルシアは冷汗が背を伝うのを感じた。


「っ!!」


ゆっくりと折り畳まれた紙を開く。

爆破物、そして添えられた手紙。

ルシアは中の文章とそこに明記された名前に舌打ちをしたくなった。

代わりに周りの目など関係なくルシアの顔は(ゆが)められる。

予想してたけど、見たくなかった!


「アドヴィス......!!」


口を引き結んだルシアの代わりにエドゥアルドが忌々(いまいま)しげに署名された男の名前を発した。

そう、そこにあったのはあの男の名前だった。


確かにあの男がこの状況下で関わっていないはずがない。

もう、ただでさえ厄介事だというのに!


「...今すぐ、ここを出ましょう。あの男なら、他にも仕掛けているはずだわ。それも最初に安全確認で探られることを分かった上で見つからないように隠している。」


「ええ。皆も出来る限り迅速に出る準備を、ここは捨てます。」


一刻も早く、とルシアは自ら地図を片付け始めながら告げる。

出て安全という訳じゃない。

けど、ここが一気に危ない場所となったのは否めなかった。

ルシアの即行動にエドゥアルドも指示を出して、自分自身も細々したものをまとめ始める。


続くように皆が慌ただしく動き出したその瞬間。

隠蔽のかかっているはずの外から続く扉が荒々しく蹴破られたのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ