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201.参戦者の猛攻(前編)


「これはまた......盛観ですね。」


「......そう、ですわね。」


隣に立つエドゥアルドの呟いた言葉に、ルシアも目前の光景に目を(すが)めながら、受け答えたのだった。



ーーーーー

時間は少し手前、ルシアたちが突入した瞬間に(さかのぼ)る。

ルシアは蹴り開けられた先に広がる広間に、目を走らせた。

まず、探すのはエドゥアルドだ。


「!エディ様、後ろ!!」


「!?」


ルシアが見つけたのは一人の敵兵を切り伏せた瞬間のエドゥアルドだった。

そして、その背後から剣を振り被る敵兵の姿を見咎める。

ルシアは見るや否や、声を張り上げた。


ルシアの高い声は喧騒の中でも響き、エドゥアルドが咄嗟にしゃがんだ。

エドゥアルドの頭すれすれを刃が通過する。

エドゥアルドはその隙を見逃さず、立ち上がる勢いを剣に載せて、圧し斬った。


「ご無事!?」


「ええ、貴女のお陰です。そちらは上手くいったようですね。...それと何故、貴方がここに?」


クストディオとニキティウスによって、エドゥアルドまでの道が出来る。

エドゥアルドの元まで王子が辿り着き、ルシアはエドゥアルドに怪我の有無を問い掛ける。


エドゥアルドは首を横に振り答えた。

ルシアもぱっと上から下へエドゥアルドを見回すが、服の乱れはあるものの、斬れている部分などは見受けられず、ルシアは胸を撫で下ろす。


エドゥアルドはルシアに答えたその後、ちらりとルシアを抱きかかえている王子に目をやって、王子に疑問をぶつけた。

...(わず)かに眉が(ひそ)められているのは気のせいか。


「俺の密偵から聞いて駆け付けた。」


「そうでしょうね。では先程、突入してきたのは貴方の部下ですか。」


「ああ。」


そう言って、エドゥアルドが視線を向けたのは正面からの広間の扉側。

ルシアも追って見れば、確かに見知った三人の姿が見える。

やはり、先程の一際大きい物音は彼らが突入した際の音だったようだ。


一つ、ルシアたちが悠々と話していられるのは、(ひとえ)にエドゥアルドの周りを囲むようにベッティーノを始めとした彼の騎士が立ち、ルシアもルシアでノックスとヒョニ、そしてアナタラクシに守られているからである。


ルシアたちが来たことで騎士たちだけではあった穴が塞がり、エドゥアルドが必ずしも応戦する必要がなくなった。

エドゥアルドもエドゥアルドで立場を理解している王太子、一分の隙も見せず、敵が来れば応戦出来るように構えているが、守られることに不服を示してはいない。

因みにクストディオとニキティウスは敵兵の中に飛び込んで倒し続けている。


「......それで、そこのルシア嬢の護衛に抱えられているのは見間違えでなければ、救出された僕の婚約者だと思うのですが、貴方が居ながら、何故、このような危険な場所に?」


ひ、とルシアは悲鳴を上げかけて抑え込む。

それだけ一気にエドゥアルドから黒い何かが立ち上がったのをルシアは確かに見た。

いや、目で見える(たぐ)いのものではないけども!


当のベアトリーチェはエドゥアルドに視線を向けられた時点で後ろめたさからか、肩を(すく)めさせて縮こまってしまい、エドゥアルドの様子の変化に気付かなかったようだ。

幸いにも、と言うべきかな...?


さて、エドゥアルドが言いたいことは要するに王子が居り、その側近が居るのなら、ベアトリーチェを広間に連れて来る、絶対的な理由もなかったのでは?ということだ。

まぁ、元々王子が居なくともルシアの予定ではそうだった。


「確かにそうだが、言い出したのはお前の婚約者だ。」


王子の言葉に信じられないようにエドゥアルドが目を見開く。

この時ばかりはエドゥアルドも状況を忘れて心底驚き、普段でも見せないほど(つくろ)われていない表情を見せていた。

エドゥアルドはその表情のまま、ルシアに視線を向ける。


「ええ、本当よ。」


ルシアは自分が発破をかけたことなど全ての過程を省きまくった結果だけを見て、肯定した。

そして、ねぇ、とベアトリーチェに振り返る。

ベアトリーチェは事実ではあるので、こくこくと(うなず)いた。

それを見て、エドゥアルドはより信じられないという顔をした。


「彼女もただか弱い令嬢ではなかったようよ。貴方には喜ばしいことですわね。」


ルシアが微笑んで告げれば、エドゥアルドはルシアの意図した言外の言葉まで読み取り、口を引き結んで押し黙った。

王族に嫁ぐ女性は(したた)かなくらいが丁度良い。


「詳しいことは全てを終えてから聞けばよろしいわ。今は...この場の敵を。」


「ええ、そうします。」


ルシアはエドゥアルドの様子に笑みを溢してから顔を真剣な表情に戻した。

エドゥアルドも同じく表情を戻し、断言するように頷いた。

あー、これは後でベアトリーチェは詰め寄られるかもしれない、ごめんベアトリーチェ。


「あ、では俺はあちらに加わってきますので婚約者様は殿下にお任せ致しますね!」


「ええっ!?」


「は。」


ルシアたちが戦闘の鎮静に目を向けたタイミングを見計らったように、イオンが声を上げた。

だが、その内容が内容だけにベアトリーチェが驚きに悲鳴のような声を上げ、エドゥアルドは理解が遅れたように固まった。


しかし、二人の様子など意に介さず、イオンは固まっているエドゥアルドの手から剣を抜き去り(さや)に収め、空いた手に問答無用でベアトリーチェを押し付けるという器用なことをやって退()けた。

そして、文句を言われる前にルシアに行ってきます、と告げて、敵兵の中に飛び込んでいったのだった。


おやおや、とルシアがイオンを見送った目線を戻せば、今度はベアトリーチェまで固まってしまっていた。

だが、どうしようもなく困り切った視線とかち合う。

ルシアは王子と顔を見合わせて、苦笑いを溢した。


「......まぁ、妥当だろうな。」


王子が一言呟く。

まぁ、要人を纏めて、イオンという戦力を追加すると考えれば、確かに妥当だ。

ただ、普段逃げるベアトリーチェとそのお陰で接近が叶わず、現在どう扱って良いか困っているエドゥアルドを見ていると大丈夫かな、と思わなくもないが。


「...まぁ、慣れてもらうしかないのだし。」


今後のことを考えれば。

ルシアは曖昧に笑ったのだった。


さて、例によって例のごとk...

後編は明日の投稿になります。

ご了承下さい。


では、次回の投稿をお楽しみに!


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