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197.輝くのはガラスか、星か、それとも金糸か


「...構う必要はないわ。そのまま行ってちょうだい。」


アドヴィスを(にら)み付けるようにしながらも、ルシアは小さく護衛たちに指示を出す。

既にあの男の中で確定しているだろうが、わざわざ肯定してやることも戯言(ざれごと)に付き合うこともない。

無視して、抜ければ、良い。


現在、ルシアたちは広間の扉まで一直線に伸びる廊下の端近くに居る。

ざっと目分量で10分の1くらいか。

ルシアの指示に護衛たちは歩を進める。

扉まであと10分の1。


「...ですが、イストリアの方ですか。」


聞く必要はない。

扉まであと10分の2。


「いやはや、私はイストリアに行ったことがありませんからね...。」


「...。」


飄々(ひょうひょう)(うそぶ)くアドヴィス。

ルシアは何か仕掛けられないかのみを警戒し、アドヴィスを睨む。

扉まであと10分の3。


「イストリアの高貴な方ですか...王族。いえ、彼の国の王族は輝かしい金髪で有名でしたね。」


まるで今まさに思い出したかのような仕草で(しゃべ)り続けるアドヴィス。

......白々しい。

扉まであと10分の4。


「では、貴族のお姫様ですね。はて、銀髪が特徴的な家がありましたか...。」


わざとらしく、口に出して推測するアドヴィスは言い当てる過程を楽しむかのように、そしてルシアたちの反応を見続けているようでもあった。

探るように観察するアドヴィス、警戒に睨むルシア。


扉へと近付くことは扉の前に立つアドヴィスにも近付いているということ。

気味の悪いほどの笑みが、大袈裟な仕草が、混沌の黒一色の瞳が、近付く。

イオンが背後でベアトリーチェに目を閉じているように促す声がする。

扉まであと10分の5。

あと半分。



「...ほう?」


アドヴィスが意味深に首を(かし)げて、興味深そうにルシアを射貫く。

まるで何かルシアの反応に意外なものでも見つけたかのような。

その様子がとても嫌でルシアは口を引き結んだ。

扉まであと10分の6。


「貴族ではない...?ああでも、元々は貴族の令嬢...没落?いや、逆か?元が庶子で途中から引き取られたのか...。」


ただただ可能性を並び立てるアドヴィス。

どれも違うが徐々に正解へと忍び寄っているような、まだ距離があるというのに手を伸ばされたかのような、そんな気味悪さがルシアに絡み付く。


反応しては、いけない。

この男は可能性の中でルシアが反応するのを待っている。

蛇を思わせる粘着性を持った視線が決して見逃(みのが)しはしないと言っているようだった。

扉まであと10分の7。


「おや、どれでもないようだ。......はて。」


何度繰り返そうが、答えない。

そんな言葉が(のど)に引っ掛かっている。

けれど、感じる底知れない気味悪さのまま、声を荒らげれば、奴の思う(つぼ)

扉まであと10分の8。


「ああ、そうか。そうでしたか。」


急にアドヴィスが答えが分かったと言わんばかりに(うなず)くのをルシアは見た。

男の顔が嬉しそうに恐怖を(あお)るように口端を吊り上げる。

ルシアは無意識に(わず)かに身を引いていた。

どんどんと近付くアドヴィスから少しでも逃れようという心境の表れのように。


あとちょっと。

あともう少し。

扉まであと───。


「イストリアの第一王子殿下は早くから婚姻を上げておりましたね。」


っ!!

扉まで10分の9。

扉目前でアドヴィスがそう言い放った。

ルシアは出かかった声を必死に嚥下(えんか)する。


アドヴィスとルシアたちの間にあるのは20歩ほどの距離。

手を伸ばしても届く訳がない距離。

けれど、もうほとんど詰まった距離。

たった20歩、然れど20歩。

この場合はどっち?


「ノックスっ、突破して!!」


いつの間にかカラカラに渇いた掠れた声でルシアは悲鳴の如く、それでも小声で指示を出す。

彼らなら、20歩程度の距離は一瞬で詰められる。

あとはもう、広間へ駆け込めば。


「王子妃殿下は確か(よわい)15歳。丁度、貴女もそのくらいの見目をしておりますね。」


ノックスを始め、イオンもクストディオも走り始めていた。

一気に受ける空気にルシアは耐える。

それでも、その間にもアドヴィスの声がルシアの耳に纏わりつく。


「おや、せっかく分かったというのにつれないですね。ルシア・クロロス・オルディアレス嬢。」


「ーーーーっ。」


焦りと共に自分の喉が戦慄(わなな)いたのをルシアは聞いた。

それが音になったのか、ならなかったのか、どうかも最早ルシアに判断付きかねた。


「失礼、今はルシア・ガラニス王子妃殿下でしたね。」


ああ、もう聞きたくない!!

名前を呼ばれる度におぞましさが這い上がる。

広間、広間にさえ辿り着けば。


現在、広間がどうなっているのかも、少なくとも敵がうようよ居ても可笑しくないことも忘れて、ルシアはそれだけを考える。

いや、解っていたとしても多勢の敵兵よりアドヴィスの方が嫌だった。


ノックスが扉を蹴り開けようと加速した。

その時に。


廊下の片側を埋め尽くしていた窓ガラスから廊下を照らし出していたほんの僅かな星明かりが一気に奪い(さら)われ、影が廊下を覆い尽くした。

まるで大きな障害物が現れたというように。


「......何!?」



そして、(いぶか)しむ暇もなくガッシャン!!!!と窓ガラスが大きな悲鳴を上げた。

アドヴィスが降り注ぐ破片から腕で顔を庇いながら飛び退()く。

同じようにノックスたちもアドヴィスを注視することを忘れずに壁際に退避した。


きらきらと星の輝きを受けて、散るガラス片。

いつの間にか、星明かりを隠した影は一瞬で消え去っていた。

そして、もう一つ、星明かりを(はじ)いて輝くものが。


金色。

それは金色をしていた。

ガラス片のように、星明かりのように明度の高い白い色ではなく。

決して派手な鮮やかさはないがはっきりと違う金色が。


きらきら、きらきらと、幻想的なほどに光が弾き舞う。

ガラス片と共に廊下へ飛来したその正体は、金の糸と見紛(みまが)う、そんな輝かしい金髪だった。


その中心で揺れた金糸の髪の内から、星明かりすらない冬の空を思わせる紺青が覗いたのを、ルシアは確かに見たのだった。


はい、遅れまして申し訳ありません。

けれど、一時には間に合った良かった(安堵)


今回のルシアは中々にSAN値が削られている状況という感じで書いております。

元々、精神面は鋼じゃありませんからね、王妃とのお茶会でげっそりするくらいには。


あとはただ端にアドヴィスとの相性が最悪だったのでしょう。

普段、恐ろしく強いルシアにも弱ることがあるようです。


というのは建前で、実は作者が最近クトゥルフ神話のTRPGを見たばかりという。

完全に小説に影響が...なんて(汗)

面白いですよね、クトゥルフ。

ね?


原作が読みたくて、思わず注文してしまった作者なのでした。

英語版なので届くのに2ヵ月ほどかかるという...。

今から楽しみです。


さて、今話はこんな感じでお送りしましたが、いかがだったでしょうか?

読んでくださっている皆様がこの作品のどんなところを気に入ってくださったのか、とても気になります。

作者としては気軽にコメント等で教えていただけると嬉しいです。


いつもありがとうございます。

ブックマークも600を越えて、評価を付けてくださっている方も本当に感謝しています。

このまま、終幕まで書き上げるぞー。


今後とも応援していただけると幸いです。

よろしくお願いします!

それでは、次話投稿をお楽しみに!!


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