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193.今も昔も相も変わらず


「助かった、クストディオ!」


「......礼を言えるその余裕はルシアに向けて。」


壁から突然発射された矢に、後ろを走っていたクストディオが瞬時にイオンに追い付き、(はじ)く。

その手際の良さと素早さに感嘆交じりの礼をイオンは走りながら、クストディオに投げ掛けた。


しかし、礼を告げられた側のクストディオは照れるでも、素直に受け取るでもなく、イオンが(かか)えているルシアを気遣えとイオンに釘を刺した。

うん、ほんとに。

クストディオの言う通り、もうちょっと気にかけてくれても良いだろう。

多少は仕方ないとしても。


何年経とうと、イオンは安全ベルトなしのジェットコースターのようである。

とは言っても、他のメンツだと違うのかと言われれば、そう変わらないけども。


「...突入前に軽く間取りをエディ様から聞いておいて良かったわ。」


「あー、そうですね。さすがにこんな罠も敵もうじゃうじゃしてる建物内を行方も分からず、駆け回るのは大変ですわ。」


頭の中の地図に照らし合わせ進む道の指示を出しながら、ほぅ、と息を吐いて、ルシアは心底安堵したように言った。

それを聞いて、イオンたちも同意するように(うなず)いた。


まぁ、それもこれもエドゥアルドが間取りを覚えていてくれたお陰である。

突入前のたった数分である程度の間取りを頭に叩き込んだ自身を棚に上げて、ルシアはエドゥアルドに感謝の念を送る。


「...辿り着かなければ、断言は出来ないけど、リーチェは最奥の部屋に居るはずよ。もし、居なければ他の有力候補から順にあたるわ。」


「承知しました。」


「扉は蹴破る?」


「はは、いっそ片っ端から扉、蹴り開けていくか!何だか、懐かしいですね、お嬢?」


現在、ルシアたちが目指して駆けているのは最奥の部屋に向かってだ。

しかし、アドヴィスが素直にベアトリーチェをそんな分りやすい部屋に置いておくかは微妙なところだった。


それならそれで、片っ端からでも探すつもりなんだけども。

そんな気持ちで言葉を紡げば、ノックスから素直に了承の返事が届き、クストディオから扉を蹴破る提案が飛んできた。


確かにこの状況下、隠密行動の必要は最早なし。

ピッキングなんてしなくとも、盛大な音を立てて扉を蹴破っても大丈夫だ。

唯一、憂慮するとすれば、ベアトリーチェだが、どうしたって脱出時にもっと荒っぽい場面を見ることになるだろうから、どうか気絶はしないで欲しい。

あ、でも、どのみちノックスが抱えることになるだろうか。


その場合は私がノックスにしがみつくようにして背負われて、ノックスの両手を空けるのが最適か、とそんな自らハードモードの作戦をルシアが立てていたところに間近から笑い飛ばす声と共にからかいの滲んだ問いかけが聞こえてルシアは状況を忘れて、ふい、と視線から(のが)れるように逆を向いた。

しかし、声の主が自分を抱えている以上、逃げ切れはしない。


「...オズの妹君を助けに行った時ね。」


「ええ、()()()助けに行った時です。」


わざわざ『お嬢』の部分を強調し、間髪入れず返された言葉にルシアはとうとう項垂(うなだ)れる。

ほら、クストディオとノックスが顔に?を浮かべてるじゃん。


あれは王子と婚約した6歳の時。

王子の誘拐事件に割り込んで身代わりにルシアが誘拐された事件の話である。

あの日、窓を蹴破ってルシアを助けに来たイオンと片っ端から扉を蹴破ってオズバルトの妹君を探したことはルシアの記憶にも鮮明に残っている。

それより、後に護衛になったクストディオやノックスが知らない話である。


「...昔、あったのよ。似たようなことが。」


さすがにこんな罠だらけではないし、あんな厄介な敵でもなかったけど。

遠い目になりかけて告げたルシアにクストディオとノックスは目を見合わせた。


「...なんと言うか、ルシア様は昔からルシア様なんですねー。」


「多分、今後も変わらない。」


「ちょっと、どういう意味よ。」


「そのままでは?」


沁々(しみじみ)と感想を口にするノックス、未来を予想してコメントするクストディオ。

表情から声音から呆れのようなものを、と感じ取ったルシアがむっとして問い返す。

それに即答したのは二人ではなくイオンで、それは容赦ない一言だった。


今度は言い返せず、ルシアは拗ねてイオンの肩口に顔を埋めた。

その際、勢いよくイオンに打撃を与えるのはご愛嬌だ。

いてっ、とイオンの(うめ)きが届いたが、知ったこっちゃない。


若気の至りどころか、現在進行形でこの状況下、そしてこれからも目白押しなシナリオの数々。

三人の言葉が的を射ている分、図星なのは間違いではないのである。

にしても、誰一人緊張感がなさ過ぎやしないか。


さすがに敵兵の姿はないが今尚、矢から槍からナイフから、時に前方から勢いよく迫る大きな刃の付いた振り子や落ちれば串刺し落とし穴なんてのを避け続けているというのに。

いや、今思ったけど、何処のトラッブ屋敷だよ!!

ベタな奴じゃん、ゲームとかで特に!

なんで、普段は普通の屋敷にあるの!!

構造的に仕込む必要あるものが幾つか見られたのは気のせいか!?

気のせいだよね!?


「......リーチェが起きていてくれると良いけど。」


出来れば、ひ弱な令嬢だからと拘束もなしに部屋に閉じ込められていて欲しい。

それならば、全ての扉を蹴破らなくても部屋の外から確認が取れる。

いやね、扉の一つや二つ、十でも二十でも蹴破ったところでイオンたちに支障はないだろうけども。


本来、ここはアクィラ貴族の別荘な訳だ。

被害は最小限の方が良いだろう。

まぁ、手遅れ感が満載だけど、とルシアはここまでの道のりを思い出してため息を吐いた。


気を取り直して、顔を上げる。

(わず)かに赤く色付いた額に手を当てながら、ルシアは最奥まで指示を出し続けたのだった。


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