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189.悪魔と呼ばれる男


「おやおや、そう警戒されずとも私たちは今の貴方に危害を加えませんよ。」


「......。」


一気に走った緊張感、誰もがまるで身動ぎ一つが命取りとでも言いたげに固唾(かたず)を呑む中、それがどうしたとでも言うように男が穏やかそうに声を上げた。

しかし、その口調も大袈裟なほどの手振り身振りもこの状況においては白々しいだけだった。

まるで道化師の演技を見ているような気分になりながら、ルシアはただ、男を見据えた。


老人のような見事な白髪に瞳孔が分からないほど深い闇のような黒の瞳をした男、アクィラのものとは違う、然れど旅人にしては上品な服に身を包んだその男は報告にあった『悪魔』そのものだった。

先程から場違いなほど明るく気さくに語りかけてくる様子はこの状況でさえなければ、とても穏やかで優しげな人に映っただろう。


これが『悪魔』のささやきね...。

ルシアは報告書通り油断ならない男だと再度、頭に刻んでいく。

甘言に始まり、人を(まど)わす言葉に()けている厄介な敵。


「...貴方がアドヴィスですね。」


エドゥアルドが立場のあるものとしてか、この場の代表としてか、言葉を発した。

白髪の男はそれを受けてにやりと笑う。

あくまで大袈裟ではあるが、紳士的に礼儀正しい振る舞いとはかけ離れた気味の悪い笑みにルシアの頭の中はずっと警鐘が鳴り響いていた。

あの男に何かを語らせてはならないと言いたげに。


こんなにも人の笑みを見て、気味の悪いと感じたのはスラングの毒蜘蛛(どくぐも)スピン以来である。

いや、まだ彼の方がまだマシだったかもしれない。

そう思うほどには男はルシアにとって、とても薄気味悪く、関わってはならないものに見えた。

今までのどの危機よりも冷汗が流れる。


「はい、私はアドヴィスと申します。お見知りおきを、王太子殿下。ご存知いただけていたとは光栄ですよ。」


男──アドヴィスは名乗りを上げた。

またも大袈裟に礼を取り、笑う。

一見して、たった二人だけの無防備な状態、まずこうして出てきたのだから、何かしら仕掛けているにしても、その余裕綽々な様子は異様だった。


同じことを感じたのか、無意識にエドゥアルドの足が半歩後ろに引かれたのをルシアは見た。


「......。」


「はは、貴方の考えていることを推測致しましょうか、王太子殿下。きっと、疑問に思っているのでしょう?何故、私たちがたった二人で最奥ではなく、こんな広間で待ち構えていたのかとか。」


エドゥアルドは答えない。

こういう手合いは相手の反応を楽しむ節がある。

動揺するのも動揺せんと毅然(きぜん)とするのも駄目だ。

一番は何も反応しないことである。

しかし、それも想定済みなのか、アドヴィスが気にした風もなく、けらけらと笑う。


「ああ、後は大事なお姫さまの居場所とかですね。」


「......!」


(わず)かにエドゥアルドの(こぶし)が握られ、動揺がきゅっと縮まったのを見て、アドヴィスはにぃ、と口を弧に描く。


「ご心配なさらずとも、お姫さまは傷一つ付けておりません。彼女は最奥の部屋にてぐっすりとお休みになられておりますよ。さしずめ、眠り姫と言ったところですね。」


お前が(さら)っておいてよく言う!

冗談じゃない事柄を冗談のように言うアドヴィスにエドゥアルドではないが、ルシアもイオンの肩に回した腕に力が入った。

アドヴィスが何を仕掛けているか、分からない以上、容易に動く訳にはいかない。

そうでなければ、ルシアはいの一番に飛び出して、その手を振りかぶっていたことだろう。


「そして、貴方は姫を助けに来た王子様と言いたいところですが、私たちは大団円の為に踏み(にじ)られる都合の良い駒になりたい訳ではありませんからね。」


「...何が目的だと?」


アドヴィスの例えにそれが事実で良いんじゃないか、とルシアは内心で毒を吐いた。

エドゥアルドがアドヴィスが交渉を持ちかけようとしているのを察知して、問い返した。


しかし、その声は低く硬い。

ルシアからは見えないが表情も硬いのだろうと想像がつく。

それはそれは腹の中が煮え繰り返っていることだろう。


「さすがは王太子殿下、お察しが良い。ええ、私たちはね、貴方に取引を持ちかけに来たのですよ。」


「取引?」


「ええ。どうです、王太子殿下。私たちと一緒に戦争を起こし、ヘアンを滅ぼしませんか?」


「!?」


警戒いっぱいに聞き返したエドゥアルドにアドヴィスはとても楽しげに笑う。

そうして、彼から紡がれた言葉はルシアも想像出来ないような異常としか形容出来ない言葉だった。

エドゥアルドが息を呑み、ルシアも盛大に目を見開く。

騎士にもイオンたちにも驚愕が走る。


「さあ、どうしますか王太子殿下。」


言い知れない異様さが広間を包む。

突入時と何が変わった訳でもないのに、がらりと変わってしまった雰囲気に、男の瞳に、呑み込まれそうだとルシアは純粋に恐怖を感じた。

それは男の語る内容の意味不明さ故か、それとも男自身にか。


まるで普通の商談のようにそう言って、終始浮かべていた気味の悪い笑みを深めたアドヴィスを、ルシアは人の形をしただけの未知の化け物のように感じたのだった。


はい、気味の悪い笑みを浮かべたアドヴィスという男と対峙した皆さんはSAN値チェックです。

と、いうイメージで今回は書きました。


ただ戦闘に強い戦士というのではなく、ただ戦略を練る策士というのでもなく、精神攻撃が得意なタイプですね、彼は。

そして、罠を巡らせる頭もある。

...一番、厄介な奴だわ。


さて、ルシアたちはどう乗り切るのでしょう。

そして、アドヴィスと行動を共にするヘアンの商人、彼は今回何も喋っていませんが、何が目的なのでしょう。


それでは次話投稿をお楽しみに!


あ、実は第5章、作者の予想を遥かに越えて長引きそうです。

もしかしたら、章を分けるかもしれません。

...最初の予定ではエドゥアルドが狙われるくだりはさっさと終わらせてアクィラ戦争の起きるはずだった夏まですっ飛ばす予定だったのに、何があった...!?


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