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179.危険分子


「...だとすれば、......ということね。」


「お嬢、エドゥアルド殿下のお見舞いに行く時間ですよー。」


机に広げられた紙と(にら)めっこしながら、調査結果による事実に基づいた推理をしていたルシアに新たな報告書と参考資料を持って現れたイオンが(あたか)も根の詰めすぎを注意するが如く声をかけた。


「分かった、今行くわ。」


ルシアはふう、と息を吐いて顔を上げて、推測内容を書き留めていたペンを置いて立ち上がる。

怪我を負ったエドゥアルドはここ数日で劇的に回復している。


それもこれもゲリールの薬のお陰でもう充分元気そうにしているのだが、現在、エドゥアルドは経過観察として、まだ安静にしているのだった。

またをあまりの人間が危険が存在している現状、すぐに外へ出ていくのを許さないとも言う。


ともあれ、ルシアは毎日決まった時間にエドゥアルドを見舞うようにしているのであった。

これに関してはルシアがエドゥアルドを心配してのことだけではなく、エドゥアルドの周囲が差し止めている情報をエドゥアルドに伝える目的もあったりする。

ルシアとしてもエドゥアルドの頭脳は頼りになるので敢えて断ることもせず、毎日エドゥアルドに報告をしているのだった。


勿論、ルシアが毎日見舞う必要はないのだが、根を詰め過ぎているルシアに上手く休憩を取らせるという意味でも有効的だと、彼女の護衛たちが考え、止めるどころか、こうして時間きっかりに声をかけていることを当のルシアは知らない。



ーーーーー


「エディ様、お加減はいかがでしょう?」


「ルシア嬢、もう随分前から良くなってますよ。ああ、いつもありがとうございます。」


ルシアがベッドへと近付き、報告書を手渡せば、エドゥアルドはにこやかに笑ってそれを受け取った。

その表情に引き()れなども見当たらない辺り、本当にほとんど治ってきているようだ。


それでも怪我の具合について尋ねるのは最早、挨拶と化しているのと一応これが見舞いだからである。

例え、中身が調査内容の報告会兼議論会だとしても。


いや、ほんともうね。

目覚めて最初に見舞いに来た時に薬のことを質問攻めにされましたよ、もう。

危うくゲリールの民を引き抜かれかねないところだったわ。

さすが商人の国の王太子だよ、全く。


「...それで、少しは犯人が割り出せましたか?」


「そうですわね...まだ確証といったところまでは。ただ、この男。」


ルシアは苦く表情を(ゆが)ませながら、エドゥアルドに渡した書類から一枚を抜き取り、見易いように彼へ示す。

そこには一人の男について調べられた内容が書き込まれていた。


それは一枚にびっしりと書き込まれていたが、人一人を調べるにあたって調査結果が一枚ではとても収まらないことを知っているエドゥアルドは内容を読むよりも早く、眉を(ひそ)ませたのだった。


「男の名前はアドヴィス。幾つかの国を点々とする商人ということになっておりますわ。けれど、彼が訪れた場所では必ず彼と接触した誰かを発端に大小様々ではありますが、争いが起こっています。」


「...ああ、それで『火種を呼ぶ悪魔』なのですね。」


資料を読んで、エドゥアルドがそう溢す。

それは調査を行う過程でアドヴィスに付けられた俗称であり、また彼は時に戦争規模の波乱を招きかけた記録もあることから『戦争屋』とも呼ばれていた。

彼の男は驚異的な頭脳を持って、人を(まど)わし、決して自分の手を汚さない卑劣な男。


アドヴィスという男についての資料は少ない。

ただ、その男を前々からルシアは耳にしたことがあった。

(ひとえ)にそれは王子が調べていた過去があったから。


アドヴィスは何度かイストリアでも騒動を起こしており、それらの調査を行った王子が共通して事件前後にその場に滞在していた旅人だったり商人だったりの特徴が一致していることを不審に思い、調べさせていたのだった。


それでも尚、アドヴィスに関する情報は少ない。

ニキティウスやノーチェといった優秀な密偵を持ってしてでもある。

そのことがよりアドヴィスという男を要注意人物として、ルシアの記憶に留めさせていたのであった。


「...先日、わたくしの密偵が街でアドヴィスを確認致しましたの。彼はある商人の店に出入りをしている形跡が御座いましたわ。」


「...数年前に出来た店か。」


ルシアが抜き取った書類の一つ下にあった紙を指す。

そこには大胆にもアクィラの王都に店を構える店主の情報だった。

こちらはごく普通の人間と変わらない情報量がある。

だからこそ、ルシアは不審に思っていた。

アドヴィスが出入りしているのに普通な訳ないじゃない。


「彼は今までの加害者たちと同じくアドヴィスの甘言に惑わされた被害者という可能性もありますが、どうもただの商人でもない様子ですわ。現在も引き続き調べさせておりますけれど。」


「...ええ、分かりました。これは下手に調査すれば、すぐに勘づかれてしまうでしょう。事は慎重に進めなければ。」


そうだ、エドゥアルドの言う通り慎重にならなければならない。

もし、本当にアドヴィスが関わっているのであれば、件の商人だけでなく、アクィラとまさに戦争を起こそうと計画していたヘアンを放っておく訳がない。


アドヴィスがヘアンの残党を見つければ、必ず彼らに力を貸す。

いや、もしかしたら件の商人こそがヘアンと繋がりのある人物かもしれない。


「アドヴィス......本当にふざけた名前ですわ。」


「?」


つい、今までに彼が関わったとされる事件の数々を資料で目にしてきたルシアが忌々しげに呟けば、エドゥアルドが怪訝そうに首を(かし)げた。


「アドヴィス、というのはスラングの言葉で『助言』いう意味ですわ。彼のことだから、偽名でしょうが、だからこそ腹立たしいことです。」


助言、だなんて。

彼の言葉は人を(おとし)める言葉だというのに。

よりにもよって、西方諸国の敵であるスラングの言葉ときた。


「...今件のこともありますが、アドヴィスを野放しにはしておけません。」


「そうですね、...話を聞けば聞くほど僕もそう思いますよ。必ず、捕らえなくては。我が国で好き勝手はさせません。」


「ええ。」


ヘアンとは別の方向から現れた危険分子。

アドヴィスがヘアンと繋がりがないにせよ、今、火種が起きれば、ヘアンにとっては大変都合が良い。

そんなことにはさせない。


断固とした口調で述べれば、エドゥアルドも真剣な表情で(うなず)いた。

状況が複雑化していく中、ルシアは固く決意を宿した瞳に青く輝く炎を揺らめかせたのであった。


祝5ヶ月!!

我ながら途中何度か休載したものの、ほとんど日刊でルシアたちの物語をお送り続けられたこと、良くやったと思っております。


その間に今作品を見つけ出し、読者となってくださった皆様、本当に感謝でいっぱいです。

ブックマーク、評価、コメントをくださった方も本当にありがとうございます。


御陰様でここまでやってこれました。

私は今までにここまで長期間続けて書き続けたことはないもので、それでも続けられたのはまさしく皆様の御陰です。

ぜひ、これからも応援していただけると嬉しく思います。


さて、それでは作者からはこのくらいに致しまして。

引き続き、今作品をお楽しみください!


追伸

丁度、本日は3/11でしたね。

東日本大震災から9年、悲しみに囚われる必要はありませんが、たった一日だけでも心に刻む日があっても良いかもしれません。

私はそれなりに震災に近いところに住んでいまして、他人事では済まなかったりするので、毎年気にかけております。


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