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177.フラグは折れた?


「ルシア様、頼まれていたものをエディ様から預かってきました。」


「あら、貴方が運んできてくださったの?ありがとう、ベッティーノ。」


来訪者を報せるノックがルシアの与えられた部屋に響く。

ルシアは扉前に立っていたノックスに来訪者の確認を任せて、自分は書きかけだった便箋(びんせん)にペンを素早く走らせる。


ノックスが来訪者がベッティーノであることを伝えた時にはもう、ルシアはペンを置いて、テーブルの上に広げた紙の数々を束ねていた。

ルシアは入室を許可してソファにかけたまま、ベッティーノを迎え入れる。


入室と共にルシアを視界に入れた彼は、にかっと笑って手に持っていた紙の束を掲げてみせた。

ルシアは微笑んで向かいのソファを勧める。


ここに居るのは、ルシアとその護衛だけである。

一騎士が、なんて言う者は居ない。


「はい、こちらが先日の報告書になります。」


「これをわたくしに見せるのは多少不都合があったでしょうに、お願いを聞いてくださってありがたく思います、とエディ様にお伝えしてくれると嬉しいわ。」


差し出された書類を受け取りながら、ルシアはイオンの淹れたお茶をベッティーノに勧めた。

現在、クストディオには王宮内で出来る情報収集に出てもらっている。


「...ヘアンの工作員が五名に加え、丁度、運が良いのか悪いのか、あの日の晩に合流した一名。それと、雇われていた十名の用心棒。一名、重傷だったが現在は快方に向かっている...。」


ルシアは渡されたばかりの書類を()って、すらすらと内容を読んでいく。

そこに書かれていたのは先日の、ヘアンの工作員の捕り物として乗り込んだ際の報告書だった。

(ページ)を繰っていけば、後日調査に入った際のものもある。


あの日、あの後、クストディオの建物内に他の人間が居ないという調査結果を受けて、ルシアたちはアクィラの王宮へ帰還した。


それから数日、ルシアだけは忙しく調査を行うエドゥアルドを(わずら)わせないように大人しく部屋で過ごしていたのだった。

その間、エドゥアルドに頼んだことと言えば、本日届けられたこの報告書を見せてもらうことだけである。


まあ、クストディオには王宮内で動き回ってもらったり、エドゥアルドに何かないか、影ながら護衛してもらったりしていたし、何ならニキティウスには他にヘアンの工作員が新たに(まぎ)れていないか、現在も調査してもらっているところである。

今のところ、エドゥアルドに危険が及ぶ状況などにはなっていない。


「......ええ、ありがとう。これは機密事項でしょうからお返しするわね。」


「え、もう良いんですか?」


「ええ、ある程度の把握は出来ましたし、わたくしも別途で調べてもらっておりますの。」


ルシアは見終わった報告書をそのままベッティーノに差し出せば、ベッティーノから驚いた表情が言葉と共に返ってきた。

ルシアは(うなず)きながら、理由を語った。


内容としてはニキティウスやクストディオからもらっている報告書と大差ない。

自国ならでは、という部分も確かにありはしたが、その程度の差分くらいはこの一時の間に読むだけでも頭には入れられる。


ならば、こんな見られると面倒なものは返す方が良い。

多分、その辺りも知った上でエドゥアルドも容易(たやす)くこれを提供したのだろうし。


そう思考を巡らせていたルシアは向かいの席でやっぱり、王族ともなるとそれだけの技術を持ってんのかー、と間抜けた顔をしたベッティーノが呟いたのを拾って苦笑した。

確かにある方が望ましい技術ではあるが、私のこれはどちらかといえば趣味で鍛えられたんだけどね。


「あ、っていうことはそちらが報告書だったり?」


「ええ。」


先程、ベッティーノを招き入れた時に()けた紙束を指されてルシアは首肯する。

これらは既に一度、エドゥアルドには見せているものである。


「へぇ。...?あれ、そちらは別行動中の密偵さんにですかね?」


「ああ、これは...。」


へぇ、と息を吐いたベッティーノの目がすうっと細められ、いつもとは違う最初の(かしこ)まっていた際の仕事モードのような雰囲気を(かも)し出す。

畏まった態度を崩した彼は明るく陽気な印象だが、彼も密偵でイオンたちとそう変わらない優秀な人物である。


仕事の時はいつもこんな雰囲気なんだろうなぁ、と思いながら、ルシアは自分のお茶を口に運んでいれば、ベッティーノは集められた紙束とは別に先程書き上げられたばかりの様子の、それも便箋があるのを見止める。


ちゃんと(わきま)えるところは弁えるようで、開かれたままのその内容をベッティーノは勝手に読みはせずにルシアに尋ねた。

ルシアは鷹揚に頷いて、それを手に取り、インクが乾いたのを確認してから二つに折った。

そして、そのまま封筒に入れて蝋を垂らし、封をした。


「これはカリスト様へのお返事ですわ。」


「ああ、遅れていらっしゃるというイストリアの第一王子殿下ですか。」


ルシアがふふ、と笑って答えれば、ベッティーノは納得したように頷いた。


「ええ、今朝イストリアを出立なさったと手紙が届きましたの。」


ルシアは紙束の下敷きになっていた一通の手紙を引っ張り出して、その内容を告げた。

これはエドゥアルドのところにも同じ旨が認められた手紙が届いているはずである。

多分、まだ騎士であるベッティーノには伝えられていないのだろう。


「そうだったんですか。イストリアの第一王子ということはルシア様の旦那様ということですよね?やっと会えるっていうのは嬉しいですね。」


「ええ、そうですわね。」


ルシアの暴走癖という名の王子と一緒じゃない期間がそれなりにあってきていることを知らないベッティーノの純粋な言葉にルシアはそんなことをおくびにも出さずに微笑んだ。


「ヘアンの工作員もひとまず片付きましたから、わたくしはカリスト様と純粋にアクィラを楽しみますわ。」


「ああ、ぜひそうしてください。アクィラはとても良いところですから。」


そう言ってに再びにかっと笑って、アクィラの名所を幾つか教えてくれたベッティーノと暫く談笑して、ルシアはエドゥアルドの元へ戻っていくベッティーノを見送った。

そして、ソファに(もた)れてお茶を(のど)に流し込んで一息を吐く。


「......。」


ヘアンの工作員は捕らえられた。

エドゥアルドに実際に命の危険が迫り、それを防いだ。

現在、残党が出てくるでもなく、はたまた別要因の命の危険がエドゥアルドに迫る様子もない。

とても平和だ。

エドゥアルドは忙しそうだけれども。


「...早過ぎるのはアルクスの時と同じようなものなのかしら。」


あまりにも呆気ない事件の終幕に、(いま)だ小説のメインのストーリーであったアクィラ戦争の起こる夏にはなっていないとはいえ、平和過ぎる現状にルシアは妙な胸騒ぎを覚えて、(わず)かに首を(かし)げさせるのであった。


事件に追われ過ぎて平和に疑問を覚え出すルシア...。

さて、どうなるでしょうね?


それはそうと、エドゥアルドの騎士兼密偵の彼ですが、実によく名前を入力時にミスります(笑)

毎度、打つのが面倒なので予測変換でちゃちゃっとやっちゃうのが悪いのですが、10回に1回必ずヘーゼルナッツって打っちゃうんですよね...。

私は予測変換に出るほどヘーゼルナッツって打ったことないんですが。


出ちゃうんですよね、これが。

さすがに打ったタイミングで気付くので本文に登場したことはありませんけれど、毎回作者一人で笑っています。

ないとは思いますが、本文に出てきたら誤字報告で教えてくださいねー(笑)


それでは、引き続き今作品をお楽しみください。

次話投稿をお楽しみに!


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