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173.突入


エドゥアルドがここに居る皆を見渡して、突入の合図を手を振って示した。

その合図に開けていた窓から、先程の密偵顔負けの雰囲気を持った騎士がするりと突入し、中に居た男が気付く間もなく、首を絞めて意識を落とした。

そして、何処から出したのは念には念を入れて男を縛り上げて床に転がした。

彼に続いて慎重にエドゥアルドもルシアもイオンたち、残りの騎士たちも室内に侵入する。


一軒家の裏側に位置する窓の一つ。

そこは彼が報告した個室の窓で中には1名の男が(くつろ)いでいた。

しかし、男に気付かせることなくクストディオが音を立てず且つ素早く窓の施錠を解いたのだった。


あまりの手際の良さに魔法のようだとルシアには見えた。

アクィラの騎士からも小さく感嘆の息が洩れる。

うん、確かにこれはいつでも泥棒可能だな。


「1階の廊下に誰も居ません。」


「分かりました。先に上から片付けましょう。少数から潰した方が駆け付けられずに済みますし、もし駆け付けられたとしても手狭で暴れづらいでしょうから。」


1人の騎士がゆっくりと廊下へ続く扉を開いて確認を取り、報告した。

それへエドゥアルドが的確な方針を指示に出す。


再び今度はその騎士によって手振りによる合図が向けられる。

ルシアは後方に追いやられようとされているのを理解した上でエドゥアルドにぴったりとついて足を踏み出した。


もう侵入している以上、小声であっても音を発するのは最小限が良い。

それにエドゥアルドはああ言ったけど、騎士からすればエドゥアルドは守る対象なのである。

私が彼と纏まって歩くのは然程悪い手ではないのだ。


その辺りを全て踏まえた上でルシアは今、その行動をした。

確信犯である。

だって、私がエドゥアルドに近付けば必然的にイオンたちも近寄る訳で。

もしもの時に彼らに守らせることが出来るからこれ以上の手はなかったのだ。


「......離れないで下さいよ。」


ルシアの考えを全て見抜いた上で、エドゥアルドは長い息を音なく吐いてから、隣に居るルシアを見下ろして告げた。

ルシアもエドゥアルドが現状を読んで、悪くない手だと判断したことを見抜き、その上で(うなず)いて返事した。


エドゥアルドとルシアの音なき会話に決着が付いたのを見届けた騎士たちが万全に警戒しながら廊下へ踏み出した。

ルシアたちは騎士たちに挟まれるように中程の後ろ辺りで廊下へ出た。


何の変哲もない家の廊下だ。

つまりは横に広がっても二人が限界ということである。

ルシアはイオンたちが前にも後ろにも出やすいようにエドゥアルドの横から彼の後ろへずれた。


一番前の騎士が廊下の突き当たりに見える階段前で上を指した。

クストディオの報告であった一人は多分、雇われた破落戸(ごろつき)の方が居るはずだ。

さて、上下の立ち位置はバレないようにするのは最早不可能。

更にはその先の廊下にも一人。


叫ばれでもしたらアウト、この状況をどう切り抜けるのか。

現在地は一番数の居る居間のすぐ横だけど、とルシアが見やれば、またもやあの最初の男を絞め落とした騎士が軽やかに階段を素早く駆け上がっていった。

折り返しの先に姿を消したと思えば、数秒後に上から顔を覗かせて、招くような手振りで安全を知らせてきた。


素早過ぎてルシアには追えなかったが、飛ぶように階段の段数を飛ばしながら且つ端を選んで上がっていったのは分かった。

その為にルシアがじっと階段を見ていたのを気付いたクストディオがすっとルシアの耳元に口を寄せた。

そして聞こえてきたのは、端の方が音が鳴らない、というルシアの疑問への的確な答えだった。


ああ、そういう...と理解したルシアは他の騎士たちに続いて階段の端を踏んで上階へ上がった。

上へと上がれば、既に二人の男が昏倒し縛り上げられていた。


「上には確か、五人だったね。やっぱりここも一人ずつ行こうか。」


上は各個室に人は居るが、階下ほど注意する必要がない。

いや、警戒は必要だけど、多少の物音は隣室や廊下に居る仲間だと思わせられる。


「クスト。」


「分かった。...ねえ、奥の二人居る部屋、僕に任せて。」


ルシアがただ名前を呼べば、それだけで理解したクストディオは前に居た騎士たちに奥の左側の部屋を指しながら声をかけた。

そして、先行した騎士に歩み寄った。

騎士の方はクストディオの表情から考えが読めずに困惑した表情を浮かべながら、対峙した。


「お前、二人音立てずやれるだろう。手前の部屋を頼む。ただし、突入は奥二つ片付けてから。」


まだまだ少年と呼べるクストディオの不遜な物言いに騎士は少しだけ目を見張らせて見下ろした。

騎士も王子ほど身長が高くないが、まだ成長期手前と言っても差し支えないクストディオよりはずっと高い。


廊下の突き当たりのある窓からもう日が落ち切ったのか、月明かりが伸びてクストディオの赤い瞳を輝かせる。


「ほんとは他国の貴人の護衛に任せることじゃないけど......しくじるなよ?」


「当然だ。」


騎士は侵入前のクストディオの動きを思い出したのか、思案するように斜め上を見上げた後、クストディオに視線を戻して軽口のように返答した。

しかし、その目は全く笑っちゃいない。


それにクストディオはただ当たり前のように答えて、ルシアを振り返る。

ルシアが頷けば、他のメンバー全てに敵の居ない個室前にあたる廊下の中央辺りに待機するように言って、廊下を一人、普通の足取りで、しかしながら不思議なほど音一つなく、奥の個室前まで歩いていったのだった。


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