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172.笑顔の下には


ヘアンの工作員たちが拠点としていたのは、街の通りから少し外れて一気に閑散して感じてしまう通りの端に建つ古い2階建ての一軒家だった。


ニキティウスの調べによると、彼らはアクィラで交渉予定だった相手が遅れているらしく、それならば他の予定を一緒に片付けようと結論に至ったが、さすがに長期滞在になるのでいっそのこと家を買うことにしたのだ、と周辺住民には説明したらしい。


確かに商人で毎年同じ街に滞在する場合、宿ではなく、家を買うこともある。

これほど古い家であれば、出張中の快適性さえ我慢すれば値段も手頃だろうし、そういった商人たちをターゲットに格安で貸し出す家もあるだろう。

特にこの商人の国ではよくあることらしく、全く不審に思われなかったようだ。

何とも上手い手である。

その手段だけは。


「周辺住民に警戒されない設定を考えられるほど頭が切れるなら、もうちょっと場所選びもあったでしょ。」


「...あー、確かに如何(いか)にも悪いことしている拠点ですよー、っていう位置ですよねー。」


思わず、思いの丈をそのまま吐露したルシアにイオンが納得と呆れを含ませた返答をした。

幸い、ルシアの前で屋内の様子を(うかが)うエドゥアルドには二人の会話は届いていなかった。


いやね、街の外れとか、閑散とした通りの端なんて、どうぞ(うたが)って下さいの域だと思うの。

どうせなら街の中心、王宮の眼前に堂々と昼間は普通に店を営業するなり大胆にやって欲しかった。

というか、そっちの方が断然こっちもやりづらい。


まあ、そもそもヘアンの計画自体が何年も前から仕込まれていたようでもない辺り、どうしたものか。

いや、前々から潜入はしていたんだろうけども。

さすがに他大陸まではあまり優秀な者を派遣しないのか、出来ないのか。


「エドゥアルド殿下、屋内に工作員五名と用心棒と思わしき破落戸(ごろつき)が八名。入口にも二名立っているのを確認致しました。」


「そうですか。」


エドゥアルドの元へ騎士というよりクストディオやニキティウス、ノーチェに近い雰囲気を持った青年が足音も立てず、近寄ってきて小声でそう告げた。

そして、中の様子を口頭で説明を始めた。


同時にいつの間に上がっていたのか、クストディオが屋根の上からルシアの前に飛び降りてくる。

それなりの高さがあったのにクストディオは足音もなければ、華麗に軽やかに見事な着地をした。

その姿にまるで猫のようだとルシアは思ったのだった。


「2階の右端の個室に二人、そこから一つ空けて個室に一人、その向かいの個室に二人。廊下、階段に一人ずつ。1階の個室に一人。外に二人。残りは居間で何かの話をしていた。」


「そう、ありがとう。」


多分、あちらでも同じ説明がされているのだろうとクストディオの肩越しにエドゥアルドを見ながらルシアは応える。

ちらりと視界に屋根まで届きそうな高い木が見えた。

ああ、あれを伝って上がった訳ね。


「では、今から突入します。......こういった場合、こちらは正規の国直属の者なので、正面から馬鹿正直に訪ねるものなのですが。」


「?」


すっと腰の剣に手を添えたエドゥアルドが作戦開始の合図を口にしたかと思えば、続けられた言葉にルシアは首を(かし)げて彼を見上げた。

そこにあったのは心底効率的ではない、といった不服そうな表情だった。


「こちらも騎士が六名、僕も頭数に入れれば十分、破落戸程度制圧出来るでしょうが、あちらにも実力を隠している(やから)が居るとも限りませんし、こちらには気にするなと言われていれど、決して傷付ける訳にはいかない非戦闘員が居ます。」


「ええ、そうですわね...?」


そう言葉にされると、いくら私の護衛たちが優秀で一人一人が私を守りながら複数人の敵と対峙出来ると言っても、完全に足出纏いにしか聞こえなくて胸が痛い。

そのことで少しばつの悪そうにルシアが困惑を口にすれば、エドゥアルドに見事な微笑みを返された。

心無しか、彼の背後に黒い何かが揺らめいているように思える。


「ですから、今回は裏から個室に侵入して一人ずつ数を減らしましょう。」


そうして、笑顔をより深めたエドゥアルドにルシアはそういえば、ルシアの知る友人知人の中で追随を許さない勢いで一番腹黒かったのはエドゥアルドだったな、と思い出したのであった。


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