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170.街の中の食堂で




「どうやら、早くもニキティウスが『家』を見つけてくれたらしいですよ。」


喧騒にも似た(にぎ)やかさが広がる、よくある街の食堂といった店内の隅の席に、年若い男三人と少女一人という一風変わった四人組が、周囲の目を気にすることなく、何かを話しながら食事をしている姿があった。


そのうちの一人、茶髪に紫と黄色の混じり合う不思議な色合いの瞳をした青年が荷物の中から紙束を取り出して向かいに座る少女に手渡した。

少女はそれを見て、頬杖を突きながらもまるで憂慮していないように嘆息する。


「さすがニキね。...へぇ、今住んでいるのは五人か。」


「用心棒を雇うか検討中の様子とありますよ。」


「あら、本当ね。近頃、物騒になってきているというからきっとそのせいね。」


今度は少女の隣に座っていたワインレッドの髪に金の瞳をした青年が少女の手元を覗き込み、指摘する。

それにも少女はのほほんと返答した。


「そういえば、クスト。」


「ああ、昨日聞いてきてくれって言ってたのはこれ。」


ふと、思い出したように少女がはす向かいに座る残り最後の少年に声をかける。

黒髪に緋色の瞳をした少年は隣の茶髪の青年同様に荷物から一枚の紙を引っ張り出して少女に手渡した。


「......うん、ありがとう。これだと...数日は、『家』に訪ねるのは数日後になりそうね。」


手元に新しく加えられた紙を見下ろして銀髪に灰色の瞳の少女、───ルシアはくるりと素早く脳裏で計算して告げた。


今、ルシアの見ている資料は昨夜、記憶の擦り合わせが終わった後にクストディオに頼んでいた内容だった。

その内容とは、エドゥアルドのスケジュールもとい、今後予測される動向と彼の手の者がどのくらいの状況を掴んでいるのか、を探れというものだった。


そして、ルシアが計算したのはもう一つのイオンが差し出してくれた資料、別行動中のニキティウスからの報告書の内容にいつ、エドゥアルドたちが辿り着き、家宅捜索を決行するかというところだった。


ニキティウスの報告書には既にヘアンの工作員が拠点としている建物を発見、現在監視中という旨が(つづ)られており、工作員の人数、動向などが詳しく調べ上げられていた。


この国の地理に明るく、様々な事情にも詳しいだろうエドゥアルドの手の者たちがまだ辿り着いていないというのにニキティウスは本当に優秀な密偵である。

まぁね、半竜(はんりゅう)だから体力も能力も規格外で当たり前なんだけどね?


「と、いうことは、報せずにご自分で行き着くのを待つんですね?」


「ええ、彼がこれを知って準備期間を取ったとしての数日後だから、そう差違はないでしょう。」


イオンが確認のように尋ねるのを聞いて、ルシアは(うなず)いた。

そのルシアの言葉に男三人は確かに、と|首肯した。


「ともあれ、多少の予定外はあって(しか)るもの。クスト、引き続きどうするのか彼に聞いてきてね。」


「分かった。」


さてと。

ルシアはひとまず紙束を一纏めに、まるで見られても気にしないというように、さりとて内容がとても良い具合に見えないように巧妙にテーブルへ置いた。

そして、目はそちらに向けながら目の前に運ばれてきて少し放置していたことから若干冷め始めていたミートパイにフォークを突き刺す。


この際、行儀が悪いなどとは気にしない。

そもそも、こんな街の食堂でマナーなんてあったもんじゃないからね。

今は昼だからマシだが、夜ならもっと騒がしいし、酒が入ることもあってもっと無法地帯だ。

それに比べれば、ルシアの余所見しながらの食事は可愛いものだろう。


「そうね...今日は街の様子を見て、(うわさ)を集めて。思わぬところに別の誰かがなんて、ないとは限らないんだから。」


昨日のクストディオとの擦り合わせ、劇的に状況を解決させるような目ぼしい何かが導き出せることは予想はしていたが、やはりなかった。

ただ、二つの似て非なる視点から確固たるものを割り出せたこと、そして一つだけ。

エドゥアルドが王宮内ではなく、街に調査として出た際に殺害されたようだと分かったぐらいだ。


まあ、それだけでも重畳だ。

とはいえ、変なところでシナリオから外れ、など、今まででも大まかな流れこそ変わらずとも時期のズレが起こるさまを見てきていることもあり、全く過信はしていないのだけども。


取り合えず、今日は街の様子を見たかったことと、ニキティウスの部下に落ち合う予定だったこともあり、こうして街に繰り出しているが、明日からはエドゥアルドに張り付いていた方が良いだろう。

クストディオに然り気無く見張らせても良いが、それでイレギュラーを防ぎ切れるかは分からない。


その点、ルシア自身はイレギュラーであるから、何かしら作用する可能性も高い。

イレギュラーにはイレギュラーをである。

それに傍に居れば、動向が分かりやすいしね。

ルシアは何かしら言われた時は協力関係なのだからと押し切るつもり満々だった。


あー、しかしほんとに何かあったら確実に王子に無茶のし過ぎだと怒られるだろうなぁ、とルシアは微妙に顔を(しか)めたのだった。


ごめんなさい、まだ会話回でした。

明日!明日からはちゃんと行動する回だと思うよ!

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