168.戦争を起こさぬ為に
「......ふう。」
「お疲れ様、ルシア。」
エドゥアルドを見送って部屋から自分の護衛たち以外が居なくなったのを確認したルシア気を抜けたようにどっとソファへ凭れ込んだ。
そんなルシアにクストディオがお茶を注いだカップを差し出した。
ルシアは一息吐いてからそれを手に取る。
いつもクストディオが淹れてくれる馴染みのある味だ。
エドゥアルドが用意してくれたお茶も大変美味しかったが、やはり落ち着くのは慣れ親しんだクストディオのお茶だ。
「それにしても、良かったんですか?エドゥアルド様に話して。」
「...ええ、私の中では大事になるのは確定してるの。その時にエディ様に伝えているのと伝えていないのでは対応が変わってくるから。」
横合いからのノックスの質問にルシアは頷いた。
出来るのであれば、根拠の部分を話せない以上、秘密裏に処理出来るのならそうしたかった。
しかし、今件は如何せんルシアだけの手に負えない。
だから、エドゥアルドに一部でも話して協力を仰いだのは今ある選択肢の中では最善だった。
「別に全てを信じてもらわなくても良いの。ただ、一度聞いたら頭の隅には残るでしょう。もし、本当に直面した時、初動を少しでも早くしてもらえたら良いの。」
いくら突拍子のない話でも聞かせておくことで、少しでも警戒してくれたら多少は対処しやすいだろうと思ったのだ。
人は予期せぬ状況に弱い。
「ほら、あり得ないと思っていても状況が近付いてしまえば、人は誰しももしかしたら、と考えるでしょう?」
「あー、そうですね。」
イオンがルシアの言葉に間延びた返答と共に首肯する。
まあ、要するに私がしたかったのはエドゥアルドに対しての警告だ。
その上で協力出来ればもっと良いけどね。
「それで?この際、何でお嬢がそんなことを知っているのかは今更なんで言いませんが、本当にこの地で戦争が起きると?」
「正確にはここより少し離れた一番大きい港街、ポルトーネが戦場になるわ。」
ルシアは目を伏せてそう告げる。
今まで若干、間に合わないこともあったが先手を打ってきたことでルシアはイオンたちにルシアが何かしらの情報を持っているのだろうと知られていた。
私が何も語らないからって彼らも深くそれについて尋ねることはなく、それでも協力してくれるイオンたちにはとても助かっていた。
ただ、唯一ルシアが転生者だと知っているクストディオには彼と似たような理由で未来を知っていると話して、知らないが故にイオンたちには頼みにくいことに関しては彼に調べてもらったりしてきたけれども。
実はクストディオとまだ起きていないことに関しての知識の擦り合わせは行っていない。
その都度、必要があればという形式を取ってきた。
それはクストディオにとってそれがあまり良い記憶ではないことと、軽く聞いた時に毎度何かしらの要因で微妙なズレがあると分かったからだ。
大まかな流れはルシアの知るそれと変わりないようだったのでわざわざ聞くことはなかったのである。
「クスト。」
「なに。」
ルシアは茶菓子を準備していたクストディオに振り返って声をかける。
クストディオはルシアの呼び掛けに作業をしながら、目線だけを向けた。
「後で聞きたいことがあるわ。同時に仕事を頼むから、準備はしておいて。イオン、ノックス、その時は席を外してちょうだい。」
ルシアが言えば、三人とも頷いた。
基本的にルシアが頼む仕事に関しては彼らに共有させる為にわざわざ席を外させはしない。
だが、たまにこうして一対一で仕事を頼むことがあり、それには理由があることをルシアをよく知る三人に承知していた。
だから、わざわざ反対を口にすることはない。
「絶対に戦争になんてさせないわ。」
「ええ、そうですね。お人好しなお嬢ならそう言うでしょうね。」
「あら、何度も言うけど私はお人好しなんかじゃないわ。」
決意を口にすれば、イオンが茶化すように答えた。
イオンの言葉にルシアは不機嫌そうに拗ねる。
勿論、アクィラはイストリアの友好国。
みすみす戦場なんかにはさせない。
けれど、それ以上に。
アクィラで戦争が起こるということは。
それが意味するのはエドゥアルドの。
ルシア先程まで話していた青年を思い浮かべる。
真剣に王太子としてルシアの話を聞いていた姿。
王太子だというのに婚約者との付き合い方が分からず困り果てている姿。
どちらもルシアにとって好ましい、昔馴染みの青年の一面。
拗ねた表情から険しい顔になって押し黙ったルシアをクストディオが同じく複雑そうな顔で見つめていたのだった。
後、一話くらい話し合ってもらったらルシアたちには行動してもらおうかな?とは思ってます。
うーん、個人的にノックスの口調をちょいちょい忘れてしまうのをどうにかせねば...。




