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164.春は告げる事件の始まりを


怒涛の日々は早くも1年という時を過ぎ去った。

ルシア・ガラニス、数ヵ月前に15歳。

カリスト・ガラニス、数日前に19歳。


「......ルシア嬢、本当によろしかったので?」


ガラガラと音を立て、振動に跳ねる馬車から外の陽気を眺めていたルシアは向かいに座る青年を見た。

遠く何処までも広がる海のような深い青の髪とまたも遠く何処までも広がる空のような淡い青の瞳をした理知的な青年。

少しだけ困り顔の彼にルシアは微笑んで答えた。


「はい。春告祭(はるつげさい)の後処理は気にするな、と言われましたから。」


「いえ、それもありますけど......。」


どう表現して良いものかと言いづらそうにする青年にルシアは彼の言いたいことに思い至ってころころと笑った。


「大丈夫よ、よくあることなの。それにカリストは後から追い掛けてくると言ったわ。」


「......何と言いますか、とても仲がよろしいことで(うらや)ましい限りですね。」


「あら、エディ様の婚約者様は?」


自信満々でもなければ、どうでも良いという風でもない、あっさりと言葉にする姿は確信があるというよりもただそれが当たり前に起こることなのだと知っている。

エドゥアルドにはそう見えて、垣間見た二人の絆に同じような立場に居る者として純粋に羨ましいと口にした。

ルシアはそれを受けて、目の前の青年はどうなのだろうと問い掛けた。


エドゥアルド・プレディエーリ・アクィラ。

ルシアたちの住み、ルシアが前世で読んだこの世界に類似した小説の舞台の大陸の。

西方諸国の最南端、海と接し、他大陸と繋がる港を持つ、商人が(つど)い活気溢れる貿易の国アクィラ。

ルシアの所属するイストリアとは間にシーカーを挟んだ先の国である、そんなアクィラの王太子殿下。

それがエドゥアルド・プレディエーリ・アクィラ。


そして今、先日イストリアで行われた1年で最も盛大な春告祭に参加した他国の王子エドゥアルドの帰国の馬車にルシアは同乗していた。

勿論、理由はアクィラへ行く為である。


「それが、僕の婚約者はとても恥ずかしがり屋でね。いつも話しかけると逃げられるんです。」


「まぁ、それはそれでとても微笑ましいですわ。」


「僕としてはとても一大事なのですけどねぇ......。」


ルシアは顔を真っ赤にした愛らしい令嬢がとても素早くエドゥアルドから逃げていく様子を思い浮かべてより笑みを深くした。

ルシアはエドゥアルドを含め、王子という知り合いはアルクスのクリストフォルスやタクリードのシャーハンシャーなど複数居るが、その中でもエドゥアルドはその辺りも抜かりなく冷静に対処していそうなのに。


上手く振り向かせて仲の良い婚約者が居るかと思ったら、実際はたじたじになっているのだという。

これが微笑ましくなくて何と言うのか。


「まぁ、貴女とカリストのように幼馴染みではなく、後から決まった婚約者なので...それでももう婚約してから4、5年になるのですけど。ですから、カリストは本当に羨ましい奴ですね。」


仲良くなる秘訣は?と続けて問われ、ルシアは軽く(うな)った。


「......そうは言われてもわたくしもカリストも自分が前へ出る方が気楽な性質(たち)ですし、何より趣味が一緒でしたの。これでも初対面の印象は本当に最悪だったのよ。」


二人して恥ずかしがってなんて性に合わない。

何なら、初対面の印象が悪過ぎて険悪ムード。

昔の、私にとっては全ての始まりの王子と対面した日を思い出して苦笑する。

確か後日、兄に頼んで訪れた王宮の図書館でまた会って、そこで本の話をしたらめちゃくちゃ討論が(はかど)って。

お互いに知識欲が強く、それらについて語るのが好きだった。

うん、やっぱり共通点があれば仲良くなりやすいんじゃないかな。


「趣味、ですか...。」


「ええ、お互いを知る為に話し合うのは良いと思うわ。...けれど、逃げられては話も出来ないわね。手紙はどうかしら?気が合うかどうかは長く居れば意外と折り合いがついてくるものだから大丈夫よ。夫婦は似てくるという言葉もあるのだし。」


夫婦だって婚約者だって人付き合いだ。

まずはお互いのことをもっと知ることが大事だとルシアは告げる。

そうすれば、長ずるにつれ嫌でも相手の考えが分かるようになる。

それこそ、バレたくないことまでバレちゃうんだよなー。


「手紙、は書いていますが...確かにもっとより深く尋ねてみた方が良いかもしれません。」


「エディ様のことをよく伝えることも忘れませんように。」


「はは、先達の言葉はとても含蓄がありますね。そうですね、貴女方のようになれるように頑張ります。僕ももし、彼女が他国へ急に旅行へ行くと言ってもどんと構えられるくらいに。」


「まぁ。わたくしはちょっと特殊な事例でしてよ。」


からかいを含んで言うエドゥアルドにルシアは拗ねたように答えた。

うん、まず普通の貴族令嬢は急に他国へ行くことはないし、それが婚約者や夫が居れば尚更。

私は例外が過ぎるんだから、頼むから見本にはしないでくれ。


「...アクィラはどんな国かしら、とても楽しみだわ。」


今回も例によって例の如く、王子とは別行動で。

護衛付きではあるが、ルシアだけで他国へ。

まぁ、王子も春告祭に訪れた賓客を(さば)き終われば、後から来ると言っていたけども。


ルシアのアクィラ行き、決めたのはルシア自身である。

今回も何か起こるからこそ向かっているのだが、さてはて何が起きることやら。

分かっているけど、出来るだけ平穏に終わってくれ、とルシアは到底無理なことを祈ったのだった。


すみません、出先で執筆してまして、ギリギリ0時は間に合いませんでした。

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