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160.迷惑な客(前編)


「直接会うのは久しぶりね、フレディ。」


「あー、確か春告際(はるつげさい)用に頼まれてたヒールが完成した時が最後だったっけ。」


勧められたままにルシアは工房内の端へ避けられていた椅子を作業台の本まで運んできて座る。

その仕草はとても手慣れていた。

ノックスはそれに呆れ交じりに眺めていたが、ルシアが同じように椅子を出してきて座れ、と指示すればより呆れを強くされながらも椅子を運んできてルシアの斜め後ろ辺りに落ち着いた。


ルシアはジェマも同じ動作をしたのを目端で見届けて、ここへ案内したこの場の主とも言えるフレディに声をかけた。

フレディはルシアの言葉に宙を仰いで思い出しながらと分かる返答をした。

その様子にルシアは苦笑した。


ルシアとこの双子の付き合いはそれこそ王子とより長い。

その年月の合間にジェマは然程変わらなかったが、フレディは昔よりボケッとした印象を受けるようになった。

まだ昔の方がしっかり者だった気がする。


普通、成長と共にしっかりとしていくものなのだが、彼に関しては例外だったらしい。

まぁ、仕事の腕は年々増すばかりだから、そちらに全振りされたのだろう。

さすがはジェマの双子の兄と言ったところか。


「それで?何してたの。」


「...えー、ちょっと王都を離れていたのよ。」


フレディは用意したお茶を作業台へ置いていきながらルシアに問いかけた。

テーブル代わりに作業台を使うのはいつものことである。

ルシアはそれに懐かしさを感じながらもフレディの問いに目を逸らした。


言葉足らずではあったが長い付き合いというものが(おぎな)ってくれる為に正確にフレディが何を問うているのか理解したからこその行動であった。

彼は暫くジェマにドレスを注文することもなく、自分に靴を注文することもなく、何をしていたのかと問うていた。


うん、ドレスだって必要以上に作りはしないが、定期的にジェマに急かされる為に連絡を取るのもまた定期的だ。

靴は基本的に既存にない物を開発と称して製作する為に一つ一つにかける時間が長いが、その分一つが終われば次に取りかかる為、何もない期間が空くことはなかった。

だから、彼は今回半年以上連絡が返ってこなかったことに(いぶか)しんでいるのである。


「へぇ、まあルシアのことだから無駄に良い行動力を発揮したんだろうね。」


「う。」


図星過ぎて言い返しようがない。

ルシアは言い返したいのに言い返せないといった複雑そうな様子で(うな)った。

あー、お転婆なところバレてんのかー、って残念そうな顔でお茶を(すす)るなノックス!!


「じゃあ、またどっかに行ったり?」


「あー、それはないわ。少し状況が落ち着いたことだし、さすがに王宮に全く居ないのは不味いもの。」


「既に半年以上居なかったのは良いと言えないんじゃない?」


また遠出する予定があるのかと問われてルシアは首を横に振った。

いやー、さすがにね。

対外的にも丸々一年王宮に居ない王子妃はどうかと思うでしょ?

特殊な事情がある訳でもないし。


作中のシナリオに関しては少し巻きではあるが、それでも今年はもうない。

なら、王宮から離れることもないだろう。

そう思っての否定をジェマが横から水を差す。

またもや図星なのでルシアは拗ねる。

そうして誰も居ない入口の方へ顔を逸らせば、丁度王子が工房内へ足を踏み入れるところで、ルシアは拗ねるのを忘れて目を(またた)かせた。


「あら、やっと来たにしては随分と手軽な昼食ね。」


「少し、店主と話が(はず)んでな。」


「そう。」


時間がかかったにしてはものの数分で買ってこれそうな物を手にして現れた王子にルシアは疑問そのままを問いかけた。

王子はそれに申し訳なさそうに言い訳をする。

まぁ、わざわざどんな話だったかなんては聞かないけども。


「フレディ、1年ぶりか?」


「あー、そうですね。王子が来たのは二つ前の製作の時でしたから。」


ルシアから視線を逸らして王子はフレディに声をかけた。

初めてルシアが王子をここに連れてきてからというもの、ルシアに同行したり一人で来たりしてすっかりフレディとは顔馴染みの王子である。

するっと王子の後ろから抜けてちゃっかり自分の分も用意したノーチェが置いた椅子に腰かけて話す姿はすっかりと打ち解けている。


「はい、ノーチェ。」


「ああ、ありがとう嬢さん。」


そのまま雑談に入ってしまった男二人を放置して、ルシアは作業台上のティーポットと空のカップを手に取り、適当に(そそ)ぎノーチェに手渡す。


「で、本当は何してたの?」


「あー、昼を買いに行ってただけだ。」


ルシアが微笑んで問えば、ノーチェは頬を掻きながら分かりきったことだけを答えてお茶を(あお)った。

答えるつもりはないらしい。


最初こそ、ルシアも二人が離れたことに何ら疑問を持たなかったが、二人が合流したタイミングに色々と気付いてしまった。

目を(すが)めてノックスを振り向けば、勢いよく顔ごと逸らされる。

その様子にルシアはほう、とため息を吐いた。

それでは別の用事があったと言っているようなものだ。


「...答えないなら良いわ。大体予想ついているから。」


「ああ、そうしてくれ。」


追求を止めたルシアにノーチェが雑に返事した。

知らせず何かやっているのは気にくわないが、彼らのすることでルシアの都合が悪いことはないので、ある程度予想出来るから聞かない。


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