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148.撒いた種だけども


「...さて、改めてようこそイストリア王宮へ。」


「ああ、招待感謝する。」


ルシアは慣れた手付きでソファに腰掛け、向かいのソファをフィデールに促した。

久しく(まみ)える侍女がさっと紅茶を用意して、ルシアの指示を受けて部屋から辞していく。

部屋に残るのはルシア、フィデール、それとクストディオだ。


そう、イストリア北東の地、それも明日には攻め入るスラングと戦闘という場面にて、王子からの手紙を開いたルシアが作戦開始と共に出立して2日。

背後で戦争中とは思えないほど平穏無事にルシアたち三人は1日もかけず、イストリアの王宮に辿り着いていた。

そして、今さっきエクラファーン教皇の使者と対面し、話をしてきたところである。


まあ、さすがに王子妃として対応する必要がある場面で相応しい恰好をしようとなれば、到着日に早速、面会とはいかなかったよね。

結果として、翌日の朝、つまり今日の先程の時間となった訳だった。

現在は客人の中でも地位ある次期教皇を顔見知りな王子妃が王子宮にてもてなすという状況である。


「......取り敢えず、国際問題にならず良かったわ。まあ、私が起こしたことだけれど。」


「使者としてきたのがクレマンス様の側近の方で助かった。私の昔からの既知だったからあんな言い分が通ったと言って良い。......あの人は私が山を下りてすぐの、やんちゃだった頃を知っているからな。」


遠くを見つめて告げるフィデールにルシアはああ、と苦笑した。

使者との対面時、フィデールはその使者であるクレマンス教皇の側近ジュストに完全に子供扱いをされていた。


フィデールはそれを最初から不機嫌そうに反撃していたが、見事にやり込められてより不機嫌な顔になる様は、まさしく近所の歳の離れたお兄さんにからかわれる少年といったところ。

まあ、それはもう微笑ましく眺めたよね。


「ジュスト様との予定の兼ね合いによるけれど、出来るだけ早急にエクラファーンへ行くわよ。」


「ああ、早急に許可をもぎ取って正式に治癒師としてイストリアに戻ってこよう。」


「......早急になんて、謝罪が主な訪問理由なのに我ながらどうかと思ったけれど、貴方の方がずっと型破りに思えてきたわ。」


「そこは良い勝負だと思うが?」


うわ、開き直ったよ。

肯定もしないが、否定もしないフィデールにルシアは呆れた表情を浮かべた。

というか、私は自他共に認める型破りさなので実質肯定したようなもんじゃん。


(なか)ば本音ではあるが、謝罪がメインなのは理解した上での冗談半分が豪速球になって返ってきた気分である。

うん、やっぱりどっちもどっちだよ。


「...止めましょう、お互いに己れに跳ね返るばかりだわ。それでエクラファーンへ行き、教皇と謁見後、とんぼ返りで戦場へ向かうまでの旅程なのだけれど......。」


「......結局、考えていることは同じじゃないか?」


「さあ、何のことかしら。...それで?」


さっさと話を切ってテーブルへクストディオが差し出した資料を広げ示したルシアに今度はフィデールが呆れた声を上げるが、ルシアは豪胆に受け流した。

資料をずい、と押しやって尋ねるルシアにフィデールは一息の息を吐く。


「...ああ、最短ならこれだろう。もう少し詰められる気もするが。」


「あら、今回貴方が共犯の出来事ではあったけれど主犯は私だし、先程も言ったけれど謝罪が主。まあ、やり直せても同じことを繰り返すでしょうけど誠意は必要よ。......後は貴方の手腕によりけり、かしら?」


「そこで人任せは良いのか...?」


首肯しながらも一言挟むフィデールにルシアは首を横に振ってから一つの案を提示した。

その言葉にまたもやフィデールが呆れた表情を浮かべる。


いや、だってね?

タイミング的にもほんとは戦場に居たいのに真逆向いて出立しなければいけない訳ですよ。

まあ、自身で()いた種であるのは否定出来ないけども。


そりゃ、次期国王を連れ回してるようなもんだからね。

ああ、うん駄目だわ。

それこそ平身低頭すべきところだ。


なのに、さっさと謝ってフィデールを再び連れ出す許可取って?

行き先は戦場です、って......客観的に見なくても可笑しいことは分かるぞー。


「...出来る限り穏便に、自分の欲しいものは全て手に入れるのが腕の見せどころよフィデール。」


「...他力本願過ぎじゃないか?」


「......いいえ?」


勿論、私だって交渉はしますとも。

そもそも私の謝罪にはフィデールの協力が一番有効な訳ですし?

なら、私だってフィデールが再び戦場へ戻る為の協力はするのが筋だよ。


...まぁこの際、国境に居るグウェナエルやエグランティーヌ、ゲリールの民が向かっているからフィデールにはエクラファーンに帰ってもらっても良いんだけどね。

さすがに薄情だし、フィデールの治癒魔法はエグランティーヌと姉弟揃ってのトップレベルだし。

恩もある以上、ね。


「では、フィデール様。この後、ジュスト様とお食事だと(うかが)っておりますわ。ジュスト様の予定の確認をお願いしても?」


「......ああ、請け負おう。」


訳としては何としてでもエクラファーンまでの旅程を詰めらせろ、である。

侍女に入室の許可を出すと共に資料をクストディオに投げ渡し微笑んだルシアにフィデールは暫くじとっと目を向けていたが、ため息と共に(うなず)いたのだった。

なかなかに急な展開の中でも今日も今日とて、ルシアの飼い猫はご機嫌であった。


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