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143.交渉の席にて


「それで交渉の続きなんだが......。」


王子はそう口にしながらも少しだけ躊躇(ためら)いがちに周りを見渡した。

代表者、ケオの私室にて交渉の席。

護衛、または仲介者としてこの場に居るニキティウスとノックスは席に着かず壁側に()けている。


今、席についているのは王子、その向かいにケオ、二人の両脇をルシアとヒョニが向かい合わせで着席していた。

いざ交渉へ、という場面であるのだが、着席した四人がそれぞれの姿勢の違いが何とも言えない雰囲気を(かも)し出していた。


うん、王子が真面目に交渉しようとしているのに対して、ただ人形のように座ってテーブルに並べられたお茶にも手をつけず話しかけづらい雰囲気を作っているヒョニに、何故だか困り顔ではなく険しい表情になってしまったケオ。


これは困惑しても仕方ない、と思っているルシアもこの空気をものともせず優雅にお茶を飲んでいた。

本人としてはただ宣言通り、暫く口を挟むつもりがないので、出番が来るまで自由に振る舞っているだけである。


「ケオ。」


「...はあ、何度も言ってますが無理ですよ王子。僕らにその決定権はないし、まず通らない。」


それでも仕切り直して話を始めようと王子がケオの名を呼ぶ。

呼ばれたケオは深くため息を溢してから否を答えた。

その口調は何処か(さと)すような色が見られた。


街じゃなく山の(ふもと)に隠れ住んでいる半竜(はんりゅう)たちが竜人族(りゅうじんぞく)よりの思考であるのは当たり前だ。

ケオが言う決定権も話が通らないというのも、協力には竜人族の者たちに話を通すのは必須ということを指しての言葉だった。


まあ、まず許可は出ないだろうね。

この程度で協力を得られるのであれば彼らは人間が住めない冬明けずの山なんかに(こも)らない。

あれ、世界中を飛び回られるよりはマシだった?

どちらにしろ、主人公には勝てない。

ルシアがこの場に居るのは何も口出しする為ではない。

王子の手腕を見に来ただけのつもりだ。


「それでも。これは何も命令している訳じゃない。イストリアが(たお)れたら君たちの安全な地はなくなる。人を連れている以上冬明けずの山を越えられないのだろう。」


利害の一致による協定を結ぼうと王子は言っている。

竜人族の力は強大だ。

彼らならイストリアがなくてもスラングを退(しりぞ)けることは出来るだろう。

竜人族は強大で純粋な力を持っているが、脳筋という訳ではない。

彼らは武人であり、また知性と理性の生き物である。


けれど、スラングが仕掛けてくるのは正攻法ばかりじゃない。

彼らは当たり前のように悪質な手を使ってくるだろう。

例えば彼らの(つがい)を人質にするとか。

そうなれば彼らは手が出せない。

竜人たちは番をとても大事にするから。


王子が言うのは彼らの保護も視野に入れた話だ。

確かに彼らは強いが大軍に囲まれて、番たちを無傷で守りながらの戦闘が苦でない訳ではない。

元来、竜人族は前線での攻撃を得意とするが、比例するように守る戦闘が苦手なのだ。

だから昔から竜王(りゅうおう)長子(ちょうし)の側近にはいつだって彼らを守ることを主とする人間の騎士が存在した。


「今、世界が揺れ始めている。それを収めなければイストリアだけじゃない、この大陸に荒地が増えることになる。それは君たちもまた安寧を失うことを意味する。良いのか、それで。」


何とも壮大な話、現実みのない。

けれど、王子の言葉はとても沁みた。

ふと、そこでルシアは現在大陸の中央に広がる荒野が元は豊かな土地であったという文献を思い出した。

それこそイストリアが建つ前の(いさか)いの時代の話で結局、現実みがない話だけど。


けれども、王子の言う通り再び争いの時代になりつつあるのは決して間違いではないのだ。

ケオの表情がまた違った険しさを見せた。

竜人たちは長命であるが故にその遠き過去がより鮮明に残っているのだろうか。


理詰めと思えば、心情に。

ああ、こうして主人公である()()は竜人族をも味方に付けたのね。

ケオはそうしないうちに(うなず)いて手を取ってくれるだろう。

そう思いながらもルシアはそろそろ口を挟みたくなっていた。

ああ言ったけど、話を聞いていて口を出したくなる心情はまた別の話だ。


「......。」


気を(まぎ)らわせる為にルシアはカップを手に取った。

そして、視線を前に向けるとこちらを見つめるヒョニと目が合った。

何となく気不味い気持ちになったルシアは彼女に微笑みかける。


「ルシアは。」


「はい?」


お茶にも手をつけずただ座っていたヒョニが(おもむろ)に口を開いた。

話をしていた王子もケオも急に声を上げたヒョニを注視して話を中断させた。

勿論、彼女に呼ばれたルシアもヒョニが何も言いたいのか読み損ねている。

だから、ただ素直に首を(かし)げた。


「ルシアは、どう思う。」


「え。」


まさか話を振られるとは思わずルシアは間抜けた声を上げた。

いやだってただ居ただけじゃん。

何なら私もヒョニも会話を聞いているかも怪しい態度だったよね?


しかし、彼女はルシアに問うた。

真意は分からない。

けれど、彼女はこの協力について聞いている。

ある意味、彼女を説得出来れば結果オーライではあるのだ。


いいや、丁度口を出したくてうずうずしてたからね。

ええい、やるならとことん。

ルシアは標的をヒョニに定めてゆっくりと口を開いたのだった。


いつも拝読いただきありがとうございます。

次はいつものルシアのターンってやつですね。

最近、少し間延びしている気がしないでもないのですが、話を推敲するほどの時間が取れず申し訳ないところです(汗)

出来ればテンポよく進めたいのですが...

けれども走りすぎないようにも気をつけたいですね。


とりあえず多忙期は何とか抜け出せそうなので、もっとより良い話を紡げたらと思います。

応援していただけると幸いです。

それではまた次話投稿にて!


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