130.十数日ぶりの
「グウェナエル、そっちは?」
「ん?ああ、一先ず大丈夫かな。後で新しい布の追加があれば。」
「分かったわ、後で持っていくわね。」
ルシアは包帯を入れた籠を持って歩いていると、帳簿のようなものを片手に立つグウェナエルを発見し声をかけた。
昨晩、終戦の報せを聞き、危険が去ったことを受けて堂々とルシアたちは戦場となった場所へ、負傷者が寝かされている拠点までやって来ていた。
「グウェナエル、それは?」
「これは優先順位と後日に回した患者の記録をつけているんだ。ほら、軽傷者は普通の薬で治療してるから。」
「ああ、そうね。ありがとう、助かるわ。」
ルシアはグウェナエルの手元を覗き込んで尋ねた。
そして、グウェナエルの返答に頷いた。
ここ、戦場には様々な負傷者が居る。
その彼らも屋敷と同じように重傷者を優先して治療しており、今のところルシアは軽傷者の治療に回っていた。
うん、記録があれば後でどのくらいの薬が要るか、負傷者の規模も確認が出来る。
ゲリールの民たちにだって体力や治癒魔法では魔力など限界があるので軽傷者の幾人かは今日のうちに治療とはいかない。
けれど、記録を取っていれば後日治療を施すことが出来る。
「それでルシアちゃんはまた護衛を放り出して手伝い中?」
「ええ、本当ならここは屋敷ほど安全ではないのだけど、周りはイストリアの兵士ばかりだし、第一こんな所で手伝いをしている私が令嬢とは思わないでしょう?イオンが負傷者の包帯を巻いている間に出てきちゃったのよ。」
グウェナエルは辺りを見渡してルシアに尋ねた。
兵士や医師、ゲリールの民やら多くの人が行き交っているが、ルシアの専属護衛たちは勿論のこと、護衛にあたる人間はルシアの傍に居なかった。
それに対して、ルシアは悪戯をした子供のように笑ってみせる。
大きめのテントでルシアはイオンと軽傷者に包帯を巻いていた。
そして、イオンがまだ包帯を巻いているのを見ていたのにも関わらず、ルシアは追加の包帯を取ってくると言って出てきたのだった。
お嬢、勝手に出歩かんでください!、とイオンは叫んだが、包帯というものは途中で止めたらまた最初から巻き直しなのだ。
結局、イオンはルシアを見送るしかなかったのである。
その状景が思い浮かんだのかグウェナエルは苦笑いをした。
今頃、包帯を巻き終えたイオンはルシアを探していることだろう。
ルシアとグウェナエルは周りを見渡す。
つい昨日まで戦場だったここには爪痕がいくつも残っている。
しかし、行き来している人たちは誰も切羽詰まった顔をしていない。
かなりの人が居るのでイオンも探すのは苦労するだろうなー、とルシアは他人事のように思っていた。
「そういえば君の家族は無事だったのかい?」
「え?」
ルシアは質問の意味を掴み損ねて間抜けた声を上げた。
そんな反応をされるとは思っていなかったグウェナエルは首を傾げる。
「ほら、ノーチェの主。君の家族だと言っていただろう?」
「あ、ああ。ええ、無事よ。と言っても、中傷なのに無理して戦場へ残っていたものだから、私としては無事とは言いたくないのだけど。今は会議もあるようだし街の屋敷へ行ったわ。丁度、入れ違いよ。」
普段、家族なんて言わないから王子のことだとピンと来なかった。
あー、そういえばノーチェの主について父か兄かと聞かれて適当に頷いたな。
いや、実際に夫婦ではあるので強ち家族で間違っちゃいないんだけど。
今、王子はルシアとは入れ違いで街の屋敷にて今回の戦争について話し合い中である。
王子は今回の最高指揮だからね。
王子の怪我に関してはもう古傷になりかかっていそうだが、あちらにはエグランティーヌとフィデールが残っているから完治するだろう。
ルシアはグウェナエルにそう説明をした。
「へぇ、そうなんだ。家族揃って無茶したがりなんだね。」
「......。」
グウェナエルはただ思ったことを口に出したという体でそう言い放った。
ルシアはどういう意味だ、と言いたげにじとっとした非難めいた目をグウェナエルに向けた。
しかし、言い返すには自分の無茶さ加減と王子の無茶さ加減のどちらにも理解があるので言葉が出ない。
それでも一緒にすんな、と言いたい。
王子と私じゃ無茶の度合いも方向性も違う。
「...要るのは新しい布よね。イオンが来る前に離れるわ。じゃあ、後で......。」
少し気不味げに目を逸らし、俯いたルシアは話を切り上げようとして、ふとグウェナエルがピシリと固まったことを感じて訝しげに見上げる。
見上げた先のグウェナエルは目を丸くして微動だにしてなかった。
「グウェナエル?」
ルシアは首を傾げる。
そして、グウェナエルの見ているであろう己れの背後を振り返り、グウェナエルと同じように固まった。
「あ。」
辛うじて口から飛び出た声は馬の蹄の音に掻き消される。
ルシアの視線の先にはまだ勢いが落ちきっていないにも関わらず、それを苦ともしない流麗な動作で愛馬から降りたばかりの王子の姿があった。
深い青の瞳と銀と見紛う灰色の瞳が重なる。
それがルシアと王子の十数日ぶりの再会だった。
やっとカリストの出番だよー。
とは言っても、今話は台詞ありませんが。
明日は久しぶりのルシアとカリストの会話です。
皆様いつも拝読いただきありがとうございます。
そろそろ三章も終わりに近付いて参りました。
引き続き応援していただけると幸いです。
では、次話をお楽しみに!
追伸
作者の鼻は治ったのですが、それと同時に今度は咳が止まらなくなりまして。
熱がない分マシなのですが。
(今、生活が休むと結構本当に洒落にならない多忙な状況)
インフルエンザも流行っているようなので皆様も体調にはお気をつけてお過ごしください。




