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125.下山の道にて


「ルシアちゃん、大丈夫?」


「ええ、このくらいは何ともないわ。」


ルシアはいつの間にか横並びになっていたエグランティーヌに声をかけられて平然とした微笑みを返した。

しかし、心配されたことで少しスピードを上げているかな、と思い足をほんの少しだけ緩めた。

下りのせいか、行きより早足になっていたかもしれない。

まあ、急いでいるのは本当で早足になっていたところで先頭にも追い付けない訳だけど。


ルシアは前を向いた。

現在、30余名のゲリールの民たちと下山中である。

ルシアとその護衛たちはその集団の真ん中より後ろ辺りを歩いていた。

(ひとえ)にルシアの体力の問題だ。


石碑の解読をし、協力を取り付けた後、予想より多くの人が共に行くことを選んでくれた。

結局残ったのは老人、子供、そして長だけで、それもルシアたちが急ぎ戻る必要があるからの処置であり、結果としては後々に集落ごとイストリアへ引っ越すことに決まった。

つまり、ルシアは宣言通りゲリールの民全員を手に入れることに成功してしまったのであった。


この集団を先導しているのはグウェナエルだ。

その後を若者、男衆が続き、ルシアの周りは年配たち。

エグランティーヌも前を行っていたが、ルシアの様子を見に下がってきたようだった。

うん、やはり山奥に住んでいただけあって男性女性関係なく動きが良い。

グウェナエルの道選びも良いのか、とてもスムーズに下山が出来ている。


「ほんとに?ルシアちゃんは私たちと違って山道は慣れていないでしょ?」


「確かに山道は今回が初めてだけれど......強行軍には慣れているわ。」


エグランティーヌは尚も心配してくれるがルシアは乾いた笑みを溢した。

いや、中身があれとして我に返って客観的に見てみると上位貴族の令嬢としてどうなんだ、と思ってしまうよね。


「まあ、とても勇猛果敢なのね。最近は貴族ってそういうものなの?」


「ティーヌさん、ルシア様が例外なだけですよ。」


ノックスがエグランティーヌの言葉に訂正を入れる。

うん、例外扱いされるのは不服だがその通りなので言い返せないや。


「...とりあえず、山を下りたら馬で一気にイストリアまで行くわ。」


「ノーチェは無事に馬の調達を出来ているでしょうかねぇ。」


ルシアが今後の予定を語るとイオンがそう呟いた。

ノーチェはここには居ない。

密偵ならではの身体能力で普通は通らない道、要するに直線を先行し、馬を調達してもらうように頼んでいた。

というか、どいつもこいつも体力ありすぎじゃなかろうか。

私が無さすぎるのを差し引いても。


「お嬢さんや、そろそろ休憩入れるらしいからもう少しだけ頑張りな。」


「ええ、頑張るわ。」


エグランティーヌとは反対側からかけられた声にルシアは振り向いて愛想よく応えた。

そこに居たのは40代の女性でその向こうに息子らしき青年が居た。

どうやら前の方から情報を伝えに来てくれたらしい。


協力が決まってからルシアはこんな風にゲリールの民たちから声をかけられることが増えていた。

まるで親戚か、近所の娘のような扱いである。

絶対、石碑前でのイオンのせいだ、と思いつつもルシアは交流が出来ることに嬉しく思っていた。

それから少し下りたところで休憩に入ったのだった。



ーーーーー


「あら、フィデール。貴方も山は久しいでしょうに前の方に居たのね。大丈夫?」


「......それなりの体力はある。貴女こそ行きより早足だが。」


「大丈夫よ。」


休憩中、フィデールが近付いてくるのが見えてルシアは声をかけた。

エグランティーヌ同様心配してくれるフィデールにやっぱり姉弟(きょうだい)だなー、と思いながらルシアは即答した。


「どうぞ。」


「あ、ああ。」


ルシアは腰かけていた倒木(とうぼく)の横を叩いた。

座れ、と意味を読みとったフィデールはぎこちなくルシアの隣へ座った。


「......その、なんだ。貴女に合わせて急ぎ下山しているが山を下りたら私はお別れだ。だからその前に話をしておきたくて。」


「ええ。」


ルシアは素直な言葉を頑張って捻り出そうとしているフィデールをただ待った。

フィデールの歳はやや童顔でありながら、王子と同じでルシアの4つ上であるという。

しかし、感覚としては弟か息子か?

どちらにせよ、年下の少年を見つめているような感覚でルシアはフィデールの言葉を待っていた。


「貴女はきっかけに過ぎなかったが、ずっとここに(こご)っていたものを吐き出すことが出来た。解読に関しても、初祖の言葉は私の芯をも確かなものとしてくれた。ありがとう、感謝する。」


「どういたしまして。」


心臓に手を当て、真っ直ぐな瞳で礼を告げるフィデールにルシアは微笑んだ。


「けれど、お別れなんて言わなくてもまた貴方には会う機会が多いでしょう。それにいつでもイストリアへ来たら良いわ。全てが落ち着いた頃には貴方の故郷はイストリアにあるでしょうから。」


ふふ、と笑いながら告げるルシアにフィデールは目を丸くした。


「貴方の故郷はゲリールの集落よ。誰が何を言おうと。集落の位置が変わっても貴方の故郷は彼らの場所だわ。」


目の前に広がる光景を、幾人ものゲリールの民たちを、エグランティーヌとグウェナエルを見てルシアは言い切った。

長だって本気で余所者なんて言ってないよ。

それにここに居る人たちは誰もフィデールを(うと)ましく思っちゃいない。

そんなルシアの言外の言葉が聞こえたのかフィデールは(しば)し呆然として口を開いた。


「ああ、そうだな...休みが取れたら帰省しよう。」


「ええ、それが良いわ。」


ルシアは再び微笑んだのだった。


最近、寒い日が続きますが皆様いかがお過ごしでしょうか。

作者は風邪をもらってきたのか鼻がずびずびいっている今日この頃です。

皆様も体調には気をつけてお過ごしを!


いつも拝読いただきありがとうございます。

引き続き今作品をお楽しみください。

では、また明日の投稿にて!


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