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初恋

作者: 愛犬家

以前投稿したものの加筆修正版。

恋愛小説を読んだことも、恋愛ドラマを見たこともない作者が思いつきでそれらしいものを書きました。

誤字脱字があっても見なかったことにした下さい。

僕は二十になる今まで恋というものを一度もしたことがなかった。そんなものは僕に一番縁遠いものだと思っていたし、無口で根暗な僕に出会いなんてなかった。

そんな僕にも理想の女性像はあった。静かな人、それが僕が女性に求める全てだった。喋らない人は多々いるけれど、静かな人はそうはいない。僕にとっては衣摺れの音も、呼吸する音も、心臓の鼓動でさえも耳障りだった。


僕は雨が好きだった。雨が降るといつもは耳につく雑音が雨音にかき消されて、かえっていつもより静かに思えた。そのせいもあって、雨音は女性を魅力的にした。だけど雨が降りやむとそうは思わなくなった。


雨の日には一人で近くの森を歩いた。雨音以外しない森は、何処か現実から切り離されたような、或いは見捨てられたような疎外感を僕に与えた。それが僕には心地よかった。

森をしばらく歩くと少し開けた場所に立つ大きな木にぶつかる。

そこで僕は彼女に出会った。真っ黒い髪を長く伸ばした人だった。大木を背負って俯きがちに佇んでいた。僕は音もなく佇む姿を一目見て彼女こそ僕の理想の女性だと悟った。近づいて顔を見た。彼女は僕より背が低かったが、目線は同じ高さにあった。肌は病的に白く、虚ろな目を地面に落としていた。僕は彼女の手を取った。彼女は嫌がるそぶりを見せなかった。細く、しなやかで、雪のように冷たかった。手を離すと、彼女の手は重力に従って落ち、彼女の肩を軸に振り子のように揺れた。僕はそれをジッと見つめていた。

僕は彼女のとなりに腰を下ろし、木に背を預けた。彼女は座らなかった。それでよかった。そのまま物云わぬ彼女の横顔を見た。彼女の顔を雨粒が伝い、泣いている様に見えた。とても綺麗で、僕の胸は高鳴った。雨音にかき消されて音はしなかったが、振動としてそれは伝わった。彼女に恋をしながら、二人で雨音の中にいられる事に幸せを感じた。ジワリと胸が熱を帯びた。僕には初めての感覚だった。

空が白み始めた頃に僕は彼女に暇を告げた。もっと一緒に居たかったが、雨にさらされ続けた僕の体が危険信号を発してしまったのだ。彼女は肯定も否定も示さなかった。それでよかった。雨は止んでいたが、彼女は僕の理想の女性のままだった。


家に帰るといつもの喧騒が戻る。テレビに映る女性は皆、作り笑顔と芝居掛かった文句をばら撒いていた。僕はそれを見て、うんざりした様にかぶりを振った。あれらに比べて森で出会った彼女の何と魅力的な事だろう。僕は嫌でも彼女との幸せで濃密な無音の共有を思い出さずにはいられなかった。彼女はまだあそこにいるだろうか。今もあの木の前に立っているのだろうか。僕は、日がな一日彼女のことを考えて過ごした。誰かのことをずっと考えているというのは初めてだった。胸にはずっと痺れたような感覚があった。それはなんとなく心地よいものだった。


夜の帳が降りる頃。広報が流れた。

『先日午前10時頃より行方不明になっていた20代の女性は、発見されました。ご協力有難うございました。』

僕は耳を疑った。今のは彼女の事だろうか。

そうだとすれば彼女にはもう会えない。

彼女はもうあの場所にはいない。

いや、彼女と決まったわけではない。

人違いの可能性だってある。

僕はそう思うが早いか、あの木へと走った。

夜気が頰に冷たかったが構わなかった。


心臓が破れそうになりながらたどり着いた。

果たして彼女はもう居なかった。

彼女が立って居た辺りにはい幾人かの足跡があるばかりだった。

僕は胸が張り裂けそうになった。彼女はもう居ない。もう会えない。そんなことばかりが頭に浮かんだ。

僕はあの時と同じ場所に腰を下ろした。

彼女が居た場所に視線を向けたが、視線は彼女のいた空間を通過し、やがて地面へと落ちた。

僕は膝を抱いてそこに顔をうずめた。

知らず、涙が溢れた。そんな僕の気持ちを知ってか、ポツリポツリと降り出した。次第にそれは強まり、森は無音に包まれた。いつもなら心休まる無音も、彼女とのそれを経験してしまった僕にはただただ苦痛でしかなかった。


もう一度彼女に会いたい。

それが叶わないことは知っていたけれど。

そう願わずには居られなかった。


森に降るそれは僕の目から流れるものとは違って雪のように冷たかった。


唯一そこに、この森に残された彼女を感じた。





読んで下さりありがとうございます。

案の定よくわからない作品になりました。

やったね。




ごめんなさい。

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