3-2
「去年、羽宮さんがレンへ贈ったチョコレートを花咲さんが処分したということであっているかな。」
先輩の言葉で3人は少し冷静になる。
この状況をどう思っているのかわからない、無色透明で、温度のない声が今は心地よいと思う。
「ずっと好きだった。」
ユカは語り始める。
小学生の頃より、もっと前から、龍谷蓮と羽宮愛のことを知っていたという。当時は、ユカは別なグループと仲が良かった。そのグループは女の子ばっかりで、とても閉鎖的だった。「グループの外の子とは遊んじゃダメ」とかリーダー気取りの子が気まぐれに「あの子とはもう遊ばない」という制裁を加えたりしていた。
対して、遠くで見ていた、アイたちは、仲良しで、ずっと羨ましかった。
小学生になって、クラスが一緒になった時にチャンスだと思って、羽宮愛に近づいた。意外にもすんなりと仲良くなれた。が、2人は特別なようで、なかなか入り込む隙ないなって思ってた。
「想いが伝わらなくてもそばにいられるだけでいいと思っていたのに、去年のバレンタインデー、アイちゃんがチョコレートをあげに行くところをみちゃって、恋人になっちゃったら絶対勝目ないと思ったから、」
絶対阻止したいと思って、私が立ち去ったあと、ついついチョコレートを持って帰ってきてしまったという。
「ちょっと意地悪しちゃった。」
とユカはごめんね、と笑う。
ちょっとというレベルじゃない。去年の、試験勉強しながらも書いた渾身の手紙も届いていなかったんだ。
「でも、アイちゃんは本当にレンくんが好きだったの?」
私が口を開こうとしたが、安易に答えるのは許さないというように続ける「わたしにはそうは見えなかった。」見たことないくらい真剣な目でユカはいう「絶対誰にも渡したくないって思っちゃうくらい、誰か嫉妬しちゃうくらい、そんな自分が嫌になっちゃうくらい、好きには見えなかった。」
静寂が広がる。
ユカの言うとおりかもしれないと思った。ずっと一緒にいたい、いられると、このくらいの想いで、好きと言ってしまうなんておこがましいのかもしれない。
「そうだとしても、花咲さんが羽宮さんの想いを否定する理由にはならないと思うけどね…。」
隣の先輩の声で冷静になる。
どうにか私は言葉を紡ぎだし、
「少なくとも2人が付き合ってるって知ってショックだったくらいは好きだったと思う。」
その言葉に、レンが怒ったように
「付き合ってねえよ」
「まだね」
ユカが付け足すようにいう。
「そんな予定もない。」
とレンが改めて否定する。
「でも、デートするくらいなんでしょ。」
私は2人の様子を見ながらふと思う。ああ、こういうことだったんだなと。「それって結局、」きっと、これを言ったら全てが終わってしまうんだろう。けど、言わなければいけないと。「レンは、私より、ユカを選んだってことだと思う…。」
レンは驚いたように見ている。「それがきっと、レンの答えなんだと、思う。」
私の言葉に、沈黙の闇がテーブルに広がる。レンの口が「ちがう」という形に動くけど、でも表には出てこない。
それならば…そうか… こうしよう。
「私が、去年、レンに、チョコをあげたと思ったの、勘違いだった。」
みんなの目が集まる。「勘違いで、私、今まで、誰にもチョコレートなんてあげたことなかった。ごめんね」
私が、謝罪の言葉を口にした瞬間ユカが、
「これだから! アイなんて大っきらいなんだ! なんで、そうやって…… アイなんて大嫌い! だいっきらい!」
自分のうちで、親友に泣きながら罵られるホワイトデー。大嫌いを繰り返すユカはなんだか、私のことよりも自分自身を責めているように見えた。
「ごめんね、ユカ。でも私は、ユカのこと好きだよ。」
ユカははっとしたように顔を上げる「あと、レンも。」
レンは俯いていた。
☆.。.:*・☆.。.:*・☆.。.:*・☆
あれ、今何時だろう…
しばらく考え込んでいた。
気がついたら2人の姿はなかった。
思い返すと、「もう、帰る!」って立ち上がったユカに「またあしたね」って言った覚えがある。
ユカは驚いた顔をしたけど何も言わずに飛び出して、レンは、ちょっとこっちを見て、「ごめん」って頭を下げて、やっぱりユカを追いかけていった。
静かになって考えると、ほんの少しだけ後悔をしていた。
もし、自分が望んだならば、レンと付き合うことができただろうか、と。考えるが、即座に否定をした。1年って大きいよね……。
高校に入ってそろそろ1年が経つ。レンをずっと好きだと思っていたけれど、ずっとずっと好きだと思っていた。けど、今更、ユカとの仲を引き裂いてまで、レンと付き合いたいと思うような気持ちはない。
おんなじ高校行きたいと思うほど、そして、それを後悔するほど好きだと思っていたのに。
好きって、気持ちは粉々になって、刺さり続けてた。
そして、粉々になった好きは、今はもうすでに、溶けて、別な形になってしまった。
「これでよかったんだと思う…」
意外にも、気分はすっきりしている。
よし、明日からまた頑張ろうと思って、顔をあげると、まだ先輩がいた。そういえば、揉め事に巻き込んでしまったなと思う。
「えっと、色々付き合わせてしまってすみませんでした。でも、先輩がいてくれてよかったです。」
本当にそう思う。先輩は少し驚いた表情だった。「ずっとここ1年くらいずっと失恋し続けてるみたいな状態だったから、」少し笑って、「新しい恋が始められるかも」
と言ってみる。
「それはよかった。」
と先輩は微笑む。その後、「僕だったら絶対許さないと思うけどね」と小さく呟く。
そういうものだろうか。普通だと、恨んだり嫌いになっちゃったりするものなのだろうか。私は、
「そういう2人が好きなのです、友達として。」好きだけど嫌いで、嫌いだけど好きなのだ。こういうことがあっても、不思議と、好きだったところまでは嫌いになっちゃわないものなんだなと思った。
「それに許したつもりはないし。」許したとは言った覚えがない。多分、許せそうにはない、少なくとも、好きな人ができるまで、新しい恋を始めるまでかなぁ、と思う。
でも今日の夜は思い出して1人でいっぱい泣いちゃうんだろうな…。
いっぱい泣いて、そしたら、やっと、新しい気持ちになれるんだと思えた。
お待たせしました。
ここからが本番ですよ。
読んでいただきましてありがとうございました。