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ちょこっとあめー  作者: 星
5/13

1-3

 先輩は職員室に行って先生に作業完了の報告をしてから帰るという。


 薄暗くなった廊下を1人歩く。教室は既にほとんど真っ暗で、廊下の消火栓だけが赤く星のように光る。

 下駄箱をなんとなく見ながら歩く。つい癖でレンの場所に視線が行ってしまう。当然、靴はない。それからユカの場所を見る。もちろん、そっちも、残っているのは校内用のサンダルだった。

 

 靴を履き、扉を開けると冷たい空気が流れ込む。

 外は薄暗くなっていた。

「寒い…」


 グラウンドではまだ生徒が走っている。

 元気だ…と年寄りじみた事を考えていると


「羽宮さーん 今帰りー?」


 アキラ先輩が手を振っている。同じ生徒会の先輩だ。手を振り返しながら

「そーうでーす」

 と答える。駆け寄ってくる。

「いつも、ごめんねー レン、ちゃんとやってった?」

「大丈夫です! あと、神石先輩がいましたので…」

 わざとレンについての明言は避けてみる。

「え、レンは!?」

 全く誤魔化されなかった…。すごい剣幕に思わず

「帰りました。多分…」

 あ、つい、正直に言ってしまいました…。

「今まで散々サボったんだからやってけって言ったよ、あいつもわかってますって言ったのにー!」

 めっちゃ怒ってる。失言でした…。レンごめんね。内心謝る。

「私がやるって言ったので、帰ったのかもしれません…。」

 一応フォローのようなものをしてみる。一瞬、ひゅーと風が通り過ぎる。

「もー、羽宮ちゃん良い人すぎ! でもやれるやつがやんねーと来年度になったら大変だぞ! あいつ自身も困るんだし。羽宮ちゃんも我慢すんな! そんなんだと変な男に騙されて良いように使われるんだかんな!」

 あー、その忠告…何だか心が痛い…。心の中の傷にピンポイントで、ぐっさぐっさのめった刺しになっている。と思いながらもアキラ先輩の「いいか、本当のいい女とはな…」から始まった「いい女の条件」を拝聴する。なんでそんな展開になったんだっけ。っていうか、すごく寒い。帰っていいかな。空の赤い部分が減ってゆく。

「アキラ、先生向こうで呼んでる。」

 背中の方で呆れたような声がする。振り返らなくてもわかるキョウ先輩だった。

「あ、やっべ、じゃーなー」

 と言いながら、しゅたっと手を上げて、再びダッシュで走り去る。元気だ。なんだか青春って感じがする。

 走り去るのを見ていると、ポンと暖かい物が頭の上に乗る。思わず、手にとるとホットココアだった。

「あったかーい…」

 両手で包み込む。


「羽宮さんごめんね。」

 先輩の声で我に返る。


「先帰っててよかったのに、アキラに捕まっちゃったんだね」

 駅まで歩きながら話す。

「全くです。いい女の条件を聞かされました。」

「はは、何それ。」


 いい女とは、その1 外見も大事だが内面も大事。しかし、その2であっさりと、内面などわからないので外見をきれいに保つことが大事という。その3では能ある鷹は爪を隠すといい、良いところを隠す話となる。最終的にはぶっちゃけ人は皆、其々良いところがあるのだと言い始める。そんな感じで矛盾だらけの20条くらいあって、なんだかんだで真剣に聞いてしまった自分が憎い。


 ツッコミを入れながら説明するのを先輩は笑いながら聞いてくれる。無事、駅まで到着する。よかった冷え切った心の中も、何だか暖まった気がする。

 アキラ先輩ありがとう。

「先輩はどっちですか。」

 そう尋ねてから、そういえば、先輩と一緒に帰るのは初めてだなーと思い出す。ちなみに、この駅は上りと下りしかない。

「んー、同じかな。」

 少し笑っていう。ん? 何で知ってるんだろう。

 ああ、レンから聞いたのかもなー。あれ?

「先輩は、レンと知り合いなんですか?」

同じ生徒会だから、知ってるのは当然なんだけど、そうじゃなくて、ええと、表現を探していると、

先輩はあっさりと頷き

「割と小さい頃から知ってる。習い事が一緒なんだ。」

「ええー!?」

レンから聞いたことなかった!

「それから、今日、来ないって知っていた。龍谷が、レンが、言いに来たからね。『オレは帰ります』って。」

 わざわざ言いに行くくらいの仲良しだったのかな、と少し考え、それを否定する。

 他の時は、どうだっただろうと。理由を誰にも言わず勝手に帰っちゃうから、アキラ先輩も怒っているのだと。

「それは、」少し迷う「羽宮がいるから、帰るって意味なのでしょうか。」

先輩は少し困ったように

「レンの考えていることはわからないけれど…」言いにくいことを言おうとして、言葉を探しているようで「僕は、羽宮さんは今日いるのだろうなと思ったよ。」

 

 階段を登って、ホームにあがる。

 ポケットの中のココアはぬるくなっていた。

「先輩は、レンと何があったかは聞かないんですね…」

 知ってるのかな。レンに聞いたのだろうか。

「何があったのかは知らないけど、何かはあったんだろうなと思ってる。ただ…」

 言葉を選んでいる風で、

「話したかったら聞いてもいいよ」


 それは、どっちだろう。話したほうがいいのか、だめなのか。じっと顔を見てしまう。

「聞き流して欲しかったら、聞かなかったことにする。でも、1人で考えるのがつらかったら力になろう。」

 電光掲示板を見ると、まだまだ時間がある。前の電車が行ったばっかりなんだろう。人もほとんどいなかった。


「これから、長いひとりごとを話します。」


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