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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
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072 ハバロフスク・バン


 真也が仮設基地に戻ると、そこは大騒ぎだった。


 今日の朝に物資を積み下ろした車両に、物資を詰め込み直す者、大急ぎで装備点検を行う者。

 引率や教員たちは慌ただしく走り回り、無線を使ってどこかへと連絡を取っている。


 すでに夕日は沈み、空は暗くなっていたが、基地内を煌々と照らす照明機材のせいで、より慌ただしい雰囲気がしっかりと見て取れた。


 いくつかの天幕は、すでに畳まれつつある。


 そんな中、真也は一度、割り当てられたテントに向かい、装備を整えたのちレイラに指定された合流場所へと向かった。


 つい先ほどまであった炊事テントの跡地。そこには真也以外の02小隊のメンバーが既に集っていた。


「遅くなってごめん」


 真也は小走りで小隊の元へ向かい、声を掛ける。最初に反応したのは、伊織だった。


「間宮、どこ行ってたの?」

「崖の方」

「ああ、あの辺か。間宮、気づいたら「シンヤ様!」


 伊織が喋っている最中に、真也の視界に飛び込んできたのはソフィアだった。


「シンヤ様ったら、驚かさないでくださいまし!

 何時の間にか基地内にいらっしゃらなかったので、何かあったのかと心配しましたわ!

 私に何も言わず消えてしまったのかと……ソフィアは不安で不安で……ねぇ? ユーリイ?」


 ユーリイはソフィアの言葉に、無言で肩をすくめる。


 恐らく、真也が姿を消した……ように忽然と基地から消えた方法に、ソフィアは勘付いたのだろう。


 割って入られた伊織が、たん、たん、と足を鳴らす。

 これ以上、変に話がこじれる前に話を変えようと、真也はレイラに話し掛けた。


「レイラ、ここでバンって」

「うん。ウッディ曹長、知覚した」


 レイラは真也に対して頷くと、説明を続ける。


「ウッディさ…曹長が?」

「うん。それで、殻獣の移動、衛星から確認された。向かってきてる」

「次の営巣、ってこと?」


 バンと言われたため、真也は南宿のような災害を想像したが、考えてみれば今いる営巣地は、次の営巣を待つ枯れかけの営巣地である。

 であれば、次の営巣が始まっただけではないか、という疑問からの言葉だった。


「いや、最終除染が終わってないまま次の営巣ってのは聞いたことないな」


 そんな真也の疑問に答えたのは秋斗だ。

 秋斗の言葉を引き継ぎ、他の面々も会話に参加する。


「南宿といい、最近の殻獣はワケわかんないね」

「たしかに」

「やっぱ、テレビで言ってたみたいに、進化したのかな?」


 なぜ、完全に枯れていない営巣地に殻獣が向かってきているのか。それは真也だけでなく全員の疑問であった。


『あー、マイクテスト』


 02小隊の面々が話している最中、拡声器を通した声が、仮設基地に広がる。


 その声は、真也に聞き覚えのある声。

 声の方向を見ると、そこに立っていたのはトランシーバーのような形のマイクを手に、スピーカーを肩から下げた担任の江島だった。


『Aクラス担任、江島だ。全員、傾聴。ロシア支部の本部と相談した結果、決定した今後の指示を伝える』


 その言葉に、作業を行なっていた生徒たち全員が動きを止め、江島の方に注目する。

 それは、静かに指示を待つ軍人というよりも、不安から江島の言葉を聞き逃さんとする15歳の少年少女の姿だった。


 真也たちもまた、他の生徒と同じように江島の次の言葉を待つ。


『今こちらへ向かって来ているB指定群体の襲来予定時刻から逆算したところ、どうやら我々が営巣地の外へ出るほどの時間はない。よって、5番尖塔型塚へと移動する』


 営巣地の外へ出るほどの時間はない。


 その言葉に、生徒たちの間に動揺が走り、同時に言われた目的地にも驚く。

 5番尖塔型塚とは、今回の最終除染の対象となっている巣だ。


 つまり、殻獣の群れを避けるために、殻獣の巣に突っ込む、という指示なのだ。


『今回は、通常営巣と異なる挙動での他の営巣地からの襲来であり、バンと分類されるが、過去事例が無いだけで営巣の可能性が高い。

 であれば、この営巣地の既存の巣を避けることが考えられる。そのため、出口とは反対方向となるが、塚への移動を決定した』


「……5番ってことは、まだ虫が残ってる塚だよね?」


 夏海が、自分の耳を疑いメンバーに確認する。


「バンの構成、B指定群体。塚内部のF指定群体の方が、対処が楽」

「……まだ、そっちの方がマシってことね……」

「極限の選択すぎるだろぉ……」


 レイラの返事に一応の納得をした夏海と違い、冬馬は情けない声を上げた。


 そんな彼らを気にせず、江島の指示は続く。


『オホーツク基地から正規軍人が向かうが、しばらくの間は保安線外へと出て行く殻獣の処理に追われるだろう。士官高校生……軍人たる諸君の救助優先順位は、一般人のそれよりも低い。5分後に仮設基地中央、本部テント前に装備を装着し、集合せよ』



『これは訓練ではない。繰り返す。これは訓練ではない。以上、行動開始』



 江島は淡々と告げると、そのまま持っていた拡声器を担ぎ直し、まだ残っている本部のテントへと入っていった。


 それを見送った生徒たちは、時が動き出したように行動をはじめ、02小隊の面々もお互いの顔を見合わせる。


「5分後……」

「思ったより、時間ないね。私物はトラックに積んでいいのかな?」

「多分、持って移動。武装は……」


 指示を重ねようとしたレイラの持つ無線機から、ザザザ、と通信音が溢れる。


『あー、02小隊、レオノワさん、聞こえますか?』


 その声に反応し、レイラは返事を返す。


「はい、レオノワ特練上等兵」

『こちら異能顧問の津野崎です。02小隊は……いえ、02小隊のAクラスの4人と、ロシア支部の学生は、別行動です。すぐに会議用のテントへ』

「え?」


 急な指示に、レイラではなく真也が声を上げる。

 ここにきて、別行動の指示があるとは思わなかったのは、レイラも同じだ。


「それは……」

『急で申し訳ないですが、上からの指示なので、よろしくお願いしますネ』

「……了解、しました」


 有無を言わさぬ津野崎の言動に、レイラは顔をしかめながらも返答した。


『残りのFクラスの生徒は、01小隊と合流して下さい、ハイ。では』


 そう言い切ると、津野崎からの通信が止まり、レイラは小隊のメンバーを見遣る。


「……らしい。聞こえた?」

「ああ。まさか、ここに来て別行動とはな」


 秋斗は頭を掻く。

 何か別の任務が充てがわれたのだろうが、自分たちが『戦力外』だと通告されたように感じたからだ。


 そして、実際そうなのだろう。


 秋斗は少し目を伏せ、津野崎に呼びされた面々を見て、口を開く。


「悔しいけど、足手まといになるくらいなら、俺たちはきちんと俺たちの仕事をこなすよ。……頑張ってくれ」


 秋斗の言葉に、レイラが頷く。

 Fクラスメンバーは、01小隊と合流するため、人混みの中へ去っていった。




 呼び出された6人が会議室として作られたテントの入り口を潜ると、そこにはいつのもツナギと白衣に着替えた津野崎と、02小隊の引率、ウッディ曹長が待っていた。


「いやぁ、急な呼び出しですいませんネ」

「まあ、軍なんてそんなもんだと思ってますよ」


 津野崎の謝罪は、形式上のものという雰囲気があり、それに対して伊織が同じ雰囲気で応えた。


「津野崎さん、どう言った要件ですか?」


 真也の質問に、津野崎は眼鏡をカチャリと一度持ち上げる。


「単刀直入に申し上げます。

 ……アンノウン案件です」


 その言葉に、天幕の中の空気が緊張をはらむ。


 いまのところ、登録しただけという印象の強かったアンノウンとしての活動。


 しかし、それは極秘と聞かされていた上、まだ活動は開始されていなかったはず。


 このような地で、しかも、他の人間がいる中で言っていい内容なのか?


 真也が訝しげな顔をし、それを見た津野崎が補足を入れる。


「ああ、安心してください。グリーンウッド曹長と、それからそこのロシア支部のお二人も、アンノウン関係者ですよ」

「そう、なの?」


 レイラの質問に、ユーリイが頷く。


「……ああ。僕とソフィアは、アンノウン部隊のブレスク士官学校部隊『赤の広場』のメンバーだ」

「それよりも! シンヤ様も、アンノウンでしたのね!」


 割って入ったのは、やはりソフィア。

 真也は近づくソフィアをどうどう、と手で制しながら口を開く。


「う、うん。東雲学園部隊『デイブレイク』……なんだけど」

「ああ! これほど嬉しいことはございませんわ! 今後もシンヤ様とお会いできるだなんて!」


 色っぽく惚けるソフィアをスルーしつつ、真也はウッディに話しかける。


「ウッディ曹長も?」

「ええ。私もデイブレイクの担当軍人でして。今回、運良くデイブレイク隊が4人纏まったので私が引率しました」

「ユーリイさんとソーニャの2人も、アンノウンだから組み込まれたの?」

「いや、たまたまだよ。

 しかし驚いた。すごいね、レーリャ。君も選抜されてたなんて」


 盛り上がるアンノウンのメンバーたちに、津野崎が咳を1つし、全員の視線が集まったことを認めた津野崎は、言葉を続ける。


「さて、活動前で急遽のチームアップですが、よろしくお願いしますネ、ハイ。

 今回、今後アンノウンが扱う案件の1つが、発生しましたので。

 ……小型殻獣、人型乙種。その姿が確認されました」

「人型…乙種…?」


 津野崎の言葉に、全員が息を飲む。


 人型の殻獣などという、いきなり聞きなれぬ言葉に一同が驚き戸惑う中、真也は思い当たる節があった。


「緑色の少女みたいな容姿で、殻獣の腕の生えている奴ですか?」


 真也の言葉に、津野崎が目を見開く。


「間宮さん、もう遭遇されてたんですか?」

「……ええ、さっき」

「……なるほど……では、これから人型殻獣の説明をさせていただきます。そして、この件は……」


 一同を見回した津野崎は、真也で視線を止め、続きを口にする。


「間宮さん、貴方にとって、少し複雑な事情の絡む問題です」

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