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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
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049 風紀委員会


「明後日から、1週間だ」


 明後日から、1週間?


 あまりにも唐突な長期スケジュールに真也は驚く。

 周りのクラスメイト達も戸惑っていたが、その中で誰よりも早く声をあげた人間がいた。


「質問よろしいでしょうか!」

「なんだ、葛城」


 直樹である。彼の場合、明後日から、ということになると必然、日曜のレイラと共に真也の武装を見に行く予定が崩れるのである。


「それは、土日を挟むのですよね!?」


 直樹にとっては藁にもすがる思いの確認だった。

 しかし、発言内容は当たり前の事であり、江島もそれに対しては当たり前のことを返す。


「そりゃ、そうだ。終わった後、代休を2日出す。もしも移動が難しそうな予定があるものは後で申告しろ。善処する」


 絶対善処されない。


 江島の言い方に、真也を含め、クラスメイトの全員がそう感じる。


「まあ、入学の時の規約に、最大1週間の拘束、というものがあるため、契約締結した諸君らが何か問題があるとは思っていないがな」


 善処どころか退路を塞がれた。


 と、クラスメイト全員が肩を落とすのだった。


 全員が諦めたことを確認した江島は、同情を含んだ笑みを零し、しかしながら歴然とした態度でオリエンテーション合宿についての説明を続ける。


「明後日の0600(マルロクマルマル)に第1グラウンド集合。そこから移動を開始する」

「どこ行くんですかぁ?」

「諸君らは知る立場にいない」

「はぁい」

「しかし、まあ、寒いところへ行く準備はしておくように。着替えも1週間分、忘れるなよ」

「はぁーい!」


 江島の言葉に、真也はラウンジでの園口の言葉を思い出した。

 その言葉に対して、目的地を聞こうとした姫梨がすんなり諦めるの様子が、ラウンジでのレイラの姿と被る。

 真也は『知る立場にいない』という言葉は軍隊において「秘密」だと言うことを告げる際に使われる一般的な言葉なのだろうな、と感じた。


「では、その他の連絡事項だ。

 今日の放課後、決定した委員会の顔合わせがあるため、委員に任命された者はそれぞれ向かうように」


 江島の言葉に、レイラが訝しげな顔をする。


「……委員?」

「昨日の軍務の間に決められちゃったんだって」

「……あるある」

「あ、やっぱそうなんだ」


 江島は未だ話しているため、小声でやりとりをする。レイラは真也の説明を聞くと、一つため息を吐き出した。


「私、なに?」

「風紀委員」

「は…?」


 風紀委員、という言葉を聞いた瞬間、レイラの目が見開かれる。

 どうやら、一気に眠気が吹き飛んだようであり、レイラは慎重に真也へと質問する。


 まるで、質問の仕方によって真也の回答が変わるかのような慎重さだった。


「……朝、早い?」

「早いね」


 しかし、答えが変わるわけもなく。

 真也の答えに死刑宣告を受けたかのようなレイラは、目に見えるほどの負のオーラを放っていた。

 そんなレイラを励ますために、真也は言葉を続ける。


「俺も風紀委員にされちゃった。よろしくね、レイラ」

「……なら、まあ、いい。私だけじゃない。なら、平気」


 どうやら、姫梨の心遣いは、レイラ側にも心的余裕を持たせる結果となったようで、真也は心の中でもう一度姫梨へと礼を告げた。


「では、連絡事項は以上だ」


 江島の連絡事項の周知が終わると、直樹がもう一度号令をかける。


「起立! 気をつけ! 礼!」

「「「お疲れ様でした!」」」


 号令も、また、それに対するクラスメイト達の挨拶もいつもよりも早口だった。


 江島が教室から出て行ったことを確認したクラスメイト一同は、一斉に口を開く。

 その内容は、オリエンテーション合宿によって潰れた予定の確認や、合宿に向けての準備のやりとりだった。


 そして、真也の元にも、その相談者が2人、走り寄ってきた。


「「間宮! 武装どうする!? 明日行くか!?」」


 直樹と伊織の声がハモる。必死そうな形相も含め、全く同じ動きだった。


「あー、どうしようか」


 真也は頭を掻きながら、曖昧な返答を返す。

 そんな真也の元に、姫梨も合流し、口を開く。


「うーん、アタシは明後日の準備進めたいかもぉ」


 その姫梨の不参加の言葉に、レイラも真也へとおずおずと告げる。


「……私も。今日から早寝したい」


 早起きが苦手であるレイラにとって、朝6時に集合、というのは地獄の案件だった。

 そのため、今日から生活リズムを改め、その日を迎える必要があったのだ。


「今日から?」


 真也は、集合日の前日に早めに就寝をすればいいだろうと思っており、今日から早寝と言っても今日と明日しか間がないのだから、そこまで有効な方法とは思えなかった。

 しかしレイラは、真剣な顔で真也へと告げる。


「体作り」

「そんな体作り初めて聞いたよ……」


 姫梨もレイラも参加不可となると、そこまで無理して合宿前に武装を購入する必要性はないかな、と真也は結論付けた。

 なにせ、今ある異能の盾だけでも十分な火力は確保できており、武装の購入は真也にとってそこまで急ぐ案件ではないのである。


「まあ、それなら武装は帰ってきてからでいいかな」

「そっか……」


 最後まで不服そうにしていたのは伊織であるが、彼もまた2日のうちに準備を整えなければならないため、最終的には引き下がった。




 その日の放課後、真也とレイラは風紀委員の顔合わせに来ていた。

 顔合わせは、一年棟から出てしばらく歩いた先にある『委員棟』とそのままの名前の建物、その一室である『風紀委員会室』で行われる。

 他の委員会も今日が顔合わせであるため、かなりの数の生徒が委員棟へと足を運んでいた。


 真也とレイラは人ごみをかき分け、風紀委員会室へと足を踏み入れ、ドアを開けた真也へと、聞き慣れた声が投げかけられる。


「あ! お兄ちゃん!」


 そこにいたのは、まひるだった。

 


「お、まひるも風紀委員なのか」

「うん…昨日、決められちゃったみたいで」

「私たちも」

「あらら、レイラさんは朝苦手だもんね、大変だぁ」


 まひるの言葉に、忘れかけていた早起き必須という委員会の特性を思い出したレイラはげんなりと肩を落とす。


「……つらい」


 そのぼやきに真也が苦笑いを零していると、1人の少年が真也の視界へと飛び込んできた。


「あ、あの、間宮さん、お疲れ様っス!」


 元気よく挨拶をしてきたのは、デイブレイク隊の回復役、透だった。


「友枝も風紀委員か」

「は、はい! 自分も間宮さん……まひるさんの方と同じ理由っス」


 まひると同様、彼も委員会決定日にデイブレイク隊初軍務が被ったため、風紀委員に任命されたようだ。


 どうやら、数ある委員会の中で『風紀委員』は最も敬遠されるものらしい。

 真也は覚えていなかったが、初軍務の日、他の装甲車へと乗り込んでいた生徒達のうちかなりの数がここに居た。

 真也はもう一度周りを見渡したが、この4人以外のデイブレイク隊の面々は見つけられず、先輩達は上手く立ち回ったのだな、と恨めしく感じた。


 まひるは、透が自分と真也を区別するのに難儀していた様子から、透へと提案を投げかける。


「友枝くん、お兄ちゃんと私が一緒にいるとややこしいでしょ? 私のこと、まひるでいいよ?」

「え!? あ、えーっと」


 理由は事務的だが、好きな女の子から名前で呼んでいい、と言われた透は舞い上がりそうになる。

 が、その前に、確認しなければならない相手がいることを思い出し、真也の方をおずおずと窺う。


 その透の様子に、真也は頷いた。


 名前呼びして、良し。


 その免罪符を得た透は、無意識に破顔し、まひるへと呼びかける。


「まひる……さん!」

「なぁに?」


 まひるがキョトンと首を傾げて返事する。

 その様子に、透は自分の心臓が爆音で鳴り響くのを感じた。


 可愛すぎる。


「うひゃあ! なんでもないっス!」


 顔を真っ赤にした透は、視線を外しながら、素っ頓狂な悲鳴をあげた。


 風紀委員達が集まると、眼鏡をかけた風紀委員長の女子生徒が号令を出し、委員会説明が始まった。


 犠牲者とも言える風紀委員達に、淡々と風紀委員長が書類に書かれた今後の予定を伝える。


 風紀委員の主な仕事は、校内風紀の乱れをチェックし、自身もまた風紀を守るということ。

 そして、登校時に校門前での風紀チェックを行うというものだった。


 最後の、登校時の校門での風紀チェックというものが生徒達が風紀委員を避ける大きな要因だろう。

 この活動は、それぞれの学年で同じクラス番号毎に、週替わりで行われるため、真也やレイラ、学年は違えどまひるや透の属するAクラスは最初にその順番が来る。


 説明が終わり、解散となると、まひるは真也に話しかける。


「来週からは一緒に早めの登校だね!」


 まひるは早起きに抵抗があるものの、真也もまた同じ時間の登校である事に安心し、声をかけたが、真也は申し訳なさそうにまひるへと返答する。


「あ、その、まひる」

「なぁに?」

「ごめん、丁度明後日からオリエンテーション合宿になった。1週間。

 そのあと代休も挟むから、俺は参加できないんだ」

「え……うそっ!?」

「……たしかに!」


 まひるは衝撃を受け、1週間早起きしなくて済んだ事に気付いたレイラは小さくガッツポーズをする。

 明後日の朝6時集合、というのを忘れているのはご愛嬌だ。


「えっ!? じゃあ、お兄さん居ないんスか!」


 そして、透もまた驚いて大きな声を出す。

 透は、まひると一緒の活動が嬉しかったが、真也もまたその場にいる事で喜びが半減していた。

 しかし、真也が来週丸々いない事で、まひると2人での活動となった事に喜びを露わにした。というか、してしまった。


 その言葉に、真也はギロリと透を睨む。


「俺が居ないと何か嬉しい事があるのか……?

 というか、お兄さん…だとぉ……?」

「あ、や、すんません! 間宮先輩が居ないからとか、そんなの関係ないっスよね!

 あとその、お兄さんと呼んだのは謝るっス!」


 透はぶんぶんと手を振って必死に弁明し、真也はその様子にため息を一つ漏らす。


 透は本当はお義兄さん、とでも言いたいのだろうかと真也は勘ぐる。


 何を勝手に、と少しムッとした真也だったが、この異様に分かりやすい少年の、まひるに対する想いはとても真っ直ぐであり、怒りと同時に、真也の中に別の思いが芽生えてくる。


 自分には、まひるの恋愛を止める権利は無いのではないか。


 妹の恋路にあまり兄である自分が口を出すのもよくないだろう。

 自ら『まひる』と名前で呼ばせる事を提案していただけに、もしかしたら、まひるも彼の事を悪く思っていないのかもしれない。


「お兄さん、ね……まあ、いいよ、それで」

「え、よくないよ?」

「えっ!?」


 透の『お兄さん』呼び。まさかの、まひるからの即NGである。


 透は驚き、まひるの方を向く。

 それは真也とレイラも同じで、あまりにもすぐに差し込まれたまひるの否定に驚いた。


 3人の目線を受けハッとしたまひるは、モジモジと体を揺らしながら言い訳をする。


「……えっと、お兄ちゃんをお兄ちゃんって呼んでいいのは、まひるだけだもん!

 それに、お兄ちゃんの事は、『間宮先輩』って呼べば区別がつくよね?」


 その提案に、透に一つの考えがよぎる。


 『間宮先輩』と言えば間宮真也を指す。ならば『間宮さん』と呼べば間宮まひるを表せるのではないか?


 それはつまり、棚からぼたもち的に得た、『まひるさん』という呼び方を解消されるかもしれない、という事だ。


 この話を早々に終わらせ、うやむやのまま名前呼びをキープする。それが透にとっての最善手である。

 その思考にたどり着いた透の行動は素早かった。


「分かったっス! まひるさん! 間宮先輩って呼ぶっス!」


 透はまひるの言葉に全力で頷くとこの話を終わらせ、「お先っス!」と手を振って帰っていった。ゴリ押しである。


 真也は透の行動を疑問に思いながらも、レイラ、まひると共に風紀委員会室を後にする。


 そして、オリエンテーション合宿の短すぎる準備期間の過ごし方を2人に相談するのだった。

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