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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
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045 パトロール side:A


 デイブレイク隊A班がパトロールを始めてから30分ほどが経過した。


 敷地内に未だ少し残っていた木々の向こうから、やかましい羽音をたててバスケットボール大のカナブンのような殻獣がA班を襲う。


 しかし五人は慌てることなく対応……という名の傍観を決め込む。


 パトロール中に、何度もこのような小型殻獣と接敵したが、しかしA班のパトロールは、非常に順調なものだった。

 なぜならば、それらがA班の元に到達する前に、それら全てを真也の異能、棺の盾が叩き落し、砕いていくからだ。


「はぁ…本当に凄いですね」


 真也の異能の強力さを目の当たりにしたルイスは、感嘆の声を漏らす。

 先ほどまで敵意を向けていたカナブンの殻獣たちも既にバラバラの残骸となっていた。


「まあ、俺個人はあまり何もしていない気分なんですけど」

「しかし、これでは他のメンバーの訓練にならんな…間宮、この盾を消すことはできるか?」

「あ、はい。ただ、危険になると勝手に出ちゃいますけど」

「構わん。間宮、一度消してくれ」

「分かりま…了解です」


 硬い言葉に言い直す真也に、光一は少し笑うと言葉を返す。


「別に、無理に硬い言葉を使う必要はない。敬語までやめろとは言わんがな。修斗の話し方もそうだろう?」

「なんで俺を引き合いに出すねん」


 真也はその漫才のようなやり取りに不覚にも吹き出す。修斗がぐるりと首を回して真也を睨むが、すぐに破顔した。


 彼らなりの、緊張をほぐすジョークだったのだろう。


「分かりました。盾、消します」


 真也は盾を消し、五人は次の襲撃を待ちながら歩みを進めた。




「うおぉぉぉぁあ!」


 ルイスが雄叫びをあげながら、飛来したカナブンにアッパーカットを食らわせる。


 普通であれば上に吹き飛ばされるであろう殻獣は、そうなることなく、地面へとぼとりと落ちた。


 それは、ルイスの拳が強力すぎるが故だ。


 ルイスが殴った軌跡の形に沿って体をそぎ落とされた死骸が、地面に転がる。


 たとえ真也が異能を使わなくとも、ルイスもまた、一撃を持って殻獣を蹴散らす。


 この営巣地に生息するカナブンの殻獣『花潜(はなむぐり)小型乙種』は、彼らにとってはアップにもならない程の存在だった。


 特にルイスは、単純なエンハンスド能力だけ見ればデイブレイク隊で最も強度が高い。

 ルイスの怪力を目の当たりにし、真也はルイスに確認するように話しかける。


「ルイス先輩は、エンハンスドの異能のみなんですよね」

「ふぅ…その通りです。『雄牛』の異能者はそういった者が多いですから」


 ルイスのような、追加異能を『持たない』オーバードというのは、一般的ではないがそこまで少なくもない。

 強度が低いために、追加異能を『持てない』オーバードと違い、彼らは追加異能がない分、エンハンスドやエボルブドといった基礎的な異能の強度が高い傾向にある。


 そのため、ハイエンドたる真也や美咲よりも高いエンハンスド強度を持つのだ。


 RPGでいえば、オーバードは皆、異能を駆使する魔法使いなのだが、彼らは同じ強さのモンク、あるいは戦士といった存在だ。


「かの有名なエンハンスド10『ヘラクレス』も雄牛の異能者ですね。私の憧れです」


 ルイスの話す『ヘラクレス』とは、アメリカのハイエンドレベルのオーバードであり、この世界唯一のエンハンスド10を持つオーバードだ。

 普通、オーバードから出る異能物質を測定することで異能強度は算出される。

 しかしそれは、追加カテゴリーを持つオーバードや、『持てない』オーバード用のものであり、追加カテゴリーを『持たない』オーバードの測定法は確立されていない。


 そのため『ヘラクレス』は、相対的評価としてエンハンスド10を名乗っている。


 『自分以上のエンハンスド異能者はいない』。だから『最高値の10である』という意味だ。


 それを国疫軍も宣伝文句として使っているため、ヘラクレスを超える異能強度がなければ、エンハンスドのみの異能者は『エンハンスド9』が最高値となるのだ。


 『エンハンスド9』のルイスはまさにその典型であり、かなり強力な身体性を持っていた。


「レンバッハ先輩も頑丈だし…僕の出番、ないっス……」


 そう項垂れるのは、まひると同じ中等部2Aに所属する少年、友枝(ともえだ)(とおる)だ。


「まあ、今日は出番はないだろうな。我々A班も、彼女たちB班も、ここに出現するような小型殻獣では傷1つ付かんからな」


 『四つ葉』の意匠を持つ友枝透の異能は、高速治癒だ。

 対象がオーバードであれば一瞬のうちに傷を治すというもので、その中でも透の強度は7と高い。

 これは、たとえ腕が吹き飛んだとしても2時間以内なら再生する事ができ、半身を失おうとも『死ななければ』治癒で体を復元させ、持ち直させることすらできる。


 たとえ強度が低くとも『四つ葉の意匠』というだけで引っ張りだこの存在なのだ。


 その彼が珍しく全く役に立たない。それは喜ばしいことなのだが、まだ大人になりきれない透は、少しふてくされる。


 そんな透の肩を修斗が叩き、声をかける。


「まあまあ。今日はレクリエーションみたいなもんや。こんなカス営巣地で活躍せんでええって。普段は真面目な光一『が』男女別で班分けするくらいヌルい現場やで? まあ、厳密には男女別やないねんけどな?」


 それは先輩として、後輩を気遣う素晴らしい行動であったが、『男女別』を強調するあたり、修斗は自分の勘違いを光一のせいにしたいようだった。


「俺は、押切の心情を慮っただけだ。彼は男子の方が苦手なようだからな」

「え、そうなんスか!? 全く気づかなかったっス」


 光一の言葉に透が驚く。


「明確に聞いた訳ではないが、恐らくそうだろう。ラウンジや、今日の車内での反応を見るにな」


 光一の観察力の高さに、A班の面々…真也を除いた男子生徒達は驚く。

 その反応に、光一は眼鏡を持ち上げ、ふふん、と鼻を鳴らした。


「怪我を負う可能性のある場所では、こんな班分けはせんよ。

 連携を考えるならこの班分けは下の下だからな」


 たしかに、強度の低いメンバーがB班に多く、かつ探索向きの伊織、まひるが同班。

 これは、戦闘面を全く考慮していない、レクリエーション用の班分けであった。


「ま、そういうことや。

 実際に戦うことになったら透くんは苗ちゃんやら、押切くんやら、まひるちゃんの側にいることが多いやろな。

 あの子らは基礎強度低いからなぁ」


 修斗の言葉に、透は拳に力を入れ、顔を赤くして言葉を返す。


「そ……そうっスよね! 間宮さんは俺が守るっス!」

「……後の2人も治療したってや?」

「え!? あ、はい! もちろんっス!」


 例えとして3人の名前を出したが、まひるを個人指名した透の反応に、修斗は『分かりやすい少年だな』とニヤリと笑い、茶化し、透は赤い顔のまま真面目に返答した。


 その、まひるに対する特別な感情を、真也もまた感じ取る。


「間宮さんを守る、って俺を守ってくれるのか?」


 妹に手を出す少年へ、真也はチクリと言葉を刺した。

 その言葉に透はブンブンと手を振り、弁明する。


「あ、いや、違うんス! この間宮さんってのは、違ってっスね! ま、まひるさんの!」

「まひる? 名前で呼ぶほど仲がいいのか?」

「いや、その、いま名前で呼んだのは識別信号的な意味合いっスよ!」


 思い人の兄貴……正しくは兄貴分である真也に嫌われるのは、透としては困る。なんとかして弁解したいが、真也の目は細いままだった。


「おおこわ。シスコンやなぁ」


 2人の様子を見た修斗は、わざとらしく体を震わせて肩を抱く。

 真也は、思わぬ方向から飛んできた茶々に不満そうに頬を膨らませると、


「べ、べつに……そんなことないです」


 と言ってそっぽをむいた。そんな真也や透の様子を、ルイスや光一は面々は微笑ましく見ていた。




 またしばらく歩いた後、光一は一つ伸びをして、全体に声を掛ける。


「さて、そろそろ三年生の本領を見せるか」


 光一の目線が前方を射抜く。それにつられて注目した面々の目には、数十匹ほどのカナブンの殻獣たちの群れが映る。


「うわ、多いっスねー…」


 1匹1匹は大したことのない存在だが、これほどまでに数が多いと、透は処理に時間がかかるだろうな、と面倒臭げに声を上げた。


「問題ない。行くぞ、修斗。後の者はここで見ていろ」

「あいよ」


 全員で戦った方が良さそうな数だった。

 もしくは、真也の異能ならば直ぐに片がつきそうであるが、光一は修斗だけを連れてカナブンの群れへと歩いていく。


 光一は眼鏡をカチャ、と上げなおすと両手を開いて群れの前へと立ちふさがる。


「地面に落とす」

「へい」


 その二人の短い会話の直後、修斗が群れの上空へと跳躍。


 カナブン達は、修斗には目もくれず、光一へと襲いかかろうとまっすぐに飛翔する。


 正しくは、飛翔しようとした。

 しかし、カナブンは急に方向転換する。


 方向転換先は、地面。


 ドカドカと音を立てながら、まるで修斗の数メートル先から『向かう先が違った』かのように地面へと突撃していく。


 そうなれば、当たり前であるがカナブン達は動くことができず、地面へ向かって飛翔を続け、もがく虫達の山が形成される。


「いくでー」


 やる気のない修斗の声が、カナブンの山の上から聞こえ、次の瞬間、後方にいた真也達のさらに後ろから追い風が吹いてきた。

 一瞬、風につられてカナブンの山へと体が吸い寄せられそうになる感覚を覚える。


 しかしその直後、風は、真也達を後ろに吹き飛ばさん程の強い向かい風へと変わる。


 カナブン達が、見えない刃でまとめて切り刻まれ、その『風圧』が真也達にまで届いたのだ。


 『カナブンの山』は、一瞬にして『カナブンたちの死骸の山』……正しく表現するのなら『粉々に砕かれた何かの山』へと変貌した。


「……すごい」


 ぼそりと真也が感想をこぼす。


 カナブンの群れを一掃した修斗は地面に着地すると、光一とともに後方で待機していた3人の元へとやってくる。


「ま、ざっとこんなもんやな」


 なんてことない、といった風を装っているが、3人の反応に気を良くしたのだろう、狼の尻尾は自慢げに左右に揺れていた。


 いまだぽかんとする3人へと、三年生達は説明をする。


「俺の異能は、『竜巻』の意匠。

 風を操る、っちゅーもんや。広い空間の方が威力は出るけど、下手したら仲間を巻き込みかねん。

 せやから光一が『煙』の異能、認識阻害であいつらの平衡感覚やら視界やらを狂わせたりして、味方から離れたところで纏めて、それを俺が叩くわけや。

 コンビネーションってやつやな」


 自慢げに話す修斗の言葉を光一が引き継いで、後輩達へと薫陶を授ける。


「戦闘連携は、強大な殻獣と戦うにあたり、最も大切なものだ。

 そしてそれは、おそらく対オーバードでも必要となるだろう」


 見た目や性格、それらが凸凹コンビのように映る2人は、戦闘面では正しくコンビ……息のあった相棒だった。


 少しは顔つきがまともになった後輩達へ、光一が今後の活動内容を伝える。


「こういう戦い方を全体で模索する。それが今後、9月までに我々がやるべき内容だ」

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