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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
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041 1週間後の答え


 真也と伊織が遊びに行った翌日から、学内を小さな噂が走った。


 曰く、押切伊織が笑っていた。


 曰く、押切伊織が仲良くしている男がいる。


 曰く、曰く、曰く…。


 伊織の耳は学内のあちらこちらでそんな噂を拾う。

 やはり、その噂の中には根も葉もないものも多いが、あまり気にならなかった。


 その代わり、気になるのはたった1人の『男友達』の会話であり、共に昼食をとったり、話したりしていない時も、気づけばいつも彼の声に耳を傾けていた。



 彼のことを知りたい、というのは、純粋に友人に対しての気持ちであり、変な意味ではないのだ。

 だから、彼の食の好みや好きな番組、家の最寄駅などを知ることは、友人として必要なことなのだ。

 レオノワがたまに彼の家へ行っているらしいことは、そこまで重要ではない。……泊まりは良くないと思うが。

 エボルブドのネットアイドル『ネコミ』が好きだという情報はなかなかに有用だった。

 妹は間宮まひる。中等部2年A組。自身が中3の時の一年生だ。

 中等部で話したことはないが、なんとなく知っていた。たしか、明るい子だ。先週特別部隊のラウンジで見かけた際に、声をかけておけばよかった。

 何故か? そうすれば彼の家に遊びに行くのが…いや、そんなことはどうでもいい。


 ……ボクが彼の言葉をこうして聞いているのは、友人の特殊部隊の参加可否が気になるからだ。情報を得たのは、あくまで副次的な産物。



 伊織は、自分の行動をそう無理やり理由付ける。

 『友達付き合い』というものを知らない彼は、一歩間違えばどころか、すでに数歩間違えてストーカーの域に達していた。


 放課後、少しでも気を緩めると教室の方へ向いてしまう耳の向きを、意地と根性で窓側に向けたまま音を拾う。


「レイラ、これからだけど」

「ん、覚えてる」


 それは、真也とレイラの短い会話だった。


 前回、特殊部隊のラウンジに行ってから1週間が経っていた。


 それはつまり、今日、これから特別部隊の所属確認と、契約が行われるという事。

 とうとう、これから移動となったタイミングで、初めて言葉に出した真也に、伊織は意識を集中させる。


 伊織はこの1週間…土日を挟んだため5日間。真也の言葉に聞き耳を立てていたが、機密意識が高いのだろう、この時まで彼は特別部隊について話すことはなかった。


 伊織もまた、聞かれてないのに自分から言うのが癪で話さなかったため、お互いがどうするのか知らないままこの日を迎える。


 勿論、特殊部隊について話さなかったのは伊織や真也だけではない。

 学内で出会う他学年の生徒たちも、すれ違うとこちらに軽く会釈をする程度で、特別部隊の話どころか『あの場で会った事』すら、匂わせないように過ごしていた。


 皆、日常の学生生活の中でも、機密を守り、今日という日を待っていたのだった。


 真也は、レイラと共に伊織の席へと向かい、いつものように窓の外を眺める伊織へと声を掛ける。


「伊織、行くか」

「…ああ。行こう間宮」


 伊織は、まるで気にしていなかったと言わんばかりに間を取って返事をし、席を立つ。そこへ、キャラに似合わぬ金髪ショートカットの少女が現れる。


「あ、あのぅ…」


 喜多見美咲。影の薄い、おどおどとした少女もまた、その下へと合流した。


「喜多見、行こう」

「は、はいぃ」


 レイラに声をかけられた美咲は、いつものようにどもりながらも、真剣な顔つきだった。




 4人は先週も来た道を辿り、エレベーターへと乗り込む。

 地下へと深く進むエレベーターが開くと、そこには既に多くの生徒達……特別部隊員の候補達が揃っていた。

 そして前回同様、奥の壇上には園口と津野崎の姿も見える。


 レイラは、園口の姿を目に留めると、急ぎ敬礼し、他の3人もそれに従った。


「高等部1A、全員現着、しました」


 レイラは部屋の奥に立っていた園口へと報告し、園口はそれに返礼すると、口を開く。


「ご苦労、君たちで最後だ」

「遅くなりましたぁ……す、すいません…」

「構わんさ、今はまだ、学業優先だ。さ、各々好きに着席し、聞いてくれ」


 園口の言葉を受け、4人は部屋の中の適当な場所へと着席した。


 全員が揃った事を確認し、園口は短く「傾聴」と言葉を発する。

 それに対し、真也も含め、全員が姿勢を正し、園口の言葉を待つ。


「今回は参加の可否に関わらずの再集合だ。

 周りに遠慮することはないので、この部隊に不参加というものは、退室してくれ。

 その後、ここで会った人間、ここで聞いた事、その全てを黙秘する、という契約書を送らせてもらう。それに記入、提出して終了だ」


 園口の口調は、非常に事務的なものであった。


 真也は目元だけで周りを見渡す。

 誰一人、起立するどころか身動きすらしなかった。

 その様子からは、この部隊に所属するということの重大さ対する各々の『決意』が窺えた。


「そうか。では、全員参加と見なすぞ。

 これ以降は、除隊については簡単には認められんが、それでもいいのか?」


 園口は、動かない全員に念を押す。しかし、やはり誰も、席を立つことはなかった。


 しっかりと30秒は沈黙が続いただろう。


 園口は、一つ息を吐き出して表情を崩す。


「先週、割と強めに脅したつもりだったがな。ありがとう諸君」


 その言葉に、真也達もまた、緊張の面持ちを少し崩した。

 真也は伊織と目が合い、お互い少し微笑んだ。


 そんな園口や真也達よりも大きく変化したのは、津野崎だった。


「では、契約書をお配りしますネ、ハイ!」


 満面の笑み。


 しかも、胡散臭い満面の笑みで契約書を配り回る津野崎は、なぜか契約書にサインすることを躊躇わせる詐欺師感があった。


 とはいえ、そんなふうに見えるだけで、日本で最も権威のある『東異研』の室長かつ、学園の異能顧問である津野崎と、軍の少佐が用意したものだ。

 真也にとってはお世話になった二人だけに、全く用心なく契約書に名前を書き込む。


 他の人…特に、ロシア語翻訳された書類を持つレイラと、生徒会長の光一は契約内容をしっかりと読み、その上でサインを行なった。


 全員のサインが終了すると、またもや津野崎が書類の不備を確認しながら回収していく。


 その様子を見ていた光一は、申し訳なさそうに眉を下げる。


「なんというか、このような雑事を津野崎女史にして頂くのは気が引けます」

「まあまあ。この部隊の成り立ち上、人手不足でしてネ」


 そう口で言いながらも、せっせと雑事に励む津野崎は、真也の目にどこか楽しそうに見えた。


 契約書の回収が終わると、園口が口を開く。


「では、契約も無事に終わったところで諸君らにこの特別部隊について説明する。

 もちろん、諸君らが知る必要のある部分しか伝えないが…質問があれば、随時してくれ」



 とうとう、特別部隊の詳細が告げられる。

 正式な部隊員となった皆は、園口の言葉に集中した。



「まず、大隊名は『アンノウン』、コードナンバーは『uk』、我々、東雲学園の小隊は『デイブレイク』。アンノウン大隊として活動する際は、デイブレイク隊と名乗ることになるだろう。

 軍務内容は基本的に極秘任務を扱ってもらう」


 『アンノウン』。真也が知る限りのその意味は、『未知』もしくは『無名』という意味だ。真也は軍隊のことなど詳しくないが、恐らくは部隊名につけるような名前ではないように思えた。

 真也は、その名前だけでなく、極秘任務を扱うという言葉からも特別な部隊だという印象が強まり、高揚感とともに不安感もまた、チリチリと心に生まれる。


「極秘任務ですか」


 極秘任務という言葉に反応したのは、光一だった。園口は光一の言葉に首肯すると言葉を続ける。


「当たり前だが、国疫軍では突発災害以外の作戦行動は、作戦前に作戦内容の詳細データを国疫軍本部、そして連盟に提出しなければならない」


 それは、真也もテキストで予習した内容だった。

 国疫軍基礎知識というところの、さらに最初の方に書かれていたもので、各国各地域に干渉する国疫軍の行動は、作戦前に関係各所へと周知されると記載されていた。


「しかし、士官学校の学生軍務では、学校が把握していれば、連盟への作戦内容のデータの提出を作戦後に提出……つまり、事後報告にすることができる。

 それはつまり、連盟、ひいては各国への情報開示を作戦後にできるという事だ」


 その、基礎知識とも言えるこれまでの常識を破るような発言に、その常識と一番長く付き合っているであろう3年生の修斗が狼の尻尾をピンと立てて反応する。


「各国への情報共有前に作戦行動を起こす? ほな、あんま表に出せへんような任務って事なんすか? ヨゴレ仕事とか?」

「修斗!」


 あまりにも明け透けな修斗の言葉を同じ3年生である光一が諌め、修斗が肩をすくめる。

 そして、そのまま光一が園口へと質問を続ける。


「…しかし、我々の作戦行動が秘匿されたところで、大目的を持つ国疫軍側の作戦内容が必要なのでは?」


 それは、同じく基礎知識に書かれており、当然の質問だった。

 たとえアンノウンの作戦報告を秘密にしたところで、学生軍務は、それ単体では行われない。

 学生軍務とは、正規軍人が行う、一般的な国疫軍の作戦の中に付随するものなのだ。


「そこは、諸軍務として扱う」


 諸軍務。それは学生が参加する、普段から行われるパトロールや営巣地観察任務など、学生にさせても良いと判断される『重要度の低い案件』のことだ。


「はぁ…なんちゅうか、ズルくさいなぁ」


 納得しかねるといった様子の二人のため、園口は追加で説明を重ねる。


「諸君が行う軍務は、国際的に問題になりやすい地域の営巣地での活動や、対テロ、反社会活動に対する物が大半だ。これらは作戦行動の秘匿が重要となる。

 もちろん、一般的な情報秘匿は普段から行われているが、連盟は巨大な組織だ。

 なるべく少人数しか知らない状態で作戦行動に移したい。そのための学生部隊だ」


「つまり我々アンノウンは、国疫軍の盲点を突いた存在……国疫軍の縛りを抜け出た存在という訳ですね」


 園口の言葉に納得し、声を上げたのは2年生の外国人、ルイスだった。

 園口はルイスの言葉に頷くと、言葉を続ける。


「その認識で間違いない。そのため、引き続き特別部隊の詳細は第三者には秘匿してくれ。

 表向きに諸君らは学生大隊の404大隊所属ということになっている。そう名乗るようにしてくれ」

「そこまで、する、必要性は?」


 あまりにも多重に隠された部隊の詳細に、レイラは質問を投げかける。


 園口はその質問に対して少し後ろめたそうな顔をし、一言だけ放つ。


「…君たちは知る立場にいない」

「……了解」


 レイラは、その言葉に『内部スパイ』の可能性を感じ取り、短く返答をした。


 園口は手持ちの資料をめくり、説明を再開する。


「アンノウン大隊は世界16校の選ばれた異能士官学校の生徒たち200名ほどで構成される。全ての学校が一流であり、情報の漏れないギリギリの人数だ。

 そのため、世界的な入学シーズンである9月に結成式が行われる。それまでは待機だ。

 『慣らし』のために、君たち10人で一般的な軍務についてもらうが、アンノウンとしての活動は先になるだろう」


 世界から、200人。特別部隊は、ここにいる10人で全員だと思っていた真也は驚く。

 それは他の隊員達も同じようで、小さく体が反応していた。


「軍務によって単位の取得が困難な場合や、各申請、給与については書類に記載してあるので、各自で確認してくれ。表向きの他の士官学校軍務と同じようになっている。問い合わせ先も404大隊。

 名前を参照後、こちらから返答する。以上だ」

「……一貫されておりますね」


 ルイスは腕を組み、ぼそりと呟く。


「ああ。機密保持のためだ、面倒だが宜しく頼む。

 ……さて、今はまだ選考中だが、後日、信頼できるスタッフを事務要員としてこちらに派遣する予定だ。何か契約上の質問があればその者にするように。では…」


 では、という言葉とともに、園口は津野崎の方を見る。


 津野崎は、その視線を受けると一つ頷き、園口より前に進み出て、全員に話しかける。


「はい。ここからは、私がお話ししますネ。

 アンノウン所属となった皆さんには、今から、この世界における最高機密を2つ、お伝えします」


 最高機密、それも2つ。


 真也は、1つは自分の境遇についてだろうと思ったが、もう1つについては全く予想がつかなかった。

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