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黒の棺の超越者《オーバード》 ー蠢く平行世界で『最硬』の異能学園生活ー   作者: 浅木夢見道
第2章 東雲学園編 新生活とオリエンテーション
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036 まさかの誘い


 完全に納得したわけではないにせよ、まひると共に特別部隊入りを決めた真也は取り敢えず学業に集中することにした。


 すぐにでもレイラにメッセージを送ったり、伊織や美咲の結論を知りたかったが、担任の江島の言葉、機密保持は当たり前だというものを思い出し、質問することはできなかった。



 初日の授業は、殆どが教師による挨拶と簡単な今後のカリキュラムと、簡単な授業ばかりだった。

 しかし、流石は東雲学園と思える凄そうな経歴ばかりの教師陣に真也は今後の授業についていけるか不安が生まれた。

 なにせ、後で知った東雲学園の入学試験の難しさはこの世界では有名だったのだ。


 そんな真也の不安の相談に、あっけらかんとした返答が掛けられることとなる。


「まぁ、Aクラスはそんなに勉強できなくてもいいよぉ」


 なぜか共に昼食を取ることになった姫梨が深刻そうな面持ちの真也に告げる。

 広大な学食でテーブルを囲んでいるのは、真也、レイラ、姫梨に直樹の4人である。


 姫梨の言葉を裏付けるように直樹が口を開く。


「まあ、桐津が言うと凄い不真面目に聞こえるから肯定はしたくないけど、アルファベット組に重要視されるのは軍務と軍規律に対しての理解力ぐらいだよ」


 直樹の言うアルファベット組というのは、真也のいるAクラスを筆頭にA〜Fクラスまでの、オーバードのクラスの事だ。

 非オーバード、つまり一般人たちのクラスは1組、2組、3組であり、こちらは数字組と呼ばれている。


「特にAクラスには学力査定のない推薦組も多いしね。軍務だって多い。多少は目を瞑ってくれるよ」


 直樹の言葉に真也は多少は安心したものの、しかしその直後、同じ直樹の言葉によって、その安心はまた吹き飛ばされる。


「あとは、英語かな? 軍務で海外に行くこともあるから、英語は必須だよ」


 英語。それはこの世界の社会の次に…つまり、真也が最も苦手とする教科だ。

 直樹の説明はよく分かるが、それでも真也は恨めしい気持ちになってしまう。


「う…英語苦手なんだよね」

「私もぉ」


 姫梨は真也に同調し、机に肘をつき大きく息を吐き出す。


「レオノワさんは、英語は得意なんですか?」


 直樹の質問に、うどんを黙々と口に運んでいたレイラはフォークを動かす手を止めると、直樹に返事する。


「まあ、喋れる。日本に来る前、色々と、回ってたら、覚えた」


 真也は、レイラが英語を喋れるというのは当たり前のように感じていたが、彼女はロシア人だ。普段はロシア語を話している…はずだ。共通概念の会話によって、その感覚が狂ってしまっていた。


 レイラが日本に来る前の話は少し興味が湧いたが、その話を聞く前に姫梨が口を開く。


「いーなぁー。レイラっち、英語教えてよー」

「レイラっち…」


 急にあだ名で呼ばれたレイラは固まり、おうむ返しにその言葉をつぶやいた。


「うん、レイラっち。レイラっちも、アタシのことは姫梨でいいよぉ」

「わかった。姫梨」

「名前呼びの方がいいよねぇ、仲良しさんって感じ」

 

 姫梨は自己紹介のイメージで、性格が悪いのではないかと真也は思っていたが、こうして高等部からの人間と食事を取り、真也の相談に乗るなど、騒がしくてよくしゃべるだけで普通の少女なのだな、と印象を新たにした。


「あ、お、俺も…」


 名前呼びの流れに便乗しようと、直樹が口を開く。


「ところでさ、聞きたいことがあるんだけど」


 真也は、そうはさせまいと話をすり替える。


 真也はレイラの事が気になっているが、気恥ずかしさが先行して、アプローチをかけるまでには至っていない。


 しかし、それでも寄ってくる他の男子の芽を潰すくらいのことはする。なにせ、彼もまた、ただの高校生なのだから。


「ん? なぁに? この純東雲の姫梨ちゃんがなんでも教えてあげるよぉ?」


 真也の言葉に反応したのは姫梨だった。

 口をパクパクさせる直樹を視界に入れないように、姫梨に言葉を続ける。


「押切さんって、どんな人?」

「えー、真也クン、いおりんに興味あるの?

 あ、真也クンってもしかしてソッチの人ぉ?」


 姫梨はわざとらしく頬に手の甲を当てて真也をからかう。

 それに真也の横にいたレイラが反応したようだったが、それがどのような反応だったのかを確認するほどの勇気は真也にはなく、姫梨の方を向いたまま、訂正する。


「いや、違うよ。友人として仲良くなれないかな、って」


 その言葉に、姫梨は少し考え、それから申し訳なさそうな表情で口を開く。


「…うーん、いおりんはあんま喋んないんだよねぇ。

 あ、でもぉ、前に直樹が話しかけてた時期あったよねぇ?」

「あ、ああ。同じクラスになって、いつも1人だったし何度か話しかけたんだけど、全然取り合ってくれなかったよ。人付き合いが好きじゃないのかも」

「そっか…」

「ごめんねぇ? なんでも聞いてって言ったのに全然教えらんなかったぁ。ウケる」

「え、あ、いや、いいよ全然」


 ウケる、の意味は分からなかったが、真也は2人に礼を述べた。


「…真也、そんなに押切のこと、気になる?」

「ん? うん…まあ」


 レイラから急に声が掛かり、真也はどきりとする。

 昨日から引き続きレイラがこんなにも興味を示しているのが珍しく感じた真也は意外に思い、早めに伊織が元の世界での友人だという事を伝えなければいけないなと心に留める。

 真也の想像だが、何か『勘違い』をされているとしたら、伊織の性別を含め厄介だ。


 そんな事を考えていると、姫梨がひときわ大きな声を出す。


「あ、噂をすればいおりんじゃーん!」


 その言葉に真也が姫梨の話しかけた方を向くと、ひときわ目立つうさ耳が見えた。伊織が手に昼食を乗せたトレーを持ち、こちらを向いて苦い顔をしているところだった。


「ねぇー! いおりーん、一緒にご飯食べよぉー?」


 姫梨が告げると、伊織は無表情だが耳をぴこぴこと動かして一瞬考えたのち、こちらを向いて返答する。


「いいよ」


 その言葉に姫梨は喜び、直樹は驚く。


「やったぁ! おいでおいでぇー!」

「…珍しいね、押切がこういうのに混ざるのって」

「何? いやなら離れるけど?」


 直樹の感想を受け、伊織は眉を寄せると直樹へと言い放った。直樹は思わぬ辛辣な言葉に手を振り、弁解する。


「いや、そういう訳じゃ」

「まあ、ボクが用があるのは葛城じゃないし。どうでもいいけど。ねえ、間宮。となりいい?」


 姫梨は、中等部からの付き合いで伊織が男の人が苦手な事を知っており、鞄を膝に持ち上げて自分の隣の席を空けていたため、驚いて言葉を放つ。


「いおりんって男の人苦手じゃなかったっけぇ?」

「別に」


 伊織は短くそう言うと、真也の返答を待たずに隣へと座った。

 伊織の持つトレーの上には、サンドイッチが数切れとオレンジジュースが乗っていた。

 むしろ、それしか乗っていない。

 それを見た真也は、伊織に対して口を開く。


「サンドイッチだけじゃ腹膨れなくないか?」

「足りる」

「ほんとか? 俺のパン一個食うか?」

「サンドイッチで足りるってば。それにカレーパンはあんまり好きじゃないんだよ」


 真也はその言葉に、自分の知る伊織はカレーパンでも食べていたように感じたが、やはりこの世界の伊織は少し違うのかと思い直す。


「ああ、なら定食の方から取るか?」

「いやだから…まずボクの昼食量を増やす考えから離れてくれない?」


 しかし、前の伊織と違っても、やはり真也にとって伊織は友人であり、手のかかる弟のような、そんな存在にしか思えなかった。


 真也はそのように、彼なりの『普段通り』で伊織と接していたが、その様子は姫梨と直樹から見るとそれは異様なものだった。


 ほぼまだ初対面といってもいい間柄であるのに、直樹や姫梨を相手にするときとは違う真也の話し方もそうであるが、なによりも2人を驚かせたのは伊織の反応だ。

 普段の伊織からは考えられないほど、会話が続いているのだ。しかも、その相手が男子となるとありえない光景だった。

 普段であれば、二言目で「ほっといて」で終わるのである。


 伊織もその周りの目線に気づいたのだろう。顔を少し赤くするとコホンひとつ咳をする。


「ってか、馴れ馴れしいな間宮は」

「お…すまん」

「ま、いいけど、別に」


 真也は、たしかにこの伊織に対してと考えると馴れ馴れしすぎたことに今更気付き、失敗したと反省する。

 そのため、伊織の口癖が普段と少し違い、彼の耳がピコピコと動いていることに真也は気づく事は無かった。


 伊織は、真也が反省している様子を見ると、焦るように耳をピンと立て、今度は伊織から発言する。


「ところで間宮、今日の放課後、空いてる?」

「え、特に用事はないけど」

「ふぅん、ならちょっと付き合ってよ」


 今度は、伊織から放課後の誘い。直樹は完全に言葉を失い、姫梨は仲良くなるチャンスだ、と会話に参加する。


「えー、どこいくのぉ? カラオケとかならアタシも行きたいかもぉ」

「桐津さんは呼んでないでしょ」


 伊織にバッサリと断られ、姫梨の目が見開かれる。

 伊織と一緒に遊ぶ、などと言うことは、姫梨の知る限りクラス会などで強引に誘ったとき以外では無かった。

 それなのに、今日は伊織から付き合いの提案があったばかりか、付き合いの長い自分はダメで、真也は大丈夫。

 その点に、メンタルが強い方である姫梨でも少し傷つく。


「まあまあ、桐津さん。男同士で遊ぶんだから、女の子が来ても楽しくないと思うよ?」


 しかし、姫梨の小さな嫉妬は、真也の言葉で納得へと変わった。

 それは、真也が言ったような性別の問題ではない。真也は、伊織を完全に男友達として見ているのだ。

 そんな、いままで伊織にいなかった『男友達』が相手では、どうやっても姫梨では相手が悪い。


 姫梨は納得し、直樹とレイラは驚く。

 皆、伊織の整った人形のような顔立ちや高い声。その容姿から、どこかで『女の子』として見ていたからだ。

 それを、会ったばかりの真也が、さも当然のように男同士と表現したのは3人にとって存外の答えだった。


「ううん。そっかぁ、男子だけで遊びたいならしょうがないかぁ。残念ー」

「で、どうなの間宮。付き合ってくれるの?」

「あ、うん。構わないよ」

「私も、ダメ?」


 レイラは、なぜか分からないが真也へとそう告げていた。しかし、その言葉に真也よりも早く返答する声があった。


「レオノワさん、悪いけど『男同士』で遊ぶんだ」


 そのように告げる伊織は、どこか満足そうな表情だった。

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