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027 おわり、そしてはじまり

 まひるとの邂逅の翌日、真也とまひるは登校前の早い時間に、レイラに報告する事にした。


 集合場所は、真也たちの家の最寄駅にあるカフェだった。

 解決したことと、それを会ってきちんと伝えたいとレイラにメッセージで伝えた際、レイラから提示された場所である。


 真也は、まひると共に朝の住宅街を歩いていた。冬の朝は、空気が澄んでおり、独特の静けさが感じられる。


 まひるは、真也の腕にくっつきながら歩く。


「まひる、あんまりくっつかない方が…」

「えー…寒いもん」

「…しょうがないな。まひるは」

「えへへ」


 わざとらしく首を竦めるまひるだったが、オーバードなのだからこれくらいの寒さは平気だ。

 しかし、真也は野暮なことを言わず、まひるの甘え症に付き合ってあげる事にした。


 …まあ、まひるも、好きな人ができたら変わるかな?


 そんなことを考えながら、カフェを目指すのであった。


 カフェに着き、レイラと合流する。

 それぞれカウンターで注文した飲み物を手にボックス席に座ると、真也はレイラに昨日のことを説明した。


「…そういう訳で、昨日、解決したよ。まひるはこの世界の兄と、俺は別人だ、って理解してる。まひるの中に、彼はちゃんといるよ」

「うん。全部思い出したよ。ちゃんと、まひるの中で、整理できたよ。

 …レイラさん、心配させて、ごめんね」


 レイラは静かに聞いていたが、その顛末を聞き、目尻に涙を溜めて、口を開いた。


「そう、よかった。本当に、よかった…まひる、もう、心配させないで。心臓、止まった」


 そう告げるレイラの口調は、どこか姉のようだった。

 まひるは、レイラの言葉にしゅんとする。


「でも、解決した。だから、もういい。

 …真也、ありがとう。頑張ったね」


 レイラの穏やかな表情と、朝の日差しが反射する金髪に、まるで絵画のような印象を受ける。


 真也はその笑顔が向けられていることを、こそばゆいながら嬉しく感じた。


「俺の頑張りだけじゃない。レイラの言葉のおかげだよ」

「…え?」

「前に言ってくれたでしょ? 俺の妹のこと、かわいそうだ、って。その言葉を思い出してさ、このままじゃいけない、って踏ん切りがついたんだ。

 …俺『たち』で、解決したんだよ」

「そう。なら、とても嬉しい」


 レイラは少し気恥ずかしそうに髪を耳にかきあげると、目線を外すように首を横に傾けた。

 そして、再度自分の向かいに座る2人を見る。


「でも、4人兄妹、ね。ステキなことだと、思う」


 レイラは、2人の話に出てきた、これからの2人の関係性について、感想を述べた。

 レイラから見て、2人は、本当に仲の良い兄弟に見えた。


「うん。ありがとう、レイラさん。まひるの、自慢のお兄ちゃんだよ」


 レイラは、笑顔でその言葉に応えた。



 人心地が付いたところで、真也は、話を次に移す。


「…そういえばさ、津野崎さんから聞いたんだけど、レイラって来年から東雲なんだよね?」

「そう。推薦が、来た。ツナギの、勝手に喋ったの」


 レイラが少し、むっとする。


「私から、まひるに、言いたかった」

「…あ、ごめん」

「え! そうなの!?」


 真也が申し訳なさげに首をすくめ、まひるはそれと正反対に、満面の笑みでレイラに聞き返した。


「うん。だから、来年から、まひると同じ」

「本当に!? やったぁ! 来年からレイラさんと一緒に通学だね!」

「うん。起こして」

「それは頑張って?」

「…うん」


 はしゃぐ2人に置いてけぼりにされながら、真也はおずおずと自身の進路を発表する。


「それでさ、俺も…来年から東雲学園に行くことになったんだよ」


 まひるは、先ほどよりも大きな反応で、真也の進学を祝い、レイラは驚きに目を大きくした。


「え? ホント!? すごいすごい!」

「じゃあ、3人、一緒。四月、楽しみ」


 にこり、と笑うレイラの顔に、ふと一筋の陰がかかる。


「シンヤは…行けなかった…ね」


 真也とまひるはその言葉を聞き、ハッとした。レイラの言う、『シンヤ』が誰のことか思い至ったからだ。


 その反応にレイラは、自身がたまにやらかす、空気を読めない発言をまたやってしまった、とうなだれる。


「あ、ごめん。また、私…」


 暗い顔のレイラの、テーブルに置かれた手を、まひるが優しく掴む。


「ううん、いいんだよ、レイラさん。

 その通りだもん。…だからね、レイラさんも、もちろんお兄ちゃんも。みんなでめいっぱい一緒の学校、楽しもう? 

 …きっとその方が、死んじゃったお兄ちゃんも喜んでくれるよ」


 まひるの言葉に、レイラと真也は力強く頷いた。


 真也がカフェの壁掛け時計を見ると、そろそろ出発しなければいけない時間だった。


「もうこんな時間か。

 じゃあ、悪いけど、俺は先に出るね。東異研に行かなくちゃいけなくて」


 真也は、四月まで学校へ行くことはないものの、追加の調査や実験のため、東異研へと行かなければならなかった。


 特に今回に限っては、津野崎にまひるとの問題の解決を伝えること、そしてまひるが東雲学園に通っていた事を黙っていた理由を聞いて困らせる、という大切な2つの用事もあった。


「うん、行ってらっしゃい!」

「いってらっしゃい」


 真也は2人に見送られ、カフェを後にした。



 真也を見送った2人も、まもなく学校へと行かなければならない。


 しかしまひるは、先ほどのレイラの言葉が気になっていた。


「レイラさん。お兄ちゃん…その、お兄ちゃんが死んだこと、悲しんでくれてるんだね」


 まひるの言葉に、レイラは頷く。


「それは…そう。だって、私の、初めての友人で…」


 顔を俯けるレイラ。所在無く指を絡ませるその姿に、まひるはレイラの代わりに、言葉を続けた。


「好き、だった?」


 まひるの問いにレイラはピクリと反応すると、薄っすらと、悲しそうな微笑みを見せた。


「…かも、しれない」

「…そっか…」

「でも、オーバードで、軍人。避けられない、こと」


 レイラは顔を上げ、まだ悲しそうではあるが、割り切った、と言わんばかりに強い声でまひるに告げた。


 それは、たしかに避けられないことだった。


「そう…だね…」


 そして、避けられなかったことだった。


 死んだ兄は、新しい兄のおかげで、まひるの心の中に戻ってきた。

 しかし、心に戻ってきた兄の、二度と戻らない現実は、まひるを意気消沈させる。


 沈み込むまひるに、レイラは自分を鼓舞して口を開く。


「私、直ぐには、立ち直れない、かも。

 でも、ずっと下を向いてたら、きっと、また、茶化される。

 『下を向いたって、地面しかないぞ』って」


 その言葉は、まひるやレイラが落ち込んだ時に、シンヤがよく言っていた軽口だった。


「…うん。そうだね」


 レイラは、先にカフェを出た真也が歩いて行った方を見据え、まひるに伝える。


「まひる、あの真也は、きっと死なない」

「そう…かな?」

「うん。強い。とても」


 それは、まひるへの励ましであり、


「だけど、心は、弱い。まひる、支えて、あげてね?」


 お願いだった。


 まひるはその言葉を聞くと、いつまでも落ち込んではいられない、と気合を入れ、レイラと約束する。


「うん。分かった。ちゃんと、支える」


 そのまひるの様子に1つ頷いたレイラは、席を立つ。


「じゃあ、私、学校へ行く。まひるも、急ぐと、いい」

「…うん。そうするね!」



 レイラがカフェから去り、まひるが1人取り残される。



 ぼそり、とまひるが口を開いた。


「…いまは、妹でいいよ。ちょっとずつ、ちょっとずつ」


 間宮まひるは、2人の人間を1人にすり替えた経験がある。

 その経験が言っていた。


 まだだ、と。


 まだ、間宮真也は、自分と元の世界の間宮まひるを重ねている。


 それではいけない。

 それでは、いつまでも彼の妹のままだ。まずは、自分を一人の人間として見てもらわなければならない。


 しかし、いま離れてしまっては、チャンスを逃す。


 その為に、彼が妹と自分を重ねた状態にしておかなければならない。


 その上で、ちょっとずつ、自分は彼にとっての異性になる。


 目的と手段と障害と打開策が、すべてちぐはぐで、困難な道のり。


「えへへ…」


 しかしそれでも、間宮まひるは笑っていた。


 書類上、彼と兄妹ではない。血も混じっていない。ならば、その程度など何の困難でもなかった。


「お兄ちゃん、私、お兄ちゃんみたいな人がタイプだったんだ。

 …お節介で、寂しがりで、まひるに、やさしいひと。そして…」


 まひるは、昨日のことを思い出す。


「お兄ちゃんですら出来なかった、逃げたまひるを、見つけてくれたひと」


 まひるの部屋へと乗り込んできた彼は、まひるにとってヒーローだった。


「お兄ちゃん、まひる、好きな人ができたよ」


 まひるは死んだ兄を思い出し、瞳に涙を浮かべる。


「真也さん。いつかぜったい、まひるが、振り向かせるから」


 それは、恋する乙女の宣言だった。


「だから……絶対、離さないからね? ずぅっと、一緒にいようね?」


 頬を赤らめ、窓の外を見る彼女の目の奥には、薄っすらと鈍い光があった。


第1章、これにて完結です。


第1章……

楽しんでいただけたでしょうか?

(だと、いいなぁ)

好きなキャラクターは見つかりましたでしょうか?

(まだ、数人しかいないですけど)

誤字とか…ありませんでしたでしょうか?

(それは自分で確認すべき)


自分が書きたいように書いている作品ですが、みなさんにもまた、楽しんでいただければと思っております。皆様の想い(があれば、そして、気が向けば)是非お聞かせください。励みになります。


本作品を読んで下さった方、ブックマークをして下さった方、評価して下さった方、ありがとうございます。この場を借りて、御礼申し上げます。

また、投稿前に本編の推敲や展開の相談に乗ってくれているN氏にも、多大なる感謝を。



第2章では、(2019/1/16執筆現在)大量のキャラクターたちが出てきてます。学園ものになるわけですから…当たり前ですね。ヒロインも全員登場します。書き分け、キャラ立て、頑張っております。


このあと、閑話を2つと、第1章のあらすじと登場人物を挟みまして、第2章へと続きます。


では、長くなりましたが、この後続く第2章でまたお会いできるのを、楽しみにしております。



浅木夢見道 2019/1/16記

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[一言] 面白い!! まだ途中ですが、思わずコメント失礼します。 ここから先も楽ませてもらいます!
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